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「オッドタクシー」が示す映像プロダクションの新たな方向性〜前編〜

『映画 オッドタクシー イン・ザ・ウッズ』 
2022 年 4 月 1 日(金)TOHO シネマズ新宿ほか全国公開
©P.I.C.S. / 映画小戶川交通パートナーズ 配給:アスミックエース

謎の動物アニメが密かにヒットし映画化へ

ふと気づくとAmazon Prime Videoに並んでいた「オッドタクシー」というタイトル。何だろうと思いつつ、アニメらしいので見ないでいた。アニメ作品には偏見というと大袈裟だが、もっと若い人たちの文化と思っていた。気付いたのはずいぶん前、昨年の夏頃だったと思う。
秋に入ると私のSNSのタイムライン上にちらちら登場するようになった。どうやら一部でかなり話題になっているらしい。これは自分が見るべきアニメなのでは?とついに再生ボタンを押した。
最初に驚いたのは、内容の前に「P.I.C.S.」のクレジットだった。しかも「原作」としてP.I.C.S.とともに社長を含む個人名が並ぶ。
P.I.C.S.は私が十数年前に在籍した制作会社ロボットと同じイマジカグループの傘下にあり、いわば兄弟会社だったのだ。しかもアニメ制作にクレジットされるOLMもやはりイマジカグループの会社だ。話題の人に会ったら同級生だったような嬉しい気持ちになった。

主人公の小戸川宏とチンピラ・ドブこと溝口恭平

そして「オッドタクシー」は見たこともない新鮮な面白さに満ちていた。セイウチのタクシードライバーを主人公に、彼に思いを寄せるアルパカの看護師、心配するゴリラの医者、つきまとうチンピラはヒヒ(ゲラダヒヒらしい)などなど、登場人物は人物ではなく動物たちなのだ。そう書くとファンタジーを想像するだろうが、どう見ても東京の街を舞台にした、生々しい物語が展開される。どこかダークな雰囲気を感じていると「事件」が起こる。動物キャラが展開するミステリーだった。そして最後に解ける謎が・・・とこれ以上は書かないでおこう。
「オッドタクシー」は全13話のTVシリーズで、2021年春にテレビ東京の深夜枠で放送され、直後にAmazon Prime Videoで配信された。徐々に話題が広がり、この春4月1日(金)に映画版が公開される。

製作は「小戸川交通パートナーズ」となっているが、もちろん製作委員会をこう表記しているのだろう。中心となった企画・プロデュースの平賀大介氏は何度か会ったことがある。さっそくコンタクトを取りインタビューした。

ミュージックビデオの会社がアニメシリーズを作る経緯

P.I.C.S.は広告・ミュージックビデオを中心とする映像制作会社で、MTV JAPANから独立した人々が作った会社だった。優れた才能が集まり、多くの作品がある。大袈裟に言うと、いいなと思った音楽ビデオはP.I.C.S.制作と言えば3割くらいは当たるだろう。
星野源、乃木坂46、日向坂46、Perfume、RADWINPSなどビデオを制作したアーティストは数えるとキリがない。受賞作品も多く、そのクオリティは高い評価を得ている。CM制作でも実績があり、最近ではプロジェクションマッピングでも注目されていた。またNHK特集ドラマ「岸辺露伴は動かない」や「タイムスクープハンター」という要潤主演のSFドラマ仕立ての歴史番組も制作しており、これは映画にもなった。
そうした畑違いの作品もありつつ、基本的には実写映像中心の会社だ。そんなP.I.C.S.がどんな経緯でアニメ作品を作ったのか。平賀氏はこう説明した。

「個人的にドラマやアニメに興味があり、自分たちで権利を持って作る企画にコツコツと取り組んでいました。その中の一つで木下麦という若手ディレクターが「オッドタクシー」の前身となるキャラクターや設定を描いた企画書を持ってきてくれて。そこからいろいろ話しながら企画書をブラッシュアップして開発稟議を上げたら社長が面白そうだからやってみたらとOKを出してくれました。そのおかげで脚本で入ってくれた此元和津也さんやコンセプトデザイナーさんなど周りのスタッフも巻き込んで、「オッドタクシー」の原作となるようなものを社内で作ることができました。 」

取材に応じてくれた平賀大介氏

制作会社が開発費を出して企画を作り上げる。当たり前と思うかもしれないが、日本の制作会社は原資が薄くなかなかそこまでできない。制作することができる、つまりお金になることがはっきりしていないと、先に企画に予算を投じる発想にはならないのだ。そこを乗り越えたのは、平賀氏とP.I.C.S.が会社として「自社企画に取り組むべき」と歩みを進める意気込みを持っていたからだろう。

「上がってきた脚本が圧倒的に面白く、作りたいという気持ちが強くなって、最初はショートでやろうと言ってたんですけど、TVアニメのシリーズとして全部脚本を作って、キャラクターも全部作ってなんとか実現させましょうと社内で盛り上がりました。」

「オッドタクシー」の最大の魅力は、不穏な空気で進んだミステリーの謎が最後の最後に解けることにある。そこまで考えてあったのだろうか。

「脚本家を誰にしようか悩んだ挙句、『セトウツミ』という漫画が大好きで、その原作者である此元和津也さんにお願いしたいと考えました。面識なかったのですが飛び込みでお願いしたら引き受けてくれて。最後のアイデアも此元さんからもらったものです。動物アニメであることが腑に落ちる形にしたいと思うのですがどうでしょうと。この企画のコアがさらに明確になると思いもちろんOKしました。」

社内で固めた企画を、この人ならという優れた脚本家の力を得ることで、さらに良い企画にできた。理想的な流れではないだろうか。

「いろんなタイミングが合って運もあっていい形で転がっていったと思います。」嬉しそうに平賀氏が言う。

アニメ制作を同じグループのOLMが担当したのは自然に思えるが、ちょっと違ったようだ。

「当初は自分たちでアニメが作れる気でいました。でも企画書を持ってあちこち回ると”これ、アニメ制作はどこがやるんですか”と聞かれて。なるほどと思いました。監督は初監督作、此元さんは漫画家としては有名でしたがアニメシリーズの脚本家としては初めて、もちろんP.I.C.S.はテレビアニメを作ったことはない。中身としては絶対面白いとみなさん言ってくれていたので、同じグループのOLMに相談しました。」

アニメシリーズを完成させるにはアニメ制作のラインを確保する必要がある。OLMがラインを確保してくれて、製作委員会に参加する出資者探しも手伝ってくれたという。この辺りも結果的にうまく転がっていったのが面白い。委員会には吉本興業も参加してくれた。声優としてミキとダイアンをはじめとした漫才コンビなどが出演していい味を出している。

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