すいよう特集 税逃れ防止へ 枠組み条約づくり始まる課税ルール決定権 富裕国→国連〜すべてがNになる〜
2024年3月27日【特集】
多国籍企業の税逃れが横行する不公正な国際課税システムを抜本的に改めるために、新しい枠組み条約をつくり、課税ルールを決める民主的な機構を国連に確立しようという動きが進んでいます。中心になっているのは「グローバルサウス」と呼ばれる途上国・新興国です。(杉本恒如)
議論参加も日本政府は反対
2023年11月22日、課税のための国際協力を「完全に包摂的でより効果的なものとするため」には国連枠組み条約の策定が必要である、と宣言する国連決議が125カ国の賛成で採択されました(反対48、棄権9)。賛成したのは、提案国ナイジェリアをはじめとするグローバルサウス諸国です。決議は条約案起草に向けて政府間委員会を設立し、24年8月までに草案をまとめることを決めました。
経済協力開発機構(OECD)加盟国などは反対しましたが、その根拠は「すでにOECDで議論が行われている」という薄弱なものでした。決議に反対した日本政府も、政府間委員会での議論には加わっています。
公正な税制をめざす国際NGO「税公正ネットワーク」(TJN)は、「富裕国クラブ」のOECDが60年以上も独占してきた国際課税ルールに関する意思決定権を、すべての国が参加する国連へ移すことにつながる決議だと指摘。「世界中の人々の利益のためにグローバルサウスの国々がもたらした歴史的な勝利だ」とたたえました。
世界の税収損失は46兆円超
多くの多国籍企業は、法人税負担率をゼロ近辺に下げられる租税回避地(タックスヘイブン)に子会社を置き、他国で得た利益を租税回避地へ移転して課税を逃れています。TJNの23年版報告書によると、多国籍企業の税逃れで失われる全世界の税収は年間3110億ドル(約46兆円)に上ります。多国籍企業の税逃れは外資誘致を目的とした法人税減税競争を招くため、各国の税収損失はさらに膨大な額となります。
税逃れへの批判は2008~09年の世界金融危機後に高まりました。調査報道や市民運動に押されて欧米諸国で議会などによる調査が進み、アップル、グーグルといった巨大多国籍企業の税逃れが次つぎに暴かれました。
OECDも対策に乗り出し、12年に「税源浸食と利益移転(BEPS)」対策計画を立ち上げます。利益移転に対処するために、OECDは16年に「BEPS包摂的枠組み」をつくって途上国・新興国の協力を促さざるをえなくなり、同計画への参加は145カ国・地域へ拡大しました。
21年10月に「包摂的枠組み」は2本柱の解決策((1)合算課税(2)最低法人税率)で合意しました。従来の国際課税システムの限界を乗り越える画期的な内容を含むものの、課題は多く残されています。グテレス国連事務総長は23年7月に出した報告書で、OECDの対策は「途上国のニーズに対応する上で限定的な効果しか持たない」ものとなっており、その原因は「途上国が議題設定と意思決定のプロセスに十分に参加できない」ことだと指摘しました。
国際課税に詳しい合田寛・政治経済研究所主任研究員は「税逃れ根絶のためには多国籍企業の母国である富裕国に圧力をかけて国際課税のルールを改めなければならず、重層的な取り組みが求められます」と話します。
「意思決定の場をOECDから国連に移す取り組みは、途上国・新興国や市民社会の意見を反映させる上で、きわめて重要です。同時に、合算課税や最低法人税率などの画期的な仕組みのさらなる前進を求める国民運動を、各国で発展させる必要があります」
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