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ドラマ「誰もいない森の奥で木は音もなく倒れる」観る者の目を釘づけにする狂気と構成

Netflix製作の韓国ドラマ。貸別荘を営む50代の男が若い女と子どもを客として受け入れる。ホテルを営む30代の男が車で立ち往生した男を客として迎え入れる。それぞれが大きな災いとなり、2つの話は交錯する。殺人鬼の狂いっぷりがおぞましい。そして2つの物語の交錯させ方にトリックがあり面白い。2つの舞台をつなぐのは切れ者の女警官だった。
ここから先はネタバレするので、見終わった人だけね。

本筋は貸別荘の方で、ホテルの話はサイドストーリーだった。2つは時間が20年くらい開いてるんだけど、巧妙な構成で最初はわからない。たとえば、片方で雨が降り出すともう片方でも降り出すので同じ時間に見えるように構成されている。交番(というか分署みたいなもの)も両方に出てくるので最初わからないが、途中で時代が違い人も違うことがわかる。女警官は20年後、小太りの敏腕おばちゃん所長になる。彼女は2つの時代だとわかる鍵になっている。
そんな構成の巧妙さは大きな魅力になっていて、何かひっかかりながら見ているとある時点でわかる。それが楽しい。
もう一つは2人の殺人鬼。ホテルの殺人鬼はすぐに捕まるが、20年後にホテルの息子の復讐におびき出された時、とんでもない殺戮者だとわかる。
そしてなんと言っても貸別荘の殺人鬼ソンアだ。小柄な身体のどこにそんなエネルギーが隠れているのか。心のネジがどこか飛んでしまっている。両親が育たずに大人になってしまったのだろう。後半では、自分の狂気を隠そうともせず勝手な振る舞いをしていく。
面白いのは、彼女について説明はないまま終わることだ。なぜこうなったのか、夫との間に何があったのか、父親との関係もはっきりしない。資産家の父親に疎まれ、でも何をしでかしても甘やかされてきたのだろう。子連れで結婚した夫はDV野郎で子どもを押し付けられたのだろう。でもだからと言ってこんな怪物ができあがるだろうか。彼女がトマトソース好きなのは、どう見ても血が好きだからだ。
ソンアと貸別荘の主人ヨンハとソンアの関係も奇妙だ。ヨンハは憎んでいるが、ソンアはヨンハを慕っているかのようだ。父親に疎まれた分、娘として可愛がって欲しいようにも見える。
そしてこのドラマを面白くしているのはおばちゃん所長だ。彼女は若い頃にホテルの事件を担当していた。その頃の彼女とおばちゃんになってからがどうしても結びつかないのは置いとこう。彼女は2つの事件をつなぎ、ソンアを追い込む。せっかく捕まえた彼女を署長が保釈した時の詰め寄り方は凄かった。
などなど、語りたいことが山ほど出てくるし、もう一度見たくなる。実は今、2回目を見ながら書いている。そこそこのドラマを次々観るより、こういう語り甲斐のあるドラマを何度も見る方がいいようだ。
ヨンハ役は「モガデシュ脱出までの14日間」の大使キム・ヨンソク、ソンアは「密輸1970」で喫茶店のオーナーを演じたコ・ミンジ、おばちゃん所長は「パラサイト半地下の家族」で家政婦を演じたイ・ソンジュンだった。韓国の俳優は役によって全然違うキャラになるのがすごい。

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