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これが、不器用な人間の人生を救う漫画だ!

 うっわー、めんどくさっ!

集団行動できないトラブルメーカーの好みっぽい!
絶対コイツと関わらんとこ……。

 そう思ったならいい線いってますよ。この #私を構成する5つのマンガ ってモロに価値観が出るし、なんらな人生すらもわかってしまう魔力がある。
 ではでは、これら5作に共通する要素が何か、あなたには分かるだろうか?


そう、答えは「人間賛歌」だ!

 どの作品も共通して、人知を超えた存在と劣等種たる人間との対立構図がある。強大な敵との戦いを通して、誇りや絆といった人間の素晴らしさが語られるわけだ。
 少年漫画であるなら、勿論アクションやバトルの要素も重要なんだけれど、名作を名作たらしめるのは多くの場合テーマの描き方だ。


 なぜ、少年漫画でもテーマが大事なのかというと、多くの人生が順風満帆ではないからだ、ということになる。そして子供の世界ほどそれが固定化されている。
 誰しも思春期までには、生まれや育ち、あるいは逃れ難く直面した危機などによって、生涯をかけて付き合わねばならない何か厄介な命題を背負わされる。
 あなたにも心当たりはないだろうか。それらは一般的に運命と呼ばれる

 漫画に登場する強大な敵は、運命のメタファーなんだと思う。だからこそ共感を呼ぶ強烈なテーマ性を持ち、だからこそ読み手の人生を救える可能性がある。
 ちっぽけな人間が意地をたぎらせ、誇りを叫び、仲間と力を合わせて立ち向かっていくさまが、人生の路頭に迷う我々を勇気づけてくれるのだ!!


 しかしここまで書いて、ふと違和感が生じた。ついさっきまで、僕は矮小な人間の、矮小であるが故の意地が好きなんだと思っていた。でもどうやらそれは少し違うようだ。本当にそれだけか? というモヤモヤが僕の中でくすぶっている。
 どうしてだろう、何かが足りない気がする……


 だってほら、僕は『ジョジョ』2部で主人公のジョセフが、倒したワムウに敬礼するシーンがたまらなく好きだもの。『ARMS』のお気に入りも悪の人造人間キース・シルバーで、彼の無駄にも思える最後の戦いが好きなんだもの。重要なのは単純な人間賛歌じゃないんだ。


人生の祝福と救済 

 そうだ。ポイントは、キャラクターの生が祝福されることなんだ。
 生き方や価値観や置かれた立場。そういったものへの理解と共感と賛辞。これだ。僕の好きな要素は!
 戦いには勝者と敗者がいて、ハッピーエンドを迎える者がいれば、悲しい最期を迎える者もいる。主人公を苦しめた強敵にもいずれ倒される時が来る。立場や信念に関係なくその時はやってくる。
 でも、彼らは肯定される。例え敗者でも。例え死しても。例え敵であっても。彼らの思いは果たされる。受け継ぐ者たちによって。
 『ダイの大冒険』のハドラーも『ヘルシング』のアンデルセンもそうだ。自身の在り方に決着をつけるため、読者にとっては不合理にも思える戦いで果てた彼らの生涯は、奇しくも宿敵の涙と敬意によって祝福された。

 ここに挙げた作品は、どれもそういう印象的な最期のキャラクターたちが登場する。僕が好きなのはこの要素だった。必死に運命に牙をむいた者達が、その結果の如何によらず、その思いを尊重されること。
 『うしおととら』にも信念に殉じたキャラクターが何人か登場するけれど、作者は公式に「登場人物は全員幸せになりました」とコメントしている。こういった生きざまに、明確に救いが与えられているのだ。


これってつまり、僕らの人生へのエールなんですよ。

 生まれや育ち、個人には動かしがたい厳然たる社会のあり方。どうにもやり切れない巡り逢いにすれ違い。僕らの人生に付きまとう、存在を押さえつけては望まぬ形で規定してくる外圧。
 僕らには僕らの意思があるのに、それは尊重されず、抗いがたく歪められてしまう。そのゆがみひずみは、僕らが人生でずっと背負っていく命題だ。
 なんで世の中はこんなにも理不尽なんだろう。順風満帆な人生を約束されて生まれてきた連中がいる中で、自分のこの人生は一体何なのだろう。そこに差す一筋の光、救済の可能性がこれらの漫画が持つ魅力なんだ。

 キャラクターたちの意地と誇りの発露の果てに、生きざまが肯定され、祝福される。その影響が後世へと継がれていく。同じように、僕たちの中にある痛みも、いつか報われる時が来るのかもしれない。
 今歯をくいしばって耐えている痛みも、あの日流した悔し涙も、あの夜の慟哭も、いつかどこかで、何らかの形で結実することが、もしかしたらあるのかもしれない。これらの漫画たちは、そう思わせてくれる。そういう希望がある。

 最後にジョジョ5部から、象徴的なモノローグを紹介しておきましょう。

彼らがこれから歩む『苦難の道』には何か意味があるのかもしれない………
彼らの苦難が………
どこかの誰かに希望として伝わっていくような何か大いなる意味となる始まりなのかもしれない…


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TROUD
コミュニケーションと普通の人間について知りたい。それはそうと温帯低気圧は海上に逸れました。よかったですね。