【洋書多読】Daring Greatly(241冊目)
Brene Brown(ブレネー・ブラウン)さんをご存知でしょうか?アメリカを代表するソーシャルワーカーの一人で、恥の研究で有名な大学教授です。
彼女がvulnerability(傷つきやすさ、脆さ)について語ったTED Talk『The Power of Vulnerability』はTED史上、最も再生回数の多いピッチの一つなんだとか。
そんなブラウン氏の名著として名高い『Daring Greatly』を読了しました。
2023年もそれなりにたくさんの洋書を読みましたが、この本は間違いなく「読んでよかった」と思える良書の一つでした。
vulnerabilityを認める勇気こそが、幸福に生きるための第一歩
自分の「脆さ・弱さ」を認めてさらけ出すことが本当の強さであるということ、そこから人は、人にとって欠くことのできない「人と人とのつながり」や「社会の一員であるという強い感覚」を得るのだということ、そしてそれが創造性や力強さといった、ポジティブなすべての源泉であるということ。これが本書のテーマです。
一方で、それをためらわせるのが「恥」の感覚だということもまた、ブラウン氏研究におけるの重要なテーマのつです。
「恥」の感覚は「自分はこの集団・社会に必要ない人間なのではないか?」という疑念を抱かせます。人と人とのつながりが切れることは人間にとって致命的です。
そんな「恥」を手懐ける最も有効な手段こそが「vulnerability」だ、これがブラウン氏が生涯かけて取り組んでいる、膨大なインタビューの蓄積による研究から明らかになった事実です。
強い男であること、完璧な親・妻・女性であること、優秀であること…を是とする社会。それがいかにこのvulnerabilityを認める勇気を損ない、個人の可能性と社会の連帯感を弱めているか。そしてそこから立ち直るために、私達はどのように振る舞うべきか…?について書かれたのが本書で、分断と孤立化を深める社会の処方箋と言える一冊になっています。
英語はちょっと難しいです
一人でも多くの人に読んでいただきたい。これが本書を読了した時に最初に抱いた感想なのですが、残念ながら本書の英語は難解と言わないまでも、それなりに難しいものになってはいます。
ただし、著者の一人でも沢山の人に読んでもらいたいという配慮からか、なるべく専門的な用語は避けて平易な表現で書くことを心がけている様子が垣間見られて、とてもリーダーフレンドリーな一冊だな、という印象はありました。
それでも、TOEICは最低800点はほしいところです。英検でも、準一級は楽に合格できるくらいの英語力がないと、この分野の専門的な知識がなければ読みすすめるのにそれなりに骨が折れるんじゃないか?そんな気がしました。
僕は幸い、日本を出て世界一周をするまではブラウン氏と同じソーシャルワーカーとしておよそ15年間薬物依存症者の方の支援や精神障害者の方の地域生活支援を生業としていましたので、それなりに読みすすめることができました。それでもブラウン氏の時にシリアスで、時にウイットに富んだ独特な語り口は、それなりに高い英語力と異文化理解力を必要とするんじゃないかという気がします。
内容に興味はあるけれどそこまでの英語力があるか自信はないという方は日本語訳版(邦題:『本当の勇気は「弱さ」を認めること』)もありますので、そちらをぜひ手にとっていただきたいです。
内容に興味はあるが、忙しくて本を読む時間がない、あるいは本を読むことがそもそも得意ではない、という方は、こちらの2つのTEDをご覧いただければ、本書の内容の要点は網羅されていると思います。
どちらもとても面白くて、そしてちょっとうるっとさせられる素晴らしいトークなので、英語に自身がある方は英語で、英語はちょっと…という方は日本語字幕で楽しんでいただきたいなと思います。
僕の「恥」について語ります
41歳の年の11月、世界一周をするために日本を出た僕は、旅に必要な英語を学ぶためにフィリピンのセブ島の語学学校に留学しました。
そこで出会ったスタッフの、英語がとてつもなくよくできる日本人の男性スタッフに教えてもらったのがBrene Brown氏のTEDトークでした。
その年の1月にうつ病になり、療養の甲斐なく退職しました。自治体病院の精神科正職員という安定した地位を手放すことになったことは、自分にとって大きな「恥」でした。日本にはもういられない。いたくない。そういう理由もあって、僕は旅に出ました。
父からも「うつ病になるのは弱い人間だ」という趣旨のことを療養中に言われ「そんなやつは死んでしまえ」とまで言われました。単身での療養生活で寄る方がなかった僕は、最後の頼みの綱であった父に辛辣な言葉を投げかけれて、完全に社会から拒絶されてしまった気がしたものです。
こういう自分語りは「恥」を衆目に晒すことでもあります。しかしながらブラウン氏によれば「恥」を乗り越える方法は「語ること」んだといいます。「恥」を語らず、心にしまい込む振る舞いこそが、「恥」の感覚に餌を与え続けることなんだ、と。
そんな振る舞いが人を内側に閉じこもらせ、社会から隔絶させるんだ、と。それが今日ご紹介した『Daring Greatly』に書かれてあることです。
逆に、そんな恥の感覚を乗り越えて、自分の弱さを受け入れ、さらけ出し、受け入れられないことの恐れを乗り越えて果敢に挑戦する姿こそが、人を連帯に向かわせ、自己肯定感を育む培養基になるのだ、というのが先にご紹介した英語学校のスタッフの男性が教えてくれた『The Power of Vulnerability』というTEDトークです。
あれ以降、僕は折に触れてうつ病の話をしてきました。そしてそのことが、こうしてたくさんのnoteの読者の方に読んでいただけたという事実や今の僕の自由な生活、そしてかけがえのない仲間との繋がりをもたらしてくれたんだ、という結果をみるにつれ、ブラウン氏の言説と、vulnerabilityが持つ本当の力を垣間見られたような気がしています。
ブラウン氏のTEDトークを初めて視聴してから8年が経ちました。当時とは比較にならない英語力を携えて英語のお仕事をさせていただいている今の自分を作ってくれたのは、間違いなくブラウン氏と、あのときこのピッチの存在を教えてくれて、今も僕の大切な親友の一人で有り続けてくれている「けんちゃん」にほかなりません。