凪良ゆう著 「流浪の月」がとても刺さり、そこから凪良ゆうさんのファンになった。 今回の作品は個人的に「流浪の月」を超えた。 まず文章がすごく綺麗。鮮やかと違う、少し寂しくなるような、けれども美しいような表現が多い。読んでいて感じた感傷は、黄昏時に感じるようなものだった。書かれた内容も影響しているかもしれないが、本当に綺麗な文章を書いてくれる。 生きることは、選ぶこと。 流浪の月の時もそうだったが、自分の人生を生きること、生きようとすることの大切さや難しさ、私はここにい
四人の姉妹が家族になっていくストーリー。 すずが徐々に家族になっていく様が、ゆっくり暖かく描かれている。 元々他人だった3人と1人が2時間ちょっとの映画の中で違和感なく自然と繋がっていく。 元々漫画が原作とのことだが、映画の脚本の緻密さ、俳優たちの演技の巧妙によるものと思う。 家族の暖かさ、というより家族でいることの尊ささが強調された映画だった。
保護司という、犯罪を犯した人の更生に寄り添う職業。無給らしい。 恥ずかしながらそういう職があること自体はじめて知った。 あらすじを見て、罪を犯した人間にずいぶん手厚いななんて思った。 でもそうじゃない。罪を犯した人間にこそ寄り添ってくれる人が必要なのだ。 罪を犯したものが、刑務所から社会に出た時暗い孤独の中にずっといるとその人間はどんどん深く落ちていき更生できず罪を繰り返してしまう可能性がある。 もちろん、保護司がいれば絶対罪を犯さないなんてことはない。いてもいなくても再犯
中村文則著 重く、暗い。マニアックだけど上級なサスペンス映画を観たような気分になる。 誰も救われない。誰も幸せになれない。正しいことなど一つもない。 洗脳や精神干渉による記憶操作って恐ろしい。 フィクションの世界のためどこまで信憑性があるか分からないが、人間の精神な想像以上に脆いのかもしれない。 最後がとても切なかった。 この著者が描く、人間の醜い部分、秩序の裏側、と言った本質的な悪はほんとに恐ろしい、
ディズニー映画と侮るなかれ。 まずエマストーンの演技がとても素晴らしい。 どこかあどけなく純粋なエステラから、強い意志を持ち自信に満ち、悪意を持つクルエラへの変貌の様が同一人物とは思えない。 物語も復讐劇を主体としてはいるが、要所要所のディズニー的なギャグ要素も光る。 あとはなによりファッショナブルな映像がとても印象的だった。
武者小路実篤著 簡単にいえば友情をとるか恋愛を取るかと言った話。 客観的に見れば主人公の野島は今で言うモテない男の典型みたいなもので、勝手に相手を神格化したり、構ってくれないとすねたり、かなり自分本位な恋愛をしている。 しかし、若い時の恋愛などそんなものではないか。好きな人のことしか考えられなくなり、その人とどうにか話したい、その人がどうか自分のことを好きになってくれないかと祈るものだ。 ただ実際は大宮のような男の方がモテる。 杉子も杉子で、杉子からしたら大宮を好きにな
灰谷健次郎著 教育というものの難しさ。 教師ほどその人間性で勝負しなければならない仕事はないと思う。 子供に寄り添うことはかけがえのないことである。 「誰も人に教える資格なんてない、けど教師という存在は必要。そこに自己矛盾もあるが、それをわかっていることが重要である。」 作中に書かれた言葉であるが、教師が教師として立ち振る舞い、子供をよりよい方向に成長させるためにほどうしたらいいのか。 心があったかくなる話であった。 倫理観や正義、自由など読みやすい文章の中に人間の本質
中村文則著 重く。暗い。 本著者の作品の主人公にはいつも感情移入はできない。 解説でも著者が書いているように、昨今の一般的な大衆小説とは一線を画すものである(いい意味でも悪い意味でもなく)。 主人公の虚言や不可解な行動は美紀を失うことにより、心のよすがを失くしてしまったための行動であるのか。もちろんそれもあるが、両親を失くし、里親からも手放されるシーンからそれだけではないと考える。育ってきた環境からある意味では生き抜くために自分を殺し、本当の自分、というものに対して無関心
安部公房著 砂や汗の描写が生々しく、自分の身体にまで砂が纏わりついてくるようや気がした。 この小説の凄さはその見事なまでの情景描写だけではない。狂った世界に飲み込まれ、足掻き、犯されていく男の精神構造を恐いくらい現実的なものとして描いている。 理不尽で、無秩序な世界に自分も足を踏み入れてしまったかのような錯覚に陥る。 粘り気のある文章でじんわり不快になるが、まさに砂に飲まれるようでもページをめくる手が止まらなかった。
中村文則著 物語は、重く陰鬱とした雰囲気で進められる。 主題は死刑制度、というものだけでなく人の命、悪、といった人間の本質的な問題にまで及ぶ。 著作は作品の中で、いかなる理由であれ人が人を殺すのはよくない、といった簡単な考えではなく人そのものと命とを別に考える必要があるという。 命と罰とを考えた時、作中にもあったがその線引きははっきりとしているのかと問われた時にしていると答えることはできない。 だから死刑は無くすべきだ、という話ではない。被害者遺族や関係者は、加害者がのうの
中村文則著 2005年芥川賞作品 今が大事というが、結局今は過去の積み重ねに過ぎない。凄惨な子供時代を過ごした主人公にその影響は色濃く残っている。 引き摺り込まれるように死に向かっていくが、根底にあるものは生への希望であるかのようにみえる。 恐怖を克服したいと気づいた主人公が、白湯子とという存在と幸せになっていけるような最後に希望が持てた。
中村文則著 スリを生業にする男の話。 スラスラ読めるが、本当に著者が言いたい、表現したいことを理解しようとするとよくわからない。 後書きでは運命に抗う人の話とこぼしていた。 まともなじゃない仕事をしている主人公とそこに関わるまともじゃない人たち。ストーリーとしてもミステリーやサスペンスなような形だがいまいちすっきりしなかった。 また、後書きで著者は語ってはいるが、本作で表されている塔とはどういった意味があるのか。 佐江子なる存在や石川の存在も薄いまま(あえてかもしれない
中村文則著 銃を拾った大学生の話。 元々主人公にはサイコパス気質があったように思える。一口にサイコパスと言ってしまえば簡単だが、人がなぜこのような発信するのか分からない。自分の事も分かっているようで、よく分からない。ただ、感情が乏しいように見えて実は心ではなく身体的な影響が出ていたりする。 結局、「銃」という現実的に未知で、絶対的な力に屈服させられてしまっている。徐々に、徐々に主人公がおかしくなっていく様が怖かった。 元々あるサイコパス的な気質(実際にはそうではないのか
三島由紀夫著 1949年に発表された作品。 三島由紀夫を初めて読んだ。 彼の内包する美意識や性に対する葛藤がとても繊細でそれでいて豪快に書かれている。 今では同性愛は当たり前で、異性愛者となんら変わりがないとする社会であるが当時は違ったのだろう。 「正常」(作者が本文の中で言う)になりえない自分との対話、自分でさえわからない欲望との対峙、これをまざまざと語っている。結局主人公(著者ではなく)はなにになりたかったんだろう。社会や個人へのメッセージ性があるだけが小説や映画では
川端康成著 難しい。 自分の頭では全部を理解できない。 比喩表現やメタファーなどが色々織り込まれているのだとは思うのだが、拾いきれない。 ただ、これぞ文学という鮮やかな表現の数々。 世界観に引き摺り込まれ1日で読み切ってしまった。 一般的な現代のエンタメ小説ももちろん面白いし楽しめるのだが、こういった純文学は心の奥底の感情に響くようで一日経っても二日経っても余韻が残っている。 本当の意味や著者の意図を理解できるようになればもっと楽しめるのだろう。
高慢と偏見 ジェイン・オースティン著 中野康司 訳 古典に分類される本作だが、非常に読みやすく最後まで楽しく読めた。 当時読むのと、2022の現代読むのとでは捉え方や楽しみ方も変わってくるのかなと思った。 そんなに簡単に結婚してしまうものなのかと思ってしまったけど当時は付き合うとか同棲って感覚がなかったのか。時代背景や書かれた土地への知識があればもっと楽しく読めたかもしれない。 ただ、気持ちよりも社会的地位や財産前提で結婚を考えるところは現代日本でも通ずるもの