アドリーチマックスのインプレッション取引はテレビCMの価値を高めるか
※画像はChatGPT4に「ARMという文字が画面に映ったテレビが未来的なリビングルームにある画像を作成してください」と入力して生成されたもの
アドリーチマックスは「入稿中四日」だけではない
日本テレビが11月に発表したアドリーチマックス(以下AdRM)プラットフォーム。テレビCMのこれまでの取引にあった不便をなくし、デジタル広告と同じような合理的なセールスをします、というものだ。来年、25年4月にスタートさせるというから、随分前の発表になった。これは、早くからアナウンスして業界内への説明を丁寧にしていこうという意図だ。
AdRMプラットフォームの特徴は、2つに分かれると私は捉えている。1つは取引形態の部分で、もっともわかりやすいのが、これまでCM素材の入稿からオンエアまで中四日必要だったのを、直前でも入稿できるようにすること。デジタル広告と同じようにフレキシブルな形態にする、ということだ。
だがもう一つ、私が注目するのがインプレッション取引の方だ。これまではGRP取引だった。視聴率を取引のカレンシーに使っていたので、発注単位は%。「7月の第1週から200GRPのCMをオンエアしたい」のようにオーダーする。
これをインプレッションに変える。すると捉え方がまったく変わってくるはずだ。「200GRP」ではなく「100万imp」のような発注になるだろう。
ただ、そのままだと単位が変わっただけになりかねない。そこには何らかの考え方に基づいた、テレビCMの新しい価値づけを目指すコンセプトが必要のはずだ。
日本テレビ営業局アドリーチマックス部の武井裕亮氏に話を聞いた。
25年4月は日本テレビ1局でのスタートになる
※以下、「」内は武井氏の発言
--3月に代理店向けの説明会を行ったと聞きました
「説明会では、すごく具体的なお話をさせていただいて、セールスサイトの発注手順などをデモ映像もお見せしながら説明したので、具体的にイメージをしていただけたかなと思います。その後のお問い合わせも、実務に近いご質問をたくさんいただけていて良かったと思っています。」
--局向けにも説明会を行うのですか?
「キー局含めていろいろなテレビ局の皆さんからお問い合わせいをただいているので、もちろんお話はしてますしこれからする予定もあります。」
--中京テレビさんがジョインすると2月に発表したのは驚きました。系列には早めからお話してたんですか?
「系列全てではありませんが。設備投資もかかるお話なので自分の局にとって必要か、冷静に考えていただく必要があると思います。」
--何局かで一緒にスタートをめざすのですか?
「25年4月にスタートしようと開発を頑張っていますが、最初は日本テレビ一局でのスタートになると思います。私たちは本気でチャレンジをして、向かうべき方向をしっかりと見定めたいと思っています。他局の皆さんにわざわざ設備投資をしてもらって、うまくいかないようでは申し訳がないので。そこの見極めはちゃんとやらねばと思っています。」
--必要なエリアとは?
「少なくとも東阪名はやった方がいいと思います。東阪名では系列問わずお話をさせていただいています。そこで地盤を固めて全国にも広げていきたいと思っています」
--広告主サイドからは何か?
「お問い合わせはいただきます。私たちが実際に説明に行く機会も毎週のようにあります。」
インプレッション取引にする理由とは?
--今日はインプレッション取引についてお話お聞きします。
武井さんが想定している、テレビ局にとってのメリットは?
「なぜインプレッション取引を導入するのか、理由は二つです。一つは、選択肢を増やしたい。今の世の中のスタンダードはデジタル、広告のスタンダードもデジタルです。インプレッションであったりCPM、リーチ、コンバージョン、クリックといったデジタルの指標が、広告業界のスタンダードだと思っています。ですから私たちテレビ広告は今やスタンダードではないですよね。デジタルがスタンダードの世界にいる人たちからしたら、GRPと言われてもイメージがつかないと思います。テレビであってもインプで買えます、というスタンダードに合わせた選択肢を1つ作りたいと思っています。」
--それはGRP取引に疑問があるからですか?
「今までのGRPセールスを決して否定するものではありません。GRPで出来上がってる経済圏もあるので、それはそれで残していけばいいと思っています。ただ、それでは広告媒体としてテレビが選択肢に入らないというクライアントさん、広告会社さんが確実にいます。そういった方々にも選んでいただけるように、まずは我々がスタンダードな指標に合わせていく。これをやりたいのが、まず1つです。」
--もう1つはなんでしょう?
「広告の統一指標を作ることです。テレビだけに予算を投下するキャンペーンは存在していませんよね。テレビCMをやっているということは、何かしら他の媒体でもキャンペーンをやっている。その時の統一指標、全体でどうだったのかを、見ていただけるようにしていきたい。統一性のある指標を作っていきたいというのが2つ目の理由です。選択肢を増やしたい、統一性のある指標を作っていきたい。この2つがテレビ広告でインプレッション取引を始めようとしている私たちの思いです。」
テレビの広告価値はどう高まるか?
--アドリーチマックスという部署の名前の精神としてはテレビの広告価値を高めたいわけですよね?インプレッション取引によってテレビの広告価値を高められる、あるいは広告主に感じてもらえる期待を持ってらっしゃいますか?
「インプレッションにするだけで広告価値が高まるわけではないです。インプレッションとセットでリーチをしっかりとレポートさせていただこうとしています。カレンシーはインプレッションですが、私たちが今作っているアドプラットフォームを通じて買っていただくと、常にセットで重複が排除されたリーチが出てきます。」
--そういう見せ方をするわけですね?
「インプとリーチはセットで出します。テレビのリーチ力ってすごいとよく言われますが、改めて視聴率から実数に直すことでそれが明確になります。今までは率でやってきたので、関東の4%の人が見たことを示していましたが、計算すれば何人かも分かるけれどもイメージしにくいですよね。4000万人の4%だから160万人、ということをイメージしにくい。最初からインプとリーチをセットで出して例えば1回の放送で500万impが得られたとき、テレビではそれがオールユニークなんですよ。500万インプが一瞬でオールユニークで取れる。また複数回放送した時はしっかりと重複を排除した「人」ベースのリーチをレポートする予定です」
--YouTubeでの再生数500万回は、何度も来た人もカウントされ、ユニークではないですからね
「何回もCMを放送するとリーチはだんだん重複していっちゃうんですけど1回の放送は絶対オールユニーク。そこはテレビの圧倒的な強みだと思っています。一瞬で大きくユニークリーチが取れるのは、率ではなくインプに変えてリーチとセットで出すことで改めて感じていただけると思います。だから本当に価値を高められるのはインプレッションから導き出されるリーチです。」
--ここでいうリーチは、そのCMが到達した人数と見ていいわけですよね?
「現状のビデオリサーチさんの視聴率データは毎分視聴率が最小粒度なので、1分間に15秒が4本入っているとCM1本の人数と厳密には言えませんが、ほぼそのCMを見たはずのリーチが出せるということです。さらに複数回放送の場合は重複は排除します。」
--なるほど
「ただ、今でも視聴率をインプに換算することは簡単でクライアントの皆さんもやられていると思います。インプにして実数にしたときリーチとセットでレポートすることで、テレビのリーチ力のすごさをまず感じていただきたい。本当はその先のコンバージョン、物が売れたとか態度変容が起きたとかブランドリフトが起きたとかいろんな目的があると思うんですけど、そこにテレビメディアが貢献している割合も大きいと思っています。でもなかなかテレビの効果はそこまで追いかけきれないままでした。そこは広告会社の皆さんと連携をしながら、私たちは媒体社として実数ベースまで落とし込みリーチをしっかり計測してお出しする。そこから先、それがいかにキャンペーンに貢献をしたのかは広告会社さんと連携をしながら価値証明をしていかなければと思っています。」
14属性に分けたターゲットを指定できる
--最後にもう一点だけお聞きします。ターゲティングができるようになるのかどうか。インプはいわゆるオール(個人全体)の数字です。でも広告主はF1のインプが知りたい。F1にリーチできたかが知りたい。『F1に何インプ』のような発注はできるのか、との声も出てきそうな気がします。
「お答えの仕方としては2つあって誤解を恐れずに言うとターゲティングはできないです。ただターゲットを指定することはできます。」
--なるほど!確かに”ターゲティング”はできませんね。
「テレビなので残念ながらターゲティングできない。アドレッサブルCMではないので流すデバイスごとに素材を変えることはできません。技術的な進化がすぐそこまで来ているのではと思いますが、ターゲット以外に露出できることもテレビの価値だと考えていますし、今はやるつもりがないです。ただ、欲しいターゲットを指定していただくことはできるようにしようと思っています。オールってCから4層まで全部含まれていますが、その中のF1が本当に欲しい時はF1で何百万インプレッションなどとご指定いただけるようにしようとしています。」
--素晴らしい!今日一番確認したかったことでした
「ただ予測ができないと実現できません。予測をすることで、こことここにCMを入れればオーダーされたインプレッション数を出せるな・・と想定できます。それに関係してやろうとしているのは、今までのF1とかM1などの8属性、10属性と言われるセグメントは採用しようと思ってません。もう少し細かいセグメント、14属性にしようと思っています。C、T、18-24、25-34、35-44、45-54、55-64、65歳以上で性年齢を14属性にしようと思っています。」(注:CとTは男女を分けない)
-10歳ずつですね
「15歳刻みは広すぎると思っています。私は34歳でギリギリまだM1ですが、自分でもM1なのかなと思います。もうすぐ2人目の子供が生まれるのに大学生と同じになってしまう。家があって車を持っている私と大学を卒業したばかりで家探しをしている青年が同じ。テレビ局がコンテンツを評価する指標としてはいいと思います。内面的な意識としては私はまだM1で、アニメも見ますし好きな番組もそんなに変わらない。ただマーケティングに使う指標としては、広すぎると思っています。もう少し絞ってセグメントを指定していただけるようにしたい。」
--F1では広すぎると広告主の方がよくおっしゃっています
「ただ、14属性すべてを予測するのは現状の私たちのリソースでは不可能なので、ニーズの高そうな属性に絞って開発を進めています。日本テレビでは13歳-49歳をコアとして大事にしていますが、18歳から44歳ぐらいの比較的若めのところを最初は選んでいただけるように進めています。」
--さっき東阪名が合うかなとおっしゃってましたが、それ以外のエリアだと十分なパネルがないわけでしょうか。
「ちゃんと業界として議論していかなければいけないと思っていて、東京ですら2700世帯。しかも全国には広がれない。私たちは先行して今ある手札でインプレッションセールス、ターゲット指定セールスを始めていきますが、業界としてテレビメディアの測定をどうしていくかは放送局だけではなく広告会社さんも含めて議論していく課題だと思っています。」
--逆に言うとAdRMをみんなが評価していけば、次はこれで全国を評価したいし今のパネルでいいのかの話になるでしょうね
「パネル調査自体を否定するわけではないのですが、パネル数を増やすというのも現実的なソリューションではない気がしていて、そこはブレイクスルーが求められますね。」
※その後のメールのやり取りで、「スグリー」というサービスも教えていただいた。広告会社が直接、テレビ広告の運用作業ができるという。
実は30分という短い時間のインタビューだったのだが、濃縮した内容の取材になった。そしてAdRMプラットフォームについて最初にお話を聞いた時に引っかかっていたことの答えがもらえてスッキリした。それは、インプレッション取引にするだけでは視聴率と変わらないのではないか、という疑問だった。ターゲットを指定した取引にしないと、広告主のニーズにはまらないし、取引単位が変わるだけではテレビCMの価値は変わらないのではないか。
何しろ最近は、広告主サイドを取材すると進んだ企業はさまざまなデータを持っている。テレビ局は15歳区切りの視聴率しかデータを持っていないのに、企業の側はもっと細分化されたデータを見ている。買う側の方が売る側より詳しいデータを持つという不思議な状況に陥っていたのだ。
それが「25-34歳の女性、100万imp」のような買い方ができるようになるなら、広告主のニーズにハマるだろう。そしてその結果、GRPで買うより高い価格水準になる、その可能性は十分あると私は思う。
そして武井氏の言っていることは、最近取材した2つの事例とも重なる部分が多い。併せて読み直してもらうといいだろう。
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