放送業界の解決策は「話すこと」ではないか(たぶんどの業界でも)
放送業界は未曾有の危機に瀕している。何が課題で、どうすればいいのか、割とはっきりしていると思う。誰に聞いても、そんなに違わないことを言う。あそこに課題がある。そこに問題がある。こう解決すべきだ。こんな打開策がある。
それなのに、どのテレビ局も具体的な動きが見えてこない。なぜだろうと不思議に感じる。
足りないのは「話すこと」ではないか。
経営者が危機感を持っているなら現場と話すべきだ。正しい対策が見えているなら、社員たちと話すべきだ。動きが見えないのは、それが足りてないからではないだろうか。
会社同士、業界同士もそうだ。互いに牽制し合い用心し合うあまり、手に手をとって力を合わせる空気が生まれない。問題は共通していて、一緒に取り組めば突破口が開けそうなのに。本音で話すだけで打ち解けあい、団結できるはずなのに。見えてくるのはむしろいがみあい。外から見ていると歯がゆくてしかたない。
6月28日(水)のウェビナー「辞めテレ教授が好き勝手にテレビを叱る?!」を企画したのも、「話す場」を作りたかったからだ。登壇してもらうのは、以下の4人の教授たち。
影山貴彦氏(同志社女子大学教授・元毎日放送)
大場吾郎氏(佛教大学教授・元日本テレビ)
脇浜紀子氏(京都産業大学教授・元読売テレビ)
山本名美氏(京都先端科学大学教授・元テレビ東京)
テレビ局の中の人だった4人の教授が外に出たからこその視野で、参加者に話してもらう。それに対し参加者からも話してもらう。互いに話すことで、何かが実るのではと考えたのだ。そんな私の発案に応じて、教授たちも真摯に考えてくれた。そこで皆さんに向けたメッセージを書いてもらったのでぜひ読んでほしい。
影山貴彦氏からのメッセージ
辞めたいと思ったこと、ありますか?(「ふぞろいの林檎たち」山田太一風)
みなさんこんにちは。同志社女子大学の影山貴彦です。アナログな人間なモノですから、オンラインでのこうしたお仕事は、普段ほぼお受けしないんですが、境さんからのご依頼であることと、テーマが面白く、みなさんとやり取りできることが楽しみで、参加させて頂くことにしました。
中学1年の時から放送局で番組を作りたいと強く願っていたものですから、テレビ・ラジオへの愛情は半端ないものがあります。「じゃ、どうしてやめたの?」ときっと思われるでしょうけど、そのあたりは当日にでもお話ししますね。ただ、はっきり申し上げられるのはイヤになって辞めたという部分は1ミリもないということです。
イベント当日は、ボクがトップバッターでお話させて頂けるようなので、可能な限りみなさんが楽しく本音でおしゃべり頂けるような雰囲気を作ることができたらと思っています。元々、そんなことしか取り柄がないものですから。
Q「お勤めされている会社を今まで辞めたいと思ったこと、ありますか?」
1、全くない
2、ごくたまにある
3、時々ある
4、もう四六時中
こんな感じの質問を近々させてもらおうと思ってます。
私への質問も何なりとよろしくお願い致します。
答えられることはなんでも答えますっ!
それでは当日楽しみにしております。
大場吾郎氏からのメッセージ
海外展開、どうする?
私は元々研究の道に進むために日本テレビを辞めたわけではなくて、メディアのグローバル化に関心があったので、当初は割と真剣に外資系メディアへの転職を考えていました。具体的にはディズニーとかワーナーとか面白そうだなと思っていました(さしずめ今日ならネットフリックスあたりを目指していたかも?)。ただ、日テレ在籍中はずっと番組制作現場にいたので、一度メディアについて理論的なことも学んでみたいと思い、まずはアメリカの大学院に行くことにしました。ところが調査研究が結構面白くて、寄る年波もある中で博士課程まで進むことになり、結局研究者に収まった感じです。
その頃から一貫してコンテンツの国際流通に興味があり、これまで書いたり、話したりしてきました。取材を受けることもありますが、そこで特によく聞かれる2つの質問を今回は実務家の皆様に問いかけてみたいです。1つ目は「どのような番組なら海外でもヒットするか」という質問ですが、これがなかなかの難問でいつも返答に窮します(自分が答えられないものを人に振るのも心苦しいですが…)。もちろん海外市場と言っても実質的には様々で、それを1つにして議論するのは乱暴ではありますが、そこはざっくりと行きましょう。2つ目は「日本の放送局にとって海外ビジネス展開は本当に必要なのか」という質問です。確かに過去10年くらいの間にキー局もローカル局も様々な関連施策が行われるようになっていますが、現実には局によって温度差はあるでしょうし、ややもすると理念や義務感が先行し、収益などの面から疑問視されることもあるのかもしれません。本音の部分を伺えれば幸いです。
脇浜紀子氏からのメッセージ
いよいよ「テレビ局がつぶれる日」が来る?
いきなり過激な見出しですいません。「テレビ局がつぶれる日」は、かつて私が東洋経済新報社から上梓した本のタイトルです。1999年から2000年のアメリカのドットコムバブルの絶頂期にロサンゼルスに留学、帰国して2001年12月に出版しました。AOLがタイムワーナーを買収したり、DisneyがGo.comというポータルサイトを始めたり、旧メディアが新メディア(インターネット)に翻弄されるメディア変革の激動を目の当たりにして、日本のテレビ局もこれに備え、デジタル時代を迎えようと呼びかける内容でした。それなりの覚悟を持っての出版だったのですが、当時、勤務局含め国内テレビ業界の反応は、ほぼスルー・・・。
しかし、2005年には、ライブドアがニッポン放送(フジテレビ)を、楽天がTBSを、それぞれ買収に乗り出し、放送と通信の融合を目指しました。この試みは、旧メディア側が全力で阻止する形で未遂に終わったわけですが、今でも時々考えます。あの時、もし、この買収が実現していたら、日本のメディアは、日本の社会は、どうなっていただろうと。これについて、皆さんの意見も聞いてみたいです。
そして、私自身の研究分野は、地域メディア・地域情報です。ローカル局の皆さんに質問してみたいのは、もし仮に、系列の縛りもなく、予算も気にせず、自由に地域情報番組を編成できるとしたら、どの時間帯にどんな番組をやりたいか、です。この問いを立てることが、地域住民ファースト思考のスタート地点だと思うからです。テレビ「局」は、もしかしたらなくなるところが出てくるのかもしれません。でも、地域情報を伝えるテレビはなくならないし、なくしてはいけない。その中心の担い手は、今、ローカル局で働く皆さんです。一緒に考えましょう。
山本名美氏
「テレビ局」から〇〇会社へ
この3月に長年つとめたテレビ東京を早期退職したばかり、大学教員一年生のペーペーです。京都アカデミアの先輩方にお声がけいただき、今回末席で参加します。
長年経済報道記者として他の業界の栄枯盛衰と経済政策を取材。7年前にメディア戦略室に異動して以降は記者のセンスをフル回転させながら総務省と向き合い、放送局ビジネスのあるべき姿を必死に考え行動してきました(直近までTVerデータや視聴データのルールメイキングに携わっていました)。
ということで、私自身まだあまりに当事者すぎて、心情的には皆さんと一緒に先生方の質問を考える立場。従って私からの質問は無しにさせて頂きました。(先生方、境さん、ワガママ聞いていただきありがとうございます)
経済記者的に言うと、日本のテレビ局は「放送」という"美味しい"プラットフォームビジネスからの脱却を迫られて久しいのですが、次に何の会社になるのか、まだ悩んでいるように見えます。テレビ局から〇〇会社へ!皆さん一人ひとりが答えを探して行動するためのヒントを一緒に探せればと思います。
読んでいて、じーんと来た。それぞれのメッセージに真摯な想いが詰まっているのが伝わったことと思う。感じるところがあったら、28日にぜひお集まりいただければ嬉しい。そしてあなたからもパネリストの皆さんに聞いたり意見を言ったりしてほしい。意見は事前にも募るので、匿名で質問できる。(全て取り上げられるかはわかりません)
ここで「話すこと」が放送業界の答えの糸口になるかもしれない。それぞれが具体的に動き出すきっかけになるかもしれない。そしてできれば、「話したこと」を仲間にも話して、輪を広げてもらえればとも思う。
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