映画「シビル・ウォー」これは空想ではない。現実のアメリカだ
☆☆☆☆
「もしアメリカが分断され内戦が起きたら」これは予告編のコピーだが、アメリカは分断されている。だからこの映画は現実のアメリカなのだ。
戦争を描く映画なのに俯瞰的な説明は何もない。反乱軍も政府軍もその司令本部はまったく出てこない。そういう戦争映画ではなく、内乱が起きたアメリカの地べたの話だ。市民目線なんてことでさえない。戦争が起こっている、その実際だけを描いているのだ。
カリフォルニアとテキサスがアメリカに反旗を翻し19州が西部同盟を結成しホワイトハウスへ迫る。NYにいた報道カメラマン志望のジェシーは憧れていたベテランカメラマン、リーと出会いワシントンを目指す彼女の一行に参加する。
キルスティン・ダンストがベテランカメラマンを演じるのがいい。グラマーでエロい役ばかり演じてきた彼女が太めのおばちゃんの貫禄を出している。
このジャーナリスト一行の目線で内戦を見せるのがポイントだ。戦争を神の目線ではなくその場にいる人間の目線で見せることに成功している。それがこの映画の、他の戦争映画にない臨場感につながっている。
もう一つ、この映画は擬似家族の物語でもある。リーと同僚の男性ジョエルに初老のサミーが加わり、初めて戦場で撮影するジェシーと共に移動していく。サミーから見ると23歳のジェシーは孫だ。そしてもちろんリーは母親、そして父親。駆け出しのジェシーを重荷と言いつつ、心構えを教える。
※鑑賞前の皆さんはここまで!この先はネタバレするよ
映画館で私は何度か身体中で驚いた。一番はやはり、予告編になった「どのアメリカ人だ?」の場面。その後兵士はジェシーに出身地を聞く。「ミズーリ」と答えるとごちゃごちゃ言うが許される。次にリーが「コロラド」と言うと許す。次に、途中で合流した東洋系の男が「香港」と答えると即座に射殺した。間髪を容れずというタイミングでビビったというわけ。
この兵士たちは中部とか言ってた気がする。よく言われる「中西部」の連中なのかもしれない。トランプの支持層だ。そして彼らは有色人種を敵認定する。この場面は恐ろしい。アメリカ人の一つの心性を表現していたと思う。
この兵士役はクレジットされてないがジェシー・プレモンスで私はヒロミに似てるとずっと思っている。キルスティン・ダンストの夫なので友情出演なのだろう。
もう一つ、ポイントだったのは、ホワイトハウス突入の場面。サミーの死で心折れかけたリーに対し、ジェシーは死体の山から抜け出した後は、銃で突撃する兵士たちとともにカメラを銃のように構えて突撃する。前に出過ぎたジェシーをかばってリーが撃たれて死ぬ、その様をジェシーは撮影し、リーの死を無視するように先へ進む。
大統領を仕留めた兵士たちを撮影したジェシーはこの後、この写真で名をなすのだろう。リーの死を無視したのはその教えに従ったからだが、狂気の世界に踏み込んだからかもしれない。ジェシーを演じたのは「エイリアン:ロムルス」のケイリー・スピーニー。お人形さんのように可愛い彼女はきっと女優として成長すると思う。
映画が終わった後に乗ったエレベーターで中年の夫婦が「交渉とかあるのかと思ったけど何が描きたかったかわからないねえ。」「強いて言えばあの女の子の成長?」えー?!そうなの?まあ物足りない人もいるのかなあ。フィクションとしての戦争映画を見に来るとそうなるのかも。そうじゃなくて、この映画はアメリカの現実を描いてるんだよ。そう思うと、感じることが変わってきません?とは言わなかったけどね。
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