あこがれ
「最初と最後の一文が決まった文」を、7人で書きました。書き始めは「向日葵の花言葉をはじめて調べた」、書き終わりは「ビールが苦い」です。
https://note.mu/ikeikeikkei/n/n9a50800cc95b
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向日葵の花言葉をはじめてしらべた。
さっきからやることがないから。
1人で飲み屋で過ごすのがはじめてで、
今更恥ずかしくなってきたから。
下を向いてスマホを指でなぞってる。
こんなに酔うのは久しぶりで。
頭の中はぷかぷかしてる。
向日葵と言えば枯れた姿が不気味で嫌いだけど、
でもあの人の笑顔は、たしかに真夏のそれのようだった。
花言葉は「あこがれ」。
昔の人はよく考えたなと思う。
彼に比べて、私には何もない。
私は誰かをホッとさせたりなんてできない。
楽しませることもできない。
友だちも数人しかいない。
生まれてきた意味なんて誰にもないと、私は思っているけれど、
でも彼にはそれがあるような気がするから、意味がないのは私か。
私は彼が好きだった。
二人で横たわる夜、芯まで温もりが届く前に、いつも彼は腕をほどいた。
窓の外を見るその背中は、何を考えていたの。
バカな私はさすってしまう。
滑らかなTシャツごしに伝わるあなたの体温。
あたたかくて、とても冷たい湿り。
私はきっと、ただのくたびれた暖炉だった。
壊れかけて、弱い火をともすだけの、情けない、
あなたが背を向けて眠るまでそっと燃える暖炉。
ずっと魂を燃やしていた。ほんの小さな魂だけれど。
でも今日でそれも終わり。
もう燃やすものがなくなったから。
今の私は、ただの冷たい鉄の箱。
魂はきっとまた帰ってくるよね。
送別会を断ったのは、私なりのささやかな復讐だった。
あなたの私を見る寂しそうな目が勝手すぎて、愛おしくて、
最後にどうしても見ておきたかったから。
断っておくけど、私恨んでなんかない。
恨んでたまるか、とも思ってる。
恋のほとんどは、ロマンスなんかじゃないものよね。
ごめんねもありがとうも言わない。
さようならも言わない。
私たちは、何も始まっていなかったから。
これを飲んだら帰ろうと思ったけれど、
なかなかなくなってくれないね。
あの人が好きだった、
私が好きになれなかった、
ビールが苦い。
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