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映画「愛に乱暴」幸せに見える日常に不穏がふくらむ

江口のりこ主演映画多すぎじゃね?とブツクサ言いつつ予告編に感じた不穏に惹かれて見に行った。

終始カメラが主人公の行動を写しとる。手持ち、正確にはスタビライザーでカメラが追うので手ブレはないが不安定なアングルでそれが彼女の心に潜む不穏を見る者に感じさせる。この撮り方がこの映画の大きな特徴で、映画の本質があると思う。
子どものいない夫婦が、夫の親の家の離れに住んでいる。義父は少し前に亡くなったらしく母家には義母が住んでいる。ありがちな嫁姑の対立はなく、義母は気を遣っている。その気遣いは息子の嫁と親密になった結果ではなく最初から親密な関係はなかったとしか思えない。夫は夫でそもそも家にいる時間が少ない。食事をせっかく準備しても食べてきたと言う。
専業主婦だが唯一、週2回の「手作り石鹸教室」の講師をしている。会社員時代の延長の仕事らしく昔の上司が責任者だがどうやら会社としてやる気がない。そんな中、近所で不審火が何回も起こる。主人公の周りは一見穏やかで幸せなようで、どこもかしこも不穏が漂っている。観客は不審火の犯人が誰かに引っ張られて、この不穏さが溜まりに溜まって爆発するのではと怖くなる。ヒューマンサスペンスと銘打たれていて確かにサスペンスフルだが、そういう分類不能の映画かもしれない。
やがてわかる、観客に隠していた主人公の哀しく切ない過去。だから義母とぎこちなかった。夫が家に居つかなかった。猫が象徴していた者が何かを知ると、いたたまれない気持ちになる。
最後に彼女はどうなったのか。次へ進めるのかわからない。そもそもこの物語に解決などない。苦しいけど新しい語り口の、さまざまに考えを巡らしたくなる映画だった。きっと人によって受け取り方は違うのだろう。あからさまな「言いたいこと」がある映画より私は好きだなあ。

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