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Netflixはなぜ立ち止まったのか〜コンテンツの洪水が始まっている

Netflixの会員数減少が話題に

4月後半、Netflixの会員数が減ったと話題になった。

原因はNetflix自身で様々に分析し、また各メディアが様々に論じている。これに伴い広告モデルのプランも考えていると報じられた。
2015年の日本進出時にリード・ヘイスティングス氏に直接取材する機会を得たが、その時の印象では、Netflixは企業文化として広告モデルを嫌っている、と感じた。彼らのアイデンティティの一つと言ってもいいのではないか。そんな彼らが広告モデルに手を出すのは、アイデンティティ喪失につながりかねない大転換だと思う。良くない傾向だと私は受け止めている。

そこへ今度は、人員削減のニュースも飛び込んできた。

1万人以上が働く中の150人だから、ドライと言われるNetflixのスタンスを思えば大きな人数ではない。だがこれも、これまで成長しか聞こえてこなかった彼らが、踊り場に立ったことを示すニュースだ。Netflixは伸び代がもうなくなってしまった。世界がそう感じているだろう。
だが私は思う。会員減少は彼らのビジネスモデルに限界が来たからではない。賢いNetflixにしては早計だと感じている。賢いからこそ、見落としている点があるのだ。

コンテンツを選べないサブスクサービス

私はHulu日本上陸以来、映画やドラマのサブスク配信サービスに浸って生活してきた。今はHuluに加えてNetflix、Amazonプライムビデオ、U-NEXT、Disney+、AppleTV+と多様なサービスがテレビ受像機で利用でき、充実したコンテンツライフだ。
だが、毎日ドラマや映画を配信で見るかというとそうではない。毎晩各サービスを立ち上げては新着をチェックし、興味があるものは「お気に入り」登録し、さて今夜は何を見ようか見て回って悩んだ末、何も見ないで終わる。
各サービスの新着を見て回るだけで15分くらいはかかる。興味を持った作品について調べてまた15分くらいかかる。その挙句、疲れ果てて寝てしまうのだ。
これはと思ったドラマを見始めることもある。想像以上に面白く、毎日2話ずつ3話ずつと見ていく。すると一週間かからず見終わる。満足して・・・また新着チェックの日々を過ごす。
こんな調子では、お気に入りに入れたものは到底消化できない。かくて各サービスのお気に入りやマイリストには、何百もの作品が溜まり、見られることなく忘れられていく。
なぜなかなか見ないかというと、「よし、これ見よう!」という決め手がないからだ。とりあえずNetflixの新着に入っていると興味は持つ、面白そうと一瞬は思う。だがNetflixの画面上の情報はあまりにも少なすぎる。作品のあらすじなどは2〜3行。出演者は知らない役者だらけ。監督も知らない。
ロードショー公開される映画なら、検索すると情報がいろいろ出てくる。配給会社は公式サイトを作っている。Yahoo!などにも情報が出て、試写を見た人の感想もあったりする。
配信サービスの作品はそんなものがない。検索しても何も情報が得られない。2〜3行のあらすじと知らない役者だらけの作品を、どうやって見ようという気になるんだ!時には腹立たしい気持ちにさえなる。
「優れたレコメンデーションシステム」という話を、Netflix上陸時に取材して何度も聞かされた。さぞかし優れているのだろう。だがいかに優れていても、情報がなければ選べない。ただオススメです、とリストに並べただけで見るものか!
その上、その優れたレコメンデーションとやらは、「人気急上昇の作品」のラインナップでも、「高い評価を得た映画」でも「感情を揺さぶる映画」でも、同じコンテンツばかり推してくる。いや、それはさっき「サスペンス映画」のラインナップに入ってたよ!Netflixご自慢のレコメンシステムは、私からすると偏りすぎてどの切り口でも同じものばかり勧めてくる気の利かない能無しにしか思えない。
Netflixは大間違いをしている。人間は実は自由に選べと言われると途方に暮れるのだ。また逆にいくらレコメンされても、うーんどうなんだろう、と逡巡してしまう勝手な生き物なのだ。
次から次に、何億ドルもかけて制作した世界中のドラマをラインナップする暇があったら、個々の作品の情報をもっと丁寧に載せてほしい。見たらハマるかもしれないすんごい大作を2〜3行しか紹介しないから、見るモチベーションが湧かない。レコメンが押しつけにしかなってない。Netflixは全部見るには一生かかっても終わらないほどのコンテンツの宝の山を、みすみす腐らせているのだ。

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