オッドタクシーが示す映像プロダクションの新たな方向性〜後編〜
『映画 オッドタクシー イン・ザ・ウッズ』
2022 年 4 月 1 日(金)TOHO シネマズ新宿ほか全国公開
©P.I.C.S. / 映画小戶川交通パートナーズ 配給:アスミックエース
「オッドタクシー」制作の中心となったP.I.C.S.のプロデューサー、平賀大介氏へのインタビューの後編をお届けする。前編を読んでない方はそちらから読んでほしい。
前編では企画から放送と配信までの話だったが、後編では映画に至る流れとプロダクションビジネスについて聞いている。制作の話だが、メディアの皆さんにとってもきっと参考になるだろう。ぜひ最後まで読んでもらいたい。
テレビ版とは違う楽しみ方ができる映画版
「オッドタクシー」は昨年テレビ東京で放送され、今年の4月1日(金)に映画が公開される。時間的に考えると、当初から映画化を予定していたのだろうと見ていた。
「映画化は、当初は考えていませんでした。苦労して立ち上げた企画なので様々に横展開したいとの思いはありましたが、ヒットしないと次の展開はできない。それが、盛り上がりが放送終了後も続いていたときに、映画のお話を配給会社のアスミックエースさんからいただきました。あまり間をあけない方がいいので、できるだけ早くやりたい。でも、ただの総集編にはしたくないとの思いもあるので両方かなえられる落としどころがあるか悩みました。とにかく、せっかくのチャンスなのでぜひ実現したいと動きました。」
TVシリーズの最終話では、新たな事件が起きそうなところで終わる。てっきり、気になるところでテレビを終わらせ、続きは映画で見せる構想だったと思っていたのだが、そうではなかった。
「ラストはあそこでバシッと終わったつもりでした。全てきれいに落着したと思わせて、もう一回ジャンルごとひっくり返したホラーみたいなエンディングが個人的にもいいなと思っていたので。」
最高の形で終わらせたつもりが、映画化となると終わりではなくなった。
「映画化という大きなチャンス、脚本の此元和津也さんにもう一度ムチャをお願いしました。最終話のラストのあとも映画で描いてTVシリーズを見た人たちも楽しませつつ、初見の人も楽しめる映画の構成を考えましょう、と。そんなもんできるか!と此元さんは心の中で思ったらしいんですけど、やってみましょうということで動き出しました。」
全体としても、TVシリーズの短縮版ではなく新たな楽しみ方ができるという。
「最終話のラストの続きはもちろんちゃんと描いていますが、その前の部分もただの総集編ではなく<イン・ザ・ウッズ>というサブタイトルをつけています。芥川龍之介の『藪の中』の英語訳です。いろんな人たちの証言、語られなかった裏側や本心を軸にTVシリーズを振り返る、答え合わせのような仕組みです。初見の人はTVシリーズを全部振り返れるし、見た人からすると、各登場人物から新しい情報を得てまた見方が変わるようなものを目指して作っています。」
同じ「オッドタクシー」を違う視点で見られるのは面白そうだ。テレビ放送から半年で映画公開に至れたのは、そんな離れ技によるものだった。ただ、このインタビューを行った3月7日時点で、映画はまだ制作中だという。
「やばいんですよ。」と言いつつ、平賀氏は楽しそうだ。これはますます映画が楽しみになってきた。
P.I.C.S.がアニメを作る意義
「オッドタクシー」はコンテンツビジネスをウォッチしてきた私の目からすると、ジャンルを飛び越えた作り方に興味が行く。前編で述べた通りP.I.C.S.は広告やミュージックビデオ制作で高く評価された会社だ。そのP.I.C.S.がテレビアニメの企画を自ら立ち上げ社内で基礎を固め、開発費を準備して脚本家に入ってもらい企画を完成させた。そこには大きな意義があると思う。
平賀氏自身はどんなモチベーションだったのか。
「映像業界って映画畑、ドラマ畑から広告だったり音楽だったり同じ映像業界といえども全然縦割りで意外と交流がないですよね。」
そう、同じ「映像」でも発注元とアウトプットでまったくと言っていいほど分かれており、人の行き来が少ない。
「あるジャンルの才能ある人たちが映画やりたい、ドラマやりたい、アニメやりたいと思っていてもなかなかチャンスがない。せっかくいろんな才能があるのに、実現するのが難しいと感じていました。でも、小さくてもコツコツ企画を作っていくと、その周りにまた面白い人たちが集まってきてくれます。それを続けて行って、チャレンジングな企画を形にして、いい循環ができればと思っています。」
そう、縦割りで作っても行き詰まるだけに思える。
「縦割りを崩せるプロデューサーが、分野を超えた作り方をやっていくしかないと思います。ちょっとでも評価されて実績を作って、お金も人も集まってくるような環境が作れたら、もっといろいろ面白いものを発信していけるんじゃないでしょうか。」
というのは、各分野での映像制作がどんどん厳しくなっているのだ。
「制作することで利益を出すことが今どんどん難しくなっています。いいものを作りたいという思いはみんな変わっていませんが、環境が厳しくなり予算が減っています。」
CMやミュージックビデオは制作を受注して利益を残す単純なモデルだが、映画やアニメでは出資に参加することもある。
「いいものを作ろうとすると制作での利益は薄くなりがちで、それだけではビジネスとして厳しい。二次利用などの運用は、作品がヒットすればビジネスが膨らむ可能性があり、自分たちでIPを持つことで関わってくれたクリエイターにもリターンがあるようなモデルを小さいながらも作っていきたいと考えています。」
製作委員会の中で制作会社が出資をするだけでは、言ってみれば「制作」という窓口しか取れない。結局は受託制作と同じように制作で利益が出せるかになってしまう。
「今、エンタメ業界全体が予算がないとか、コンプライアンスが厳しいとか暗い話が多いですよね。でも、苦しい現状を嘆いていても仕方ないので、新しい領域のノウハウを学んでビジネス窓口を広げたり、自分たちでコツコツIPを作っていったり、自分たちが面白いと思えるものをつくり続ける環境を目指して、出来ることを、楽しみながら色々チャレンジしていきたいです。 」
だからこそ平賀氏はミュージックビデオの会社なのにアニメのIPを開発したのだ。
制作会社にとって海外はブルーオーシャンになるか?
「オッドタクシー」は委員会にクランチロールも参加している。最近SONYグループ入りした、海外に日本のアニメを配信する事業者だ。当然、「オッドタクシー」も海外配信されている。
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