ネトフリジャパン批判に乗っかって、5年前の愚痴を書いてしまう
数日前、noteでこんな記事を見かけた。
ほほお、と思った。Netflixは好きだけど日本支社の人たちはプロモーションが良くない、とざっくり言うとそんな内容だ。「ネトフリジャパン」という言い方も一部に定着していて、Netflixのサービスと分けて批判するちょっとした潮流もある様子。おおむね賛同だ。
そして思い出したことがある。私も5年前に”ネトフリジャパン”に感じ悪い仕打ちを受けたのだ。それもやはりプロモーションがうまくいってないんじゃないか、というところが発端。もう時効だよね、でもおんなじようなことだよね、ということで、いい機会なので書いておきたい。
上陸時、私はNetflixにいちばん(?)詳しい人だった
そもそも私はSVODサービスを待望していた。ひとりの映画好きとしても、メディア研究者としても、SVODで日本のコンテンツ業界は一転すると睨んでいた。だからNetflixには大いに興味を持っていたし、2015年初めにさる筋から9月日本上陸の情報を得ると、情報解禁に合わせてこんな記事をAdvertimesに書いた。
さらに、つてを辿って当時メンバーが集められつつあった、Netflix日本法人の人たちに接触した。そう、ネトフリジャパンな方々だ。
あちこちで「待望論」を書いていたせいか、ネトフリジャパンの人びとはみんな私を知っていて歓待してくれた。そこで知ったことをまた記事にしたりして、いつの間にか日本の業界ライターの中でもNetflixに詳しい方になっていた。
6月半ばにはNetflix自身がベールを脱いで情報発信するようになり、皮切りにフジテレビとの提携を発表した。この時、Netflixの日本法人トップ、グレッグ・ピーターズ氏とフジテレビの大多亮氏が並んで会見を行った。さらに土曜日の午前5時という超早朝に放送される「新・週刊フジテレビ批評」でピーターズ氏に私がインタビューすることになった。
その時のことを書いたブログがこれだ。
この時、みんなが聞きたいスタート日程や価格などを聞くのだが、実際に何も決まってなかったらしく「まだわかりません」の連続だった。グレッグはそのことを申し訳なく感じてくれ、後日決まった価格を電話でいちばん先に私に教えてくれた。いいヤツだなあ。
9月にはローンチパーティが大々的に開催された。翌日には、NetflixのCEOリード・ヘイスティングス氏に個別取材もできた。これはメディアごとにヘイスティングス氏が時間を取ってくれホテルの部屋も用意するもので、新聞社などと並んで私もひとつの部屋を用意してくれた。
ヘイスティングス氏へのインタビューについてもブログに書いた。
そんな風に、Netflixに近い距離で話を聞くことができ、自分としても待望のサービスだったのでとにかく何かにつけて書いたし講演で話した。メディア研究者の中には、日本は無料の放送が強いので有料のNetflixは成功しないと言ってのける人もいたが、わかってないなと思った。
Netflixは放送の視聴者ではなくレンタルビデオのユーザーにとって格好のサービスで、放送が無料だから伸びないというのは的外れだ。レンタル市場をTSUTAYAなどから奪って成長し、やがては放送の視聴時間も侵食してくる。それが私の見立てだった。そして実際、去年はっきりそうなったのはみなさんも感じているところだろう。
また、外資は日本の市場を学ぼうとせず、うまくいかないとさっさと撤退すると言っている人もいた。ヘイスティングス氏と直接話して、彼は日本で成功するかどうかではなく、成功するまでやり遂げるつもりだと感じた。だから最初は伸びなくても粘り続けるだろうと考えていた。これも、その通りだった。
取材したけりゃ記事を取り下げろ?
そんな風にNetflixを理解し、期待し、応援していた日々が続いた。だが、年が明けた2016年初めあたりから、ひとりのユーザーとしての苛立ちも出てきた。
わかりにくすぎる!作品が毎週洪水のようにやってくるのだが、それぞれがどんな内容かの説明が少なすぎるのだ。また当時は、それを補ってくれるほどエンタメメディアが個別の作品を紹介する記事を載せていなかった。せっかくたくさん映画やドラマが見られるのに、どれがいいのかなあと見て回って30分くらい過ぎて疲れて寝てしまっていた。
「もっと個々の作品を教えてくれよ!PRしてくれよ!」
そんな思いで、こんなブログを書いた。
Netflixだけの話ではなく、配信サービスが続々登場してドラマインフレみたいな状態になった。個別の作品の情報をもっと出してくれないと埋もれてしまう、という内容だ。Netflixでいうと、レコメンに頼っていてもダメだ。
ブログから引用しておこう。
それでもオリジナルドラマで勝負するのなら、”海外ドラマ好き”というカテゴリー以外の人たちにも魅力を伝えていかないと、広がらないだろう。いまおそらく、huluローンチ時よりはずっと多くのユーザーを獲得できているだろうけど、それを拡大するには、情報発信しないと。意外にネット上でNetflixの予告映像が出てきたりはするのだけど、海外ドラマ好き以外にはなんだかよくわからないし、届かない。わからない予告編の最後に”Netflix”と出てきても、何も伝わらないまま終わってしまうだけだ。予告映像より、必要なのは”これおもしろいよ!”という人の声だ。どんな話か、内容を説明されるより、”これねえ、とにかくびっくりするから!ドキドキするから!見たことないから!”と感覚的なことを言われるほうがずっと効く。だから実は、情報ではなく、感情が必要なのだ。インフォメーションより、エモーションこそが、見てみようと思うきっかけになる。そういうとこ、頑張ってよ、Netflix。元年とか騒いだだけのことあったなあ、って思わせてほしいもんだ。
言い方は全然ちがうが、俯瞰的に見ると最初に紹介した「NetflixファンからNetflixJapanへ」とほとんど同じことを言っていると思う。そして同じようにNetflixが好きだから書いたことも読めば伝わるはずだ。
このブログを書いて数日後、私の携帯電話が鳴った。知らない女性だったが、ネトフリジャパン広報から委託されているPR会社だと名乗った。少し前にある取材を広報の方にお願いしていたので、それについてだろうと思った。
だがPR会社の女性は「先日のブログ読みました」と言い出した。あ、そうですか。「あれは私たちへの批判ですよね」と言われて「えええー!」と驚いた。さらにこんなことも言う。「こないだはFacebookでこんなことを書いてましたよね」
彼らから届いた「ドラマ火花・完成試写会」の案内について、わざわざ試写会場に呼ぶなんて配信事業者なんだから特別な配信で試写をすればいいのにと、「こんな映画業界みたいなプロモーションするのか」というようなことをFacebookで投稿していた。
キモー!なになに?おれのFacebookを監視してるの?こわ!この人、こわ!
どうやら、取材したいなら批判を書くな、投稿するなと言いたいらしい。あのブログを取り下げろと、はっきり言わないが言いたいらしいと伝わってきた。そんなことをPR会社の人が言ってくる?しかもこの女性、私は会ったことがなかったのだ。
とにかくキモチ悪かった。いきなり面識もないのに電話をしてきて、あなたの記事に問題ある、と言い出したのだから。これはきっと、ネトフリジャパンの広報の方からの指示を何か誤解しているにちがいない。きっとそうだ。とりあえずこのPR会社の人と話しても無駄だ。と電話を切った。
翌日、ネトフリジャパンの広報の方、こちらも女性だが、に電話した。PR会社の人から電話があってこんなことをおっしゃってたのですが、きっと何かの誤解ですよね。あなたの指示ではないですよね。
私の指示です。
ガーーーーン!ショックを受けた。あなたの意志だったの?なんで?どうして?と少し話したが、話しても無駄だった。私の意志ですがそれが何か、という態度。
私は戸惑いと絶望と憤慨に包まれて電話を切った。
Netflixを批判するような記事を書くと広報がダメ出しする。それなら私はもう取材はいいや、と思った。それにしてもそんなことを堂々と態度で示す広報っているだろうか。批判したらダメとあからさまにライターに言うなら、提灯持ち記事しか書くなと言っているようなもの。お金をもらっているわけでもないのに(お金をもらって提灯記事を書くのも問題だが)、批判しちゃダメというのはおかしいよ。
もちろん広報としてはいい記事を書いてほしいに決まっている。批判してほしくないのはわかる。でもそれならそれで、相手をうまくコントロールしていい記事を書きたくなるような情報提供や接し方をするもので、批判を書いたらダメだとあからさまに言うのははっきり言って広報の仕事がわかっていない。
いま思えばだが、エンタメメディアのエンタメ記事ではある種の暗黙の了解があって、取材の機会を提供される分、みだりに批判は書かないものかもしれない。ネトフリジャパンの広報はそんな関係だととらえていた可能性はある。
だがあちこちでメディアがこれからどうなるかを書いている私が、Netflixになるとただひたすらもてはやすような記事ばかり書くのはおかしいのだ。時には批判することもあるよ。だからこそ信頼される。
それに先のブログは批判かよ!叱咤激励だよ!大好きなNetflixもっとプロモーション頑張ろうよ、というエールだった。あれでも受け付けられないならもう二度と取材は頼まないよ。
この時、私はけっこう悩んだ。Netflixが好きなのは変わらないし、業界のために期待しているのも変わらない。広報担当者と考えが合わないからとパイプをなくしていいものか。それに私はグレッグと友だちになったんだぞ!ネトフリジャパンの日本人スタッフのトップOさんも知っていて一緒に業界誌のインタビュー記事に出てるんだぞ。言いつけちゃうぞ!
グレッグやOさんにチクろうか、相当悩んだ。また、この奇妙な顛末をブログに書いてやろうか、ともかなり真剣に考えた。
でも、そうしなかった。それはそれで面倒だし、どこか無駄なエネルギーを使うことになる気がしたのだ。あまり前向きな行為ではない。前向きでないことは、やったあとであまりいい結果に至らないことを学んできた。
それから5年経ったと言うわけだ。まあ、今になって思えばお互い好き過ぎた恋人だったからこそ、ちょっとした綻びが破局を呼んだ、ということかなと思う。
ただ、「NetflixファンからNetflixJapanへ」を読むと、あんまり変わってないのかなと思った。O氏をはじめ、当時いた人はほとんどいなくなっているらしいので、広報担当者も違う人になっているだろう。でも相変わらずプロモーションが上手じゃないってことかな。少なくともコアファンにがっかりされているのは、5年前と同じだよ。
作品個別の良さを伝えるには、実はオウンドメディアを作るのがいいと思う。当時もそんな提案はしたのだが、ピンと来てもらえなかった。いまならわかるんじゃないかな。
Netflixが好きだからこそ、批判を書いているのだ。ぼくが大好きなあのドラマをちゃんとプロモーションしてよ、と多くのファンが言っている。オウンドメディアを作って、そんなユーザーに直接書いてもらってもいいだろう。私も読みたいもん。私が見た他にもたっくさん面白い映画やドラマがあるはず。どれがどう面白いか知りたい。そういうメディアを自分でつくればいいのに。
まあ、いいや。Oさんはじめもう知ってる人いないしね。グレッグは本国で出世しちゃったし。インタビューした時は通訳がついたけど、グレッグは日本語ペラペラなんだよね。今度、日本語でメールしてみようかなあ。
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