ローカル局は災害にどう対処するか〜各局の能登半島地震報道まとめ〜
筆者は能登半島地震をテレビ局がどう伝えたか、情報収集してきた。
まずテレビの放送内容をデータ化するエム・データ社に依頼し、関東・関西・中京地区の1月1日の各局の放送データをもらい、その中で地震についてどう報道されたかを東洋経済オンラインで記事にした。
この記事の作成過程で地震の被害に遭った石川県・富山県・新潟県の各局からの情報も求めた。各局のお問合せ窓口から問い合わせ、知ってる方がいる局の情報はメールでもらったりしたがかなり時間がかかった。それをようやくまとめて記事にしたのがこれだ。
ただ、この時点でも2局の情報が足りてなかった。それもようやく揃ったが、東洋経済オンラインに続きとして掲載するタイミングは逸してしまったのでここでお伝えしたい。
災害報道を続ける意義、通常番組に戻る意義
まず1月1日の放送での地震報道について。石川県から見てもらおう。
先に復習すると、関東の民放は16時13分前後に一斉に正月番組から地震報道にカットインした。その後、21時には他局が正月番組に戻った中、TBSだけは引き続き報道を継続した。
石川県でもTBS系列の北陸放送が地震報道を続けた。黄色い部分はキー局発の報道部分で赤色がローカル発の部分。北陸放送は能登現地にスタッフがいたこともあり、ローカル発でも数回に渡り伝えている。
また石川テレビはフジテレビが21時10分に正月番組に戻った後も、地震特番を続けている。
その結果、21時以降は2局は地震報道、2局は正月番組を放送している。たまたまだろうが、県民にとってはいいバランスだったのではないだろうか。発災後すぐ日が暮れた上、最も被害が大きい能登半島の様子は把握しにくかった。それでもわずかな情報でも知りたい人もいれば、ずっと地震報道を見続けるのはしんどい人もいただろう。
災害時のテレビの役割には大きく2つあると思う。1つは刻々と変化する災害情報をリアルタイムで伝えること。もう1つは、緊迫した気持ちを和らげる娯楽番組を放送すること。そのバランスはケースバイケースとしか言えない。示し合わせたわけではないだろうが、NHKが全国的に地震報道を続けたことも含めて、石川県ではいいバランスの放送になったのではないか。
富山県、新潟県も似た状況だ。
この2県でも、キー局発の地震報道の合間にそれぞれローカル発の部分を織り交ぜて放送している。そしてTBS系列の富山のチューリップテレビ、新潟の新潟放送が21時以降も地震報道を継続。それ以外では、新潟の日本テレビ系・テレビ新潟放送も21時以降に地震報道を継続している。富山が3局エリアであることも含めて考えると、それぞれいいバランスの放送だったように思える。
テレビで、そしてあらゆる手段で伝え続ける
次に、各局の2日3日の地震報道とL字放送についてまとめた表をお見せする。縦長にしたのでスマホでも読みやすいと思う。
1月1日に情報が取りにくかった分、2日や3日に各局が特番を組んで独自の報道をしている。フジテレビ系列は2日8時30分からキー局の特番があり、石川テレビと富山テレビはその前の時間に自局発の特番を組んで続けて編成している。
L字は富山新潟は1月2日までだったが、石川県の4局は3が日後も1月末〜2月初旬まで出し続けている。能登半島をエリアに持つ局としては必然だっただろう。
次にネット活用とその後の特番など。
今回は放送や通信が繋がらない地域が出てきて、広範囲で停電が続いた。放送なら大丈夫、というわけでも、ネットなら万全、というわけでもない。
だからこそ、テレビ局がネットで報道する意義も大きかったと思う。またネットでのデマやフェイクニュースがこれまでの災害よりずっと多かった。AIの進化やXのルール変更で意図的なデマが起きやすくなっている。確かな情報を伝えるメディアとして、テレビ局のネット報道の役割は増したと思う。実際、地震報道を切り出したいくつかのYouTube動画が100万回を超えて再生されていた。
また発災1ヶ月を節目にした特番が多かった。能登半島では地震情報と共に被災者たちの状況を伝える意義も大きく、特に石川県の局にとっては、まだまだ能登半島地震は終わっていない状況だろう。
情報を寄せてくれた局の中には、ラジオについてもどう伝えたかをまとめていた方もいた。私は質問項目に入れていなかったのだが、情報をもらってから、ラテ兼営局には聞くべきだったと反省した。テレビとラジオが並行してどう地震を伝えるかは被災者から見ると重要な観点だし、こういう時にこそ、兼営局の存在意義はある。留意すべき点として、今後忘れずにいたい。
「日本人の急所」を突いた地震から何を学ぶか
さてこうした情報とは別に、反省点や思うところも書いて送ってくれた方もいた。
ある方は、今回の地震で対応が遅れた理由を2つ示してくれた。
・元日というローカル局にとって一番人員が手薄な日に起きた
・支局カメラマンを置いている局はあるが、カメラマン本人も被災しているため十分に取材で動けなかった
非常に特殊なタイミングで、特殊なエリアを中心とした地震が起こった、ということだと思う。
別の局の方は、似た内容をこんな風に書いてくれた。
「今回の震災は、ある意味、日本人の急所をあらゆるところからついてきているのではないかとも思いました。元日の夕方、1年で最も幸せな時間のはず。が、道路一本挫かれただけで、すべてが止まってしまう」
ここから想像を広げると、おそろしくなる。「日本人の急所」は正月の能登半島だけではなく、そこここにあるはずだ。
日本人がいちばんゆったりできるはずの元日にも、大きな災害は起きる。そこに局員がいても、自身が被災してしまう。そして日本には何かあれば閉ざされてしまいかねない地域は多い。
「こうした現象に放送局に何ができるのか?放送はどれだけ命を守れるのか?あらためて自戒する日々です。」
とも書いていた。発災からもうすぐ丸2ヶ月が経つ。総括するにはまだ早いだろうが、「何ができるのか?」を少しずつ考え、話し合う時かもしれない。
例えば元テレビ朝日で武蔵大学教授の奥村信幸氏は1月12日にYahoo!ニュースにこんな記事を載せている。
ネット活用については各局ともYouTubeでのニュース配信など奮戦したわけだが、奥村氏はYahoo!が作った「災害マップ」を取り上げている。被災地で必要な情報をマッピングすることは即役立ちそうなソリューションだ。民放も乗っかってもいいのかもしれない。
それも含めて奥村氏が「コラボレーションが必要だ」と書いているのも重要と受け止めた。民放同士、そしてNHK、さらに新聞社も含めた横の連携が災害時には必要ではないか。「何ができるか?」の一つの答えとして、検討すべきテーマだと思う。そしてそのためには、事が起こる前に話し合っておく必要があるだろう。
公共の「共」を担う民放の役割は何か
ここ数年の放送業界の議論の中で「公共的役割」という言葉が浮上しているように思う。NHKが公共放送で民放はそうじゃない、ということではなく、どちらも公共的役割を担うメディアだ。メディアには元々そういう本質がある上に、公共の財産たる電波を使う放送局には、民間であっても公共的な側面が強い。
民放にも問われる公共性がはっきり求められる機会が今回の地震のような災害だ。災害時に何をどうするかを、民放が一緒に議論しておくことは必要なことだろう。そしてそこには、NHKも加わるべきはずだ。
「公共」という言葉は、よく見ると「公」と「共」が併存している面白い構造だ。それぞれに放送局を当てはめると、こうなると思う。
NHKは今回も災害報道で頑張った。ただNHKの地方局の職員は”赴任”してきた人たちだ。民放の社員も、必ずしもその地域で育ったとは限らないが、入社したら地域を離れるのは東京支社に一時的に異動した時くらいだろう。地域と共に暮らし、地域と共に年をとる。
NHKは公の放送局として地域に貢献する。だが民放は共に生きる者として地域で地域を支える。民放は公共的役割の「共」が強い放送局だと言える。
地域と共に生きるメディアは、今後ますます災害時の役割は高まるし、一緒に地域を支えるべきではないか。そう考える人も増えていると思う。
能登半島地震からメディアは何を学ぶべきか。もうしばらく追っていきたい。
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