2024とくほう・特報 政府のマイナ保険証利用強要でトラブル続発厚労省 意図的に説明省き 利用促進に217億円バラマキ〜すべてがNになる〜
2024年7月5日【3面】
岸田自民・公明政権がマイナンバーカードと健康保険証を一体化した「マイナ保険証」を国民に押し付け、保険証の新規発行を停止する12月2日まで5カ月に迫りました。マイナ保険証の利用率が7・7%にとどまるなか政府は、医療機関や薬局に支援金を配って利用率アップに躍起となり市民がトラブルに巻き込まれています。(内藤真己子)
武見厚労相・河野デジ相 薬局きょう視察
「8月から保険証が使えなくなります。次回はマイナンバーカードを持ってきてください」。東京都町田市の金子充さん(77)=年金生活者=は6月半ば、処方箋と保険証、お薬手帳を持って訪れた、大手薬局チェーン・さくら薬局グループの同市内の店舗でこう言われました。金子さんは75歳以上が加入する後期高齢者医療保険の被保険者です。持参した保険証の有効期限は7月末でした。
「5月にも同じ薬局で『マイナンバーカードを持っているか』と尋ねられ、持っていないと答えると『8月から保険証が使えなくなる。次回はマイナンバーカードを持って来て』ときつい口調で言われ不安になりました。他の人にも全く同じ説明をしておりマニュアル通り話しているのだと思いました」。金子さんはこう証言します。
マイナ保険証はトラブルが絶えず使いたくないと考えている金子さん。「8月からどうなるのか」と気がかりで5月下旬、かかりつけの歯科医院で尋ねました。「8月に保険証は更新され新しい保険証が7月に送られてくる」と教えられ、胸をなでおろしていました。
情報を得ていた金子さんは6月、薬局の職員に「新しい保険証が7月に送られてくるはず」と反論しました。職員は「でも12月にはなくなりますよね」と述べたと言います。
金子さんが渡されたレジ袋から薬袋を取り出すと、厚生労働省のマイナ保険証利用促進キャンペーンのチラシが出てきました。「ご注意ください!」「本年12月2日から現行の健康保険証は発行されなくなります」と大書されています。「レジ袋は有料なのにこのときは無料で渡されました。そこまでしてチラシを渡したいのかとあきれました」と金子さん。
同薬局グループ(837店)を統括する「クラフト株式会社」(本社・東京都)薬局支援部は金子さんの事例につき本紙に「マイナンバーカードじゃないとダメだという話は一切していない」と弁明。「スタッフは8月からの新しい保険証が送られてくると認識している。そう伝えているはずだが、正しく伝わらなかったのは遺憾だ」とのべました。一方、保険証発行の終了後も有効期限まで保険証が使えることは本社が「説明していなかった」と認めました。
金子さんに伝えると「8月からの新しい保険証が来るなどと言わなかった。だから不安になったんです。こちらの気持ちをまったく考えず、店の都合で一方的に話をして無理やりマイナ保険証をつくらせようとしているとしか思えない。こんなやり方はおかしいですよ」と憤ります。
武見敬三厚生労働相と河野太郎デジタル相は5日、同グループの都内の薬局をマイナ保険証を「積極的に利用している薬局」として視察します。
声かけ「台本」
大手薬局チェーンを中心にマイナ保険証の利用押し付けによるトラブルが多発しています。全国保険医団体連合会の本並省吾事務局次長はこう語ります。
「『12月以降、マイナ保険証がないといったん10割負担になると言われたが本当か?』などの相談が相次いで持ち込まれています。ある大手薬局チェーンは、処方箋と保険証を出した人に“マイナ保険証でないと受け付けできない”と言って、その場でマイナ保険証の利用登録をさせ、後に誤った対応だったと謝罪文を出すことになり厚労省の社会保障審議会医療保険部会でも取り上げられました」
トラブルの源になっているのが、岸田政権が昨年度補正予算で217億円も計上している利用促進支援策です。マイナ保険証の利用が昨年10月より一定以上増加した医療機関や薬局に支援金を出します。5月から7月を「利用促進集中取組月間」に指定。6月下旬には支援金の上限額を病院は1カ所40万円、診療所・薬局は同20万円に倍増させました。
しかも「申請は不要」(同省)で、利用者が一定数増えたことが確認できれば自動的に支援金が振り込まれるというバラマキです。新型コロナ感染対策の補助金や、介護職員の処遇改善補助金に膨大な申請書類の提出を求めているのと対照的です。
支援金の要件は一定の利用人数増のほか、窓口での(1)厚労省の指定ポスター掲示(2)厚労省作成「台本」に沿った「声かけ」と指定チラシの配布徹底―です。
ところポスターやチラシ、「台本」には、マイナンバーカードを保険証登録していない人には、申請なしで「資格確認書」が交付され、保険診療を受けることができることの説明はありません。また声かけ「台本」には、12月2日以降も最大1年間、現行の保険証が有効との説明がありません。
冒頭の同薬局グループは837店。仮にその6割が20万円の支援金を受けたとしても1億円以上の補助金が流れます。マツモトキヨシ(3440店舗)、ウェルシア(2813店舗)、ツルハ(2442店舗)など大手が利用者を増やせば1社で数億円が入る仕組みです。
前出の本並さんは「厚労省のマイナ誘導『台本』やチラシ、それと一体の補助金バラマキが大手チェーン薬局をマイナ保険証の利用勧奨に駆り立てている」と指摘。さらに「厚労省は『台本』で意図的に12月2日以降も保険証が使えることや資格確認書が交付される説明書きを省き、医療機関・薬局が正しい情報や法令上の取り扱いを理解しないままの利用勧奨が横行して、トラブルの多発を招いている」と強調します。
法令違反疑い
日本共産党の倉林明子参院議員は6月の厚生労働委員会で、マイナ保険証がないと処方箋を受け付けないといった一部薬局の対応は法令違反の疑いがあるとただし、「マイナ保険証の利用を強要するキャンペーンは中止し、誤った対応は直ちに是正するべきだ」と主張しました。しかし武見厚労相は「引き続き利用促進に取り組む」と拒否。厚労省は6月の診療報酬改定でマイナ保険証利用の加算を新設しました。
厚労省が6月下旬まで行った保険証廃止の省令改正に関するパブリックコメントには5万人以上が意見を寄せました。保団連の橋本政宏副会長は、「寄せられた意見の圧倒的多数は反対意見で、保険証存続が国民の声であることは明らかです。大阪府保険医協会のアンケートでは今年に入ってからも65%の医療機関でトラブルが発生しており廃止に道理はありません」と強調。「厚労省の利用促進キャンペーンは任意取得が原則のマイナカードを強要しているようにしか思えません。強引な利用勧奨はやめるべきです」と訴えます。
訪問介護報酬 引き下げなのに
厚労省はマイナ保険証の利用促進支援に217億円の予算をつける一方、今年度予算では訪問介護の基本報酬を2~3%引き下げました。そのもと今年の介護事業所の倒産は81件で上半期の最多を更新。半分が訪問介護です。報酬引き下げ中止に必要な国費は、年50億円でマイナ利用促進予算の4分の1です。
21世紀・老人福祉の向上をめざす施設連絡会の井上ひろみ事務局長は、「訪問介護報酬を引き下げながら、マイナ保険証促進に200億円以上の補助金が使われていると聞き耳を疑いました。支援金は中止し、訪問介護報酬引き下げ撤回に回してほしい」と話します。
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