絵カードによるコミュニケーション支援
PECSとは、コミュニケーションに困難のある人を対象とした、絵カードを用いた代替/拡大コミュニケーションの手法です。
自閉症や、その他さまざまなコミュニケーション障害のある人が、自発的なコミュニケーションを身につけるための学習方法としてつくられました。
様々な場面で活用できる点がPECSの大きな特徴。
早期からPECSを使用している幼児が、発語ができるようになったケースもあります。
今回はPECSの進め方についてまとめてみたいと思います。
対象
・発語はあるけど、他者に向けてではなくコミュニケーションとしては成り立たない
・自分から他人に話しかけることはない
・言語的なコミュニケーションが難しい
このような人たちは、PECSによって対人接近や自発的なコミュニケーションを習得することができます。
発語できない人にとっては音声的なコミュニケーションの代替手段。
言葉を話せる人にとっては、コミュニケーションを拡大するためのシステムとなります。
進め方
PECSは、6つの指導段階で構成されています。
①やりとり
まず、コミュニケーションパートナーが、対象者が欲するアイテムの絵カードを1枚提示します。
対象者は、欲しいものを交換するために絵カードを拾い上げ、コミュニケーションパートナーに渡します。
コミュニケーションパートナーは、そのアイテムの名前を言いながらアイテムを渡します。
このトレーニングを行うには、そのアイテムが子どもにとって本当に欲しいものになっているかどうかがポイント。
子どもが自発的に行動をしてから交換をするという点にも気をつける必要があります。
この段階では、コミュニケーションを自発的に行うことが目的。
絵カードが何を意味しているのかを理解したり、区別できていなくても大丈夫です。
②距離と持続性
次に、①で学んだ内容を般化していきます。
般化というのは、どんな場面でも応用できる状態にすること。
対象者は、いろんな場所やさまざまな距離にあるコミュニケーションパートナーに対して、絵カードを交換しに行きます。
この時、自ら交換しに行くというのがポイント。
さらに、支援者は持続的にコミュニケーションするよう対象者を指導します。
ここでも絵の理解や区別はできていなくて大丈夫。
①と②の段階では、「他者とのやりとり」に重点を置きます。
③絵カードの弁別
この段階で、対象者が好みのものを区別(弁別)し、選択できるようにしていきます。
弁別トレーニングは、マジックテープのついたバインダー(コミュニケーションブック)を使用します。
2つ以上の絵カードから、好みのものとそうでないものを弁別することから始めます。
その後、好みのアイテムを違う絵柄でも弁別できるように、段階を進めていきます。
自分の欲しいものを要求するために2枚以上の絵カードの中から正しいものを選ぶ練習をしていきましょう。
④文構成
この段階では、簡単な文をつくることを学びます。
好みのアイテムの絵カードと「ください」と書かれたカードをつなげて文を作ります。
最初は「ください」と書かれたカードをあらかじめコミュニケーションブックに貼り付けておきましょう。
左側にスペースを空けておき、ほしいアイテムの絵カードを貼ってもらいます。
それができるようになってきたら、次は絵カードと「ください」と書かれたカードの両方を貼ります。
こうして、文カードを指さすことへと段階的に指導していきます。
この段階で、できればコミュニケーションパートナーは文カードを読み返して、ある程度発語を促してみます。
強制しないように十分注意しながら、あくまで自然に行うが必要があります。
⑤応答による要求
「何が欲しいですか?」という質問に対して、PECSを用いて応答できるようになることを目指します。
はじめは、質問をする際に文カードを指さす身振りを行うヒント(プロンプト)を与えます。
段階的にこのヒントを外していき、様々な質問に答えられるようにしていきましょう。
⑥コメント
最終段階では、周囲で起きた出来事についてコメントできるようになることを目指します。
「何が見えますか?」
「それは何ですか?」
というような質問に対して、対象者は「見えます」「聞こえます」「です」などの述語カードを使って応答を行います。
こうして文構成の理解をさらに深めていきます。
まとめ
PECSは音声言語を用いずに相手に意志を伝えられる手段ではありますが、進めていくにあたってコミュニケーションスキルが高まることが期待できます。
PECSを導入したことで、その子にとって話す必要性を感じなくなり、喋らなくなってしまうのではないかという懸念をされる場合が多くあります。
しかし、PECSの導入の大きな目的は【人との関わりやコミュニケーションが楽しく便利だと思ってもらうこと】にあります。
なかなか本人の意思がわからない、伝える手段がわからない、どうコミュニケーションをとればいいか悩んでいる。
こういった方々にとっては、意思疎通を図るための大きな架け橋になる可能性があるのです。
PECSはまずきっかけとして、人とのコミュニケーションが持てるようになってきてから続けるか、やめるか、もしくは音声言語と併用か、その子に合わせて柔軟に変えていくのがベスト。
人はロボットではありません。
その子の特性、性格、周りの環境、保護者との関わりなど多方面から考えて上手に活用していきたいですね。
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