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メディアは災害に備えた連携が必要だ〜NHK文研フォーラム「能登半島地震から5か月」ほぼ全録〜

※↑画像は「NHK文研フォーラム2024」トップページより

5月23日に配信されたNHK文研フォーラムのプログラムB「能登半島地震から5ヶ月〜地域メディアによる課題共有と今後を考える〜」を聴講した。90分の予定が2時間近くまで延びた濃厚な内容のディスカッションだったが、能登半島地震に直面した地域メディアによる生の議論は非常に学びの多いものとなった。石川県のNHK、民放、新聞の3つの違うタイプのメディアからパネリストを招いたことで、多角的な議論となった。行われた議論にできるだけ忠実に記事化しているので、じっくりお読みいただきたい。

・パネリスト
森田奈々 北國新聞社編集局次長
米澤利彦 石川テレビ常務取締役
森田智樹 NHK金沢放送局長
・進行
村上圭子 NHK放送文化研究所 メディア研究部
(それぞれのプロフィールはNHK文研フォーラムのサイトで確認できる→フォーラムサイト

ここでは最初に各パネリストが能登半島地震で行った活動のプレゼン部分は割愛し、ディスカッションに絞って記事にする。3つのパートに分かれて議論が構成されていたので、各パートごとに内容を紹介していく。


第1部「災害報道・取材の課題と今後」

このパートでは元日の突然の地震に手が回らなかったり対応が遅れたり、視聴者読者に初動で十分な情報が届けられなかったことが反省点として出てきた。例えば石川テレビ・米澤氏は「2020年の能登半島群発地震のあと、民放共同で数ヶ所の建物の屋上にカメラを設置した。ところが今回の地震では輪島のカメラが停電で役割を果たせなかった。」と悔恨を語った。
北國新聞・森田氏は「地震が発生するかもしれない地域に1人ずつ人を配置するのは難しい。できるとしたら他のメディアとの連携だと思う。」と、災害時はメディア同士が協力して取材する必要性を述べた。
これを受けてNHK森田局長も「マスコミ各社は経営状態もどんどん悪くなっていくのは明らかで、 少ない人数では限界がそろそろ来ている。通常からどうローカルメディアは連携していくのかの議論に向きあわざるを得ないと感じる。」と共感を示した。
ここで進行役の村上氏が、被災が大きかった7市町の200人への文研による調査を見せた。「多数のメディアがやってきて、自分たちが移動できなかった」など取材陣が押し寄せて住民が迷惑を被ったことが示された。また、特定の地域に取材が集中し、取り上げられなかった地域との援助物資の偏りが起こったとの指摘もあった。「協力して広い範囲を取材してほしい」と、まさに議論になったことが住民の意見にも出てきたことは真摯に受け止めるべきだろう。
これを受けて石川テレビ・米澤氏が大胆な提案をした。
「今回のような大きな災害では、NHKと民放、新聞も含めて取材するエリアを分けたらどうか。報道の自由もあるが、被災地ファーストの考えで。ある期間だけは分担して取材し、なおかつ取材した内容を共有する、互いに受け渡す。そういうことができないか。」
北國新聞・森田氏も「今回、救援車両が通れないほどマスコミの車両が来てしまった。取材エリアを限定したり代表取材をすることは考えていくべきと思う。地震発生時に市役所や町役場に取材に行ったが、いま思えば発生したばかりで情報が来ているはずがない。マスコミが連携し情報を共有すれば各市町に伝えることもできる。」と賛同を示した。
NHK森田局長は他の分野の話を紹介した。「研究者の間でも熊本地震の時に現地に殺到して迷惑をかけた反省から、今回は入る時期を調整したと聞いた。我々メディアこそ、迷惑のかけ方が大きいので考えるべきだ。どこの社も同じ行きやすいところに行き、行きづらいところには行ってない。同じ映像、同じ情報ばかりになったのは変えなければいけないと思う。」
NHK、民放、新聞という異なるメディアが連携するべきとの登壇者の共通の見解は、全国の放送局、新聞社が同じ気持ちで受け止めるべきだろう。災害が起きる前に分担を話し合っておくべきだとしたら、いますぐ地域ごとに議論を始めるべきではないだろうか。

第2部「被災者への情報伝達の課題と役割〜ライフライン・生活情報を中心に」

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