若者のテレビ離れは「コア視聴率」では解決できない
先月のこの記事で「コア視聴率」が話題になったことに触れた。
松本人志氏の言う通り、いまどき世帯視聴率を元に番組をいいの悪いのと書くライターは勉強不足だ。「バカライター」と言われても仕方ない。それでもまだ、世帯視聴率を元にした記事がなくならないのは、Yahoo!の責任が大きいと、これは先月書いた通りだ。
テレビ局も指標の転換には時間がかかった
だがあえて付け加えると、テレビ局もテレビ局だ。2018年に関東地区ではスポットCMの取引にそれまで世帯視聴率を使っていたのを、個人全体視聴率に切り替えた。局によって、ではなくキー局すべてで切り替わったのだ。
私は当然、そこから世帯視聴率を口にしなくなるものと思っていた。だがそうならなかった。局の人に当時聞くと「個人全体?なんすか、それ?」と言っていた人も多い。あるいは「個人視聴率ってモチベーション上がらないんすよねー」と言っている人もいた。世帯視聴率だと当時の水準では10%代前半ならかなりいい数字と言われていた。ところが個人全体視聴率だと同じ番組が一桁台の数字になる。それまで「13%だった!やったね!」と言っていたのが「7%だったのでOKだよ!」と言われても盛り上がれない、と言うのはわからないでもない。
わからないでもないが、取引に使う指標が変わったのだ。為替レートがドルベースだったのがユーロベースに変わったくらいの大きな変更だ。世帯視聴率はCM取引に使うから社内目標にしていたのに、そこが切り替わったのだからはっきり言うと世帯視聴率の良し悪しを気にする意味がなくなった。それなのに、「モチベーション上がらないんすよねー」と言ってもなんというか、意味がないのだ。振り幅が小さくてやる気が出なくても、個人全体視聴率に早く慣れるしかない。そんなの「慣れ」でしかない。「上がらないんすよねー」が通じてしまう会社は、会社として相当まずいと思った。
2019年になり、日本テレビが「うちは個人全体視聴率を指標にします」と社内外、代理店やスポンサーにも伝えるためのパンフレットを回し始めた。やっとそうなったかと思った。一気に全局が真似するのだろうと思っていたら、他局には広まらなかった。
だがTBSが動いた。「ファミリーコア」という社内指標を掲げたのだ。もともと「コア視聴率」という、14才から49才までをターゲットに設定することは、ずーっと前から日本テレビが掲げていたことだ。だから日本テレビは個人全体視聴率を取引に使うようになる前に、とっくに事実上個人視聴率ベースの指標を掲げていたのだ。
個人視聴率への切り替えのポイントがここにある。世帯を個人全体に切り替えるだけではいままでと水準が変わるだけで「全体」を指標にすることは変わらない。だが個人視聴率を測定する意義は、性年齢別に細分化した数値も出せることにある。日本テレビはもともと、世帯視聴率とは別にコア視聴率で50才未満を目標に番組作りを続けていた。「一人勝ち」の源泉がそこにあった。
TBSはそこまで気づいてのことかはわからないが個人視聴率への切り替えを機に、よりセグメントされた社内目標を設定した。それが「ファミリーコア」だ。当時は59才以下だったのが、2021年春からは49才以下に”切り下げ”したと聞く。
日テレに続いてTBSも個人視聴率時代を踏まえて「コア」を設定した。だが他の局ははっきりしなかった。同じような議論は始まっていたようだが、TBSのように明確に社内の決め事にはできなかったようだ。
そのあたりは5月に東洋経済オンラインでこんな記事として書いている。
数字と照らし合わせると、日本テレビの一人勝ち状態を生み出したのも、ここ2〜3年でTBSが比較的売上減少が小さく済んでいるのも、この「コア」の設定によるところが大きいのではないか。
フジテレビは実は、亀山社長時代に「49才以下」を打ち出したことがある。だが現場がまったくついて来ず、幻で終わった。テレビ朝日は世帯視聴率で頭がいっぱいでコアとかなんとか考えもしていなかった様子。
これらの遅れていた局も、昨年後半あたりからようやく、世帯視聴率ではなく個人視聴率ベース、そしてそれぞれなりの社内目標設定をするようになったようだ。
2018年に「取引指標」が変わったのに世帯視聴率から社内指標を修正するまで、一部の局は2年もかかったのだ。バカライターの前に、そういうテレビ局の経営層が悪口を言われるべきではないだろうか。松本人志氏もライターに言ったのと同じように、出遅れたテレビ局の経営者に「勉強不足」と言ってもらうといいと思うがどうだろうか。
「コア視聴率」にしても若者との分断は進むかもしれない
長くなったがここからが本稿で言いたいところだ。世帯視聴率は高齢世帯の数が多く、お年寄りの好みに番組が引っ張られる。それを解決すべく採用されたのが「コア視聴率」だ。49才以下を設定しているので、親子でテレビを見るファミリー層を重視することになる。テレビCMは確かにファミリー層をターゲットにすることが多い。スポンサーの意向にも沿うことになり、今の時代にあった目標数値だ。
だが、この目標値の有効期限はもう近い。数年もしたら別の考え方で目標値を設定する必要に迫られるはずだ。なぜそんなことを言うか、説明しよう。
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