エリクソン研究会記録『ミルトン・エリクソンの心理療法セミナー』P241L13〜P247L4 第35回
※本記事はめんたねにて2013年3月〜2017年6月まで行われたエリクソン研究会のメモ書きを文字起こししたものです。テキストは『ミルトン・エリクソンの心理療法セミナー』を使用しました。メモ書きなのでテキストを読んだ前提でないと、わからない書き方になっていることにご注意ください。
また、エリクソン研究会では現在別のテキストの『2月の男』を読んでいます。
http://mentane.net/workshop/pg167.html
P=ページ数 L=行数
読んだページ数P241L13〜P247L4
P242L3 エリクソンはタイプ音から何故月経が解ったのか?
何故かは解らないが、エリクソンには音が違うのが解るのだ。
この話は2つの視点で見る必要がある。
①話の中身
②WSのこの場で話す目的
これはエリクソンが医者であることと関係している。医療関係者は患者の外側、表層構造を見る。表層構造にはいくつかの違いがある。例えばある患者を前回見たのと、今回見たのとでは違いを感じることがある。この違いは何から来ているのか?ここで推測して仮説を立てる。
愚痴が多いときは体のある部分が固いなというパターンを見つけたり、ストレスが多いときは腰が硬くなるなと気がついたり。
このように医者は外の現象を丁寧に観察することで、内の構造原理に対して仮説を形成する。仮説なので正しいかどうか不明だ。この作業を繰り返すことで仮説から外の現象を予想することも出来る。
医学を学ぶ人はこの仮説形成のシステムごと学んでいる。最初に医学を興した人は、この患者を観察し仮説をたてるという、仮説形成のシステムを自分で作り出している。システムを作るのに重要なのは差異である。1回目と2回目がどのように違うのか?ということを見る。
エリクソンのトレーニング法で、クライアントに対して予測を立て、初回の予測を封筒に入れて、治療が終わり次第最後にチェックをするという話がある。このようにエリクソンは常に予測仮説を立て、確認をする作業を繰り返して、仮説形成の技術を磨いていた。
NLPの視線解析も仮説形成の話に近いが、あれはある種の方便とも言える。視線も人によって違うことは多い。ただ、初学者がいざ観察を始めようとすると何から見たら良いか解らず途方に暮れるので、右への視線は過去で、左への視線は未来。というように、パターンを決め打ちして、観察のための動機づけという狙いだろう。
慣れてくると視線だけでは無く、首、仕草、振る舞い、色々と見ていって、どのように相手が反応するかチェック出来るようになってくる。
仮説は誰に対しても通じる一貫性があると良い。だれにでもその仮説が使えるからだ。しかしエリクソンはそれを否定する。人によってそれぞれ違うのだと。各個人のパターンを知りなさい、その為には観察しなさいという話だ。
「見る」と「顔色をよむ」の違いは?P242
エリクソンの混乱技法的アプローチだ。この物言いだと、見るんだか、見ないんだか解らない。何故こういう物言いになるのか?仮説としてこのように考えられる。
「私はあなたの事をみません」というのは意識に対して話す。
「私は顔色を読めます」は無意識に対して話す。
このワークショップは参加者に対する教育と心理療法を行う2つの側面がある。エリクソンは参加者に働きかける気がまんまんなので、だからわざわざ見るのだ。今まで散々見てきてやってきて、今更「見ません」だなんて、何を言うかという話だが。
「見ません」というと安心する参加者も居る。だが、その一方で「私は顔色を読める」と伝えるのは何故か?エリクソンがよく言う言葉で「患者に嘘をつかせてはいけません」というのがある。患者が嘘をついたときにカウンセラーが見極めないと、このカウンセラーの前では嘘をついても良いのだと無意識が学習してしまうからだ。だから、カウンセラーはクライアントに「この人の前では嘘をつけない」と思わせる必要がある。
この様な言い方をすると参加者のガードが緩んで、色々と自分の事を吐き出すようになる。その様にして学習効果を狙う。実際にエリクソンは顔色を読むことが出来る。占い師の技術に近い。つまり、相手の一部さえ読めれば良いのだと、100の内3~5真実を読めれば良い。そうすると、相手は勝手に100読めるのだと思い込んでくれる。読めると思い込んで関わってくれるので教育効果が狙える。
エリクソンはなぜ観察したことを看護婦にいうのか?
意図はある。倫理の話として、患者を守るために見ている。問題のある人が仕事をしない場合は、医者の監督不行き届きになってしまう。
①伝えても問題がないと思っている
②伝えると、相談してくる人がやってくる。
③自分の仮説をチェックしている。相手の反応で当たりはずれが解る。
④情報を集め、能力を高めるトレーニングをしている。
なぜ先にいうのか?
こういう時に働く心の動きは何か?という視点で考える。例えば髪を切った人が居たとする。内心その人は自分で似合ってないなと思っていて、他人に似合ってないと指摘される前に、自分で「似合ってない」と言う。
これは何故か?
なぜ人は言われる前に自己申告するのか?自己申告する人と、そうでない人では何が違うか?自己申告する人も、自己申告するときと、そうでない時では何が違うか?
このような心の動きは知識として知っていても意味がない。観察したうえで理解しないと現場では使えない。だからエリクソンはパターン化で見抜いたものは伝えない。エリクソンが教えるのはどのように観察したらよいか?という方法論だ。見ること、仮説を立てること、検証すること。
P243「ミルトン、あの人に触りたくないですか?」と言ったのは何故?
夫婦で心理療法に来るケースでは性的な悩みはよくある話だ。そもそもこの夫婦2年も精神分析をしているところから異様である。
エリクソンはフロイトの悪口をよく言うが何故か?
これは、エリクソンとフロイトの解釈の違いから来ている。フロイトは無意識を闇にネガティブに見る。エリクソンは「無意識の声を聞け」という言葉にもあるように、無意識をポジティブに捉える。またカウンセリングに対するスタンスの違いもある。エリクソンは早くカウンセリングを終わらせるが、フロイトは10年20年精神分析をやることがザラだ。
この発言はエリクソンとクライアントが打ち解けているかどうかは関係が無い。カウンセリングをやっているとこういう事はしばしばある。関わって居ると相手からギョッとする話をしてくることがある。その人にとってとても深刻な話で、そのことで困っていることは無意識で理解している。この人なら話すと解決してくれるのではないか?という期待感からそういう話をする。話は文脈を破壊して言ってくる。こじつける様に話を振ってくる。聞いていると何故こういう風にこの人は話をねじ曲げるのか?と思えてくる。それほどに話す人はその話をしたがる。
例えば、地方にWSに行ったとき、わざわざ東京から地方にワークショップに参加した人が居て、帰りの新幹線で一緒になると、その人から相談が始まったりする。困っていると言葉に出来ないけれども、困っている感覚は確実にあるから、このような物言いになる。
エリクソンがこの話のあとにやったことは、奥さんに報告をして、夫と無理矢理繋いだことだ。この夫婦はわざわざ何故結婚したのか?結婚してから自分の好みに気がついた可能性がある。もしくは自分の好みにOKが出せないタイプの人だった。何が好きなの?自分の判断が信じられない人と言うのが居る。だから世間の判断や、周りの意見で決めてしまうことがある。
何が好きで何が嫌いかが解らない人は、意識と無意識の風通しが悪い。
以前カウンセリングをした女性で
「自分が好きなものを好きというのが難しい」と言う人が居た。子供の頃、何かを「好き」と言うと親から否定されて「好き」という事が恥ずかしいと思うようになってしまった。それ以来そんなに好きじゃ無い、2番目、3番目のものを好きと言うようになった。そうすると、段々自分の好きなものが解らなくなってしまった。普段使う言葉が精神に影響した。
本の売り出しはエリクソンから誘ったのか?
恐らくエリクソンから誘った
心理療法を狙ったのか?
狙った。本人が望んで機が熟せば話すだろうとは思ったのだろう。
夫婦の問題が「おしり」だとエリクソンは何故解ったのか?
普通の人がギョッとするような唐突に出た言葉だからだ。
この人なら相談できるとどこで判断するのか?
ある人が「A」と言う。「A」の中にある、意味やニュアンスは人によって違う。意味「B」で「A」と言う場合は、相手も意味「B」で「A」ならば噛み合う。
しかし大抵は意味は「C」だったり「D」だったりでズレがある。
「こういうことがあって凄く傷ついた」
という話があったとして、「傷つく」とは?その人にとってどんな意味になるか?どんなところ傷つくのか?聞いてみないと解らないかも知れない。
昔、カメケンというアシスタントが居た。小三で不登校になり、中高には行かず大検を受けたいというので勉強を見ていた。学校に行ってないから小四の分数計算を間違えたりする。するとカメケンが「まちがえたんです」と言って落ち込んだ。どうしたのか聞いてみると「傷ついたんです」と言われて衝撃を受けた。この「傷つく」とは?どう理解すれば良いのか?腹が立ったとか、むかつくとか、悲しいとかは言うが、そういえば「傷つく」は言わないなと気がつく。
正確に相手と意味を共有することは難しい。共感は出来なくても、予測が正確に立てば理解は出来る。自分の言った言葉のニュアンス、意味が通じたときに、この人は少なくとも自分の言うことを解ってくれていると思われる。このような基準がクライアントの中にはあるのではないか?
エリクソンがいう「患者の言葉で話しなさい」ということだ。
患者がA-BならセラピストもA-B
P245L2「彼女のこと興味深く」
何故興味深く?
この仕事をやっているとこの人は興味深いと思える人は必ず出会う。何か抱えてそうだと言うことが解る。お尻が大きいことが、この人の人生を妨げているということにエリクソンは気がついている。ただ、カウンセリングを頼まれていないので向こうから相談してくる形を作りたい。
P246L2「とても注意してドアを閉めた」
①聞かれないようにしている
②彼女に喋らせたくない
完全な密室で、彼女が口を出す前にエリクソンは喋りたい。ガチャンと音を立てたら「だれ?」と言って向こうから口を開きそうだ。
何故彼女はエリクソンを拒否したのか?
この人は秘密の多い人だ。人に知られてはいけないことが多い。エリクソンはそういうものが見える人だ。彼女は見られたら都合が悪いと思っている。大抵こういう事は周りの人にとっては問題無い、大したことがないと思われている。こういうタイプの人ははげしく遠ざけて距離を置く。良くあるパターンだ。
「見ないで!」という人は、意識と無意識の動きがちぐはぐだ。意識では他人から見える自己セルフイメージが中心にあり、無意識では困っているけど何とかしたいと思って居るので、何とかしてくれる人を見極めるパワーがある。
多くの患者は治りたいけど治りたくないという形を取る。本当に治ってもいい?と聞くと困るかも...と躊躇することが多い。病状が良い仕事をしているケースもあるのだ。
例えばエリクソンの患者で、飲んだミルクを吐いてしまう女性が居た。その人は結婚していて、旦那の両親が家に来ると症状が酷くなった。
エリクソンは次の指示を出す。
両親が来たらコップ一杯の牛乳を飲み、両親の前で吐けと。実際に女性が吐くと両親はその後始末で掃除をする。両親が来る度に女性はミルクを飲み、両親の前で吐いた。そうしているうちに両親は来なくなった。
症状をつかって自分を守りやすい形に仕立て上げる。不必要な時に出なければ良い。コントロールが利けば症状も問題無い。
「私は自立して完璧である」という人は治療を受けられない。意識では治すつもりが無いので無意識に働きかける。その結果治っても自然に治ったという認識になる。意識に話すときは相手の体面を保って話すことで、相手からの信頼感を得る。それまでは見通される恐怖感が相手にはある。
催眠も同じだ。トランス下の働きを忘れることは、その人の体面を保つことになる。胸が痛まなくなったときに働きかけを思い出すことが出来る。
耐えられないうちは、思い出されない。
ワークショップが始まる一時間前にやってきて「私は悩みが無いんです」と言い出す人が居たりする。本人は間違えて「早く来てしまった」という認識だが、悩める人はこのように無意識が仕事をする。
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