【洋書多読】The Fuzzy Mud(188冊目)
ルイス・サッカーの『The Fuzzy Mud』を読了しました。
ルイス・サッカーといえばなんと言ってもニューベリー賞を受賞した『Holes』が有名で、僕も大好きな作家です。『The boy in the girls bathroom』とか、数多くの名作を夜に送り出す多産な作家です。
そのサッカーの『The Fuzzy Mud』、僕はこの本のことは知らなかったんですが、Twitterで話題になっていたことと、渡辺由佳理さんの「洋書ファンクラブ」でその存在を知り、手に取ってみることにしました。
英語学習者の多読教材としては結構いいかも
その渡辺由佳理さんが「洋書ファンクラブ」で書かれている通り、『Holes』クラスのものを期待して手に取るとちょっとがっかりしてしまうというのが、個人的な本書に対する忌憚のない評価です。
お話に意外なプロットが隠されているわけでもなければ、取り立ててなにか教訓的で示唆に富むような言葉なんかも、これと言って見当たらないからです。
でも「英語多読」という観点からすると、本書は幅広い英語学習者におすすめできる一冊になっています。以下にその理由を挙げてみます
1.カチッとした英文法で書かれている
まずは、割ときちんとした英文法で書かれている点が、英語学習中の人にとっては非常に読みやすいんじゃないかという点です。
と言っても別にカクカクした堅苦しい英文というわけではなくて、そこは子供の読むものですから、小学生でも十分理解できる読みやすい英語で書かれています。
このくらいのレベルのこの感じの英文をたくさん読むというのは本当に英語力アップに効いてきます。「英語の読みやすさ」という点から英語多読オススメサイトでいつも登場する『Goose Bumpsシリーズ』とか『Animorphsシリーズ』といった名作に匹敵するポテンシャルを秘めているとおもいます。
お話の大まかな系統も、両者にとても似ていますしね。
2.お話のテンポが良くてついつい引き込まれる
『Holes』と比べるとイマイチとは言え、そこは売れっ子作家のサッカーですから、お話がつまらないということはないです。
1チャプターも適度な長さで、10分もあれば十分読めてしまうところも、多読用にもってこいなんじゃないかと思います。
それに何より、お話の展開が適度に早くてテンポが良いので、ついついもうちょっと先を読んでしまいたくなるんですね。ここも多読に向いている理由の一つかなと思いました。
3.子どもたちがしゃべるセリフも読みやすい
洋書を多読する時にネックになるのが「カジュアルな会話表現」です。
会話なので文法が崩れていたり、結構なスラングを含んでいたりするので、意味を見失ったり意味が取れなかったりするんですが、『The Fuzzy Mud』の登場人物たちは、主人公の男女が名門の小学校に通っていることからも分かるように「ちゃんとした」英語を喋ります。
なので純粋に「ああ、こういうときはこう言うんだ」っていう勉強になります。英語がある程度分かるようになってくると、みんなスラングとか「ネイティブはこういう時こういう」みたいな知識に惹きつけられるようになるけれど、そこで変にその手の書籍に手を出したりするよりは、こういう児童書を読んで文脈の中で表現を覚えていくほうが遥かに伝わる英語が身につきやすいです。
ただ、いくら文脈の中で出会ったほうがいいとは言え、あまりに汚い言葉とか崩れすぎてる英語はやっぱり避けたほうがいい。でも『The Fuzzy Mud』ではそういう英語に遭遇する心配はあんまりありません。
サッカーはアメリカのロアルド・ダール?!
サッカーは「子供の心理」を書かせると本当に天才だと思うんですが、その本領は十分この『The Fuzzy Mud』でも発揮されています。
彼の作品を子供が読んでどう感じるのかは想像ができないけれど、少なくとも僕たちの年代の人間が、子供だった当時の自分になったつもりでサッカーの著作を読んでみると、本当にシンプルに童心に返ることができるって思っています。
勇気を振り絞って何者かに立ち向かったり、ちょっと切なかったり、隣の席の男子/女子にほのかな恋心を抱いてみたり…。おとなになっていくことで僕たちが忘れてしまう純心さ、純粋さを、サッカーはきちんと僕たちの前に差し出してくれるんです。
サッカーと言うと『Holes』のような、映画化されるような名作のイメージに引っ張られがちになるけれど、サッカーのいいところというのは物語の展開とかプロットの複雑さ以上に、巧みな子供の心理描写とかサッカー自信が内側に秘めている純真さが溢れるテクストそのものなんじゃないかなぁと。
そういう意味では、現代のアメリカ版「ロアルド・ダール」っていうのが近いのかもしれません。
ダールは結構はっきりと好き嫌いが分かれる作家ですし、文章もちょっと読みにくいことがあるけれど、それより遥かにとっつきやすいのがルイス・サッカーの世界観だと思います。『The Fuzzy Mud』はそんなに長い小説ではないので、ぜひ手にとっていただいて、これを機にサッカーワールドの扉を開けてほしいなぁと思います。