犬を飼ったことがない私が働く犬さんのピンチを救ったかもしれない話
「ナナちゃん、スタンダップ。スタンダップよー」
そんな声が聞こえてきたのは、大勢の人が行き来する夕方のペデストリアンデッキ(高架の通路)でした。
姉と二人で実家に行った帰り道。駅に向かっていた私たちは、通路の端で立ち止まっている女性とお座りしている犬に出会いました。
白い杖を持った目の不自由な方と盲導犬でした。
話を伺うと、盲導犬が理由がわからず座り込んでしまい困っている、駅まで誘導してほしいとのこと。
駅から商業施設へ伸びる黄色い点字ブロックは、彼女がいる場所とは反対側の通路の端にあります。
「点字ブロックのほうに行きますか?」とお聞きすると、人の流れが商業施設に向かう一方向になってしまい(彼女は逆方向の駅に行きたい)、さっき弾き出されてしまったそうです。
私たちがそんな会話をしている最中も、大勢の人がひっきりなしに行き交っています。
目の不自由な女性はナナちゃん(盲導犬の女の子)をなんとか立ち上がらせ、姉が女性に腕を貸し、誘導する形で駅に向かいました。姉と女性、半歩後ろにナナちゃんと私。
が、ナナちゃんはすぐにお座りしてしまう。
思わず背中を撫でたくなるが、盲導犬にいい子いい子してはいけないと聞いたことがあるのでがまんがまん。
「やっぱり点字ブロックのほうがナナちゃん歩いてくれるかしら」と女性がおっしゃり、再びナナちゃんに立ち上がってもらい点字ブロックのほうへ移動することになりました。
言い忘れたけど姉はいくつになっても身内がひくくらい陽キャなブリッコです。ここでもそれを発揮して
「とおりまぁ〜す」「すいませぇ〜ん」と声をあげて人波をかき分けていきます。
点字ブロックは商業施設に向かう人波に完全に覆われていました。が、姉のブリッコ力のおかげで私たちが向かう先は自然に人が避けてくれます。
姉、グッジョブ。
ナナちゃんも調子良く歩いてる。
体格のいいスーツ姿の男性4〜5人が正面から向かって来るも、パッとバラけてすれ違いざま私たちを振り返っていくのが見えました。
振り返る…?
悪意は感じなかったけど、どこか物珍しい目で見られていたのでしょうか。
改札が見えてきたころ、後ろからバタバタバタッとものすごい足音が。
髪の毛を振り乱して走ってきたメガネの女性が「あの!」と声をかけてきたので身構えました。この人も好奇な目で見ているのか?
「ワンちゃん、う◯ちしちゃってます」
はぁぁ???
何言ってるのこの人。
私、ナナちゃんの隣にいましたけど。
あそこと指差す方向を見ると、10メートルくらい後方に複数の黒い落下物を目視できました。
ぬ、ぬぁっ!!汗
先に進んでいた姉と女性(とナナちゃん)に声をかけ、とにかく私だけでもと謎の使命感に燃え、教えてくれたメガネ女性と一緒に現場に駆けつけました。
あ、今日レジ袋持ってたかなあ。
カバンをあさっているとメガネ女性がレジ袋を渡してくれました。
さーどーする。
私は犬や猫を飼ったことがない。
落ち葉掃きボランティアをしたとき、タバコの吸い殻が落ちてたら袋ごしにつかんでひっくり返して回収したけど、あのやり方でいいよね。
黒々とした「かりんとう」みたいなう◯ちは大小4本。オーケー。
すべて回収したころ、姉と女性とナナちゃんが追いつきました。
女性はリュックからアルミのジップロップのような袋を取り出しました。おそらく排泄物入れなのでしょう。
(かりんとう)を回収したレジ袋を渡そうとしたら、ナナちゃんが「あ、すみませんすみません」と言いたげにレジ袋にすりよって来ました。
「だいじょーぶだよー」
ここでもめっちゃ撫でたかったけどがまんがまん。
教えてくれたメガネ女性に私たちがお礼を言うと、
「私も犬飼ってるんで気になっちゃって」と話してくれました。
私はもちろん当事者ではないけれど、好奇の目じゃなくて、何か手伝うことはないかと見守ってる人たちは案外多いんじゃないかと思いました。タイミングが違ったら、この人が誘導役をやっていたかもしれません。
女性とナナちゃんを改札まで送り届けたあと、私と姉は通路を少し戻ったところにあるカフェに立ち寄りました。姉のおごりでチョコレートドリンクを注文。
そもそも点字ブロックが片側にしかないのがおかしいよね、明日鉄道会社のお客様相談室にメール送らなきゃ、と姉。
点字ブロックが、他の人が歩いていて隠れてしまってるどころではないのです。人の流れが自然に出来上がっていて逆方向に移動することすら困難でした。
もう1本点字ブロックがあれば流れの棲み分けができたことでしょう。
私も鉄道会社になんか言うたるわと約束しました。
あとさ、と姉。
最初に犬さんがお座り状態だったのは、う◯ちのせいだったのかもしれないね。
普通ならソワソワしたり唸ったりしそうなのにおとなしかったよね。
ナナちゃんがしゃべれたらよかったのに。盲導犬のことはよくわかりませんが、きっと大変な労働環境なんだろうとチョコレートドリンクを啜りながら思いました。
後日、鉄道会社の問い合わせコーナーにメールを送ったけれど、残念ながら返信はありませんでした。(2203字)
【あとがき】
この話を書いていいものか正直迷いました。
働く犬さんには不名誉なことかもしれません。
書いちゃってごめんなさい(犬さんの名前は仮名です)。
点字ブロックのこと、盲導犬のこと、関心を寄せるきっかけになりました。
追記:犬さんが座り込んでいた理由
犬さんじゃないのでもちろんわからないんですが、点字ブロックがない場所だから座り込んじゃったんじゃないかと最初(私と姉は)思ったんです。
飼い主さん(目の不自由な女性)にお聞きしたところ、点字ブロックはあくまでも目の不自由な人のためのもの。犬さんは点字ブロックがないところでも普段は歩くそうです。
なので後からうんちのせいだったのかと思ったわけです(人の多さや不慣れな場所だったなど別の理由ももちろん考えられますが)。
参加します!
誰でも参加できます!
サムネ画像は 高井じゅり様にお借りしました。
それではまた!