追及自民裏金事件 情報公開と民主主義国民の監視妨げる法改悪〜すべてがNになる〜
2024年7月18日【1面】
「1970年代のロッキード事件や80年代のリクルート事件などと比べてもより病巣が広がっている」―情報公開制度に詳しい三宅弘・元日本弁護士連合会副会長は、自民党派閥による組織的な裏金づくりについて、こう指摘します。
そもそも政治資金規正法は、「政治活動が国民の不断の監視と批判の下に行われるようにするため」に収支の公開と透明性の確保を求めています。これによって「政治活動の公明と公正を確保し、もって民主政治の健全な発達に寄与すること」を目的としています。
透明性どころか
政治団体が提出した政治資金収支報告書は、総務省や都道府県選管で閲覧でき、インターネットでも公開されます。このため安倍派などは、派閥のパーティー券収入を裏金化。国民の監視から逃れる手法で政治活動の原資にしてきました。
三宅弁護士は「安倍派などによるキックバック方式の裏金は2003年ごろには始まっていたとされるが、収支報告書は公開が原則であり、領収書のいらない裏金は、収支報告書には書けないものだ」と指摘します。
規正法は、金権腐敗事件が起きるたびに「透明性」向上をはかるとの名目で、改定が繰り返されてきました。しかし、いくら改定しても抜け穴づくりを続けてきたのが自民党です。裏金事件を本当に反省し、「透明性」向上をはかるのであれば、公開期間の延長など、閲覧や検索をしやすくするための改良こそ必要です。
ところが今回の改定規正法には収支の公開性を高めるどころか、公開を後退させる改悪が盛り込まれました。
要旨作成を廃止
付帯決議では「誰もが閲覧できるようなデータベース化を含め、検索可能性を高める情報提供の在り方について検討を行う」とするだけで、検索性の向上などは先送りしました。
それどころか改定法では、官報や都道府県公報に掲載してきた収支報告書の要旨の作成義務を条文から削除しました。要旨には寄付者の氏名や寄付額、項目ごとの収入・支出額など収支報告書の根幹部分が記載されています。
報告書そのものは3年で見られなくなるため、要旨が作成されなくなると、4年以上前の収支報告書の内容は確認できなくなってしまいます。要旨の廃止は、政治資金の流れを見えなくするもので、公開に逆行します。透明性向上どころか、国民の監視を妨げる法改悪が強行されたのです。
(1面のつづき)
「政策活動費」を合法化
政治資金規正法の改定では、自民党が長年にわたって脱法的に行ってきた「政策活動費」が合法化されたことも大きな問題です。
使い道明かさず
政策活動費は、自民党本部から幹事長などの党幹部個人に渡されてきた“つかみ金”のことです。自民党の政治資金収支報告書によると、2022年には幹部15人に計14億1630万円が支出され、二階俊博元幹事長は約5年間の在任中に約50億円を手にしていました。裏金事件では、少なくない裏金議員が「派閥からの政策活動費と認識していた」として、収支報告書への不記載の言い訳に用いていました。
では、多額の資金を何に使ったのか―。
自民党は「党に代わって党勢拡大や政策立案、調査研究のため、従来より党役職者の職責に応じて支出している」(2月5日の記者会見で茂木敏充幹事長)と言うだけ。「党の方針が他の政治勢力や諸外国に明らかになる」(同日、衆院予算委員会で岸田文雄首相)などと正当化し、使い道を一切明らかにしていません。
改定法でも項目、金額、年月を記すとしただけ。付則で領収書や明細書を10年後に公開するとしましたが、何も具体化されておらず、引き続きブラックボックス化の懸念はぬぐえません。
「訴追できない」
法政大の白鳥浩教授は、「形式的カムフラージュで『改正』をやっただけではないか」と指摘。「10年後に公開とのことだが、公訴期限は5年。不適切な使用があったとしても訴追できない」と批判しました。
10年後の公開は維新の会の提案を自民党が取り入れたもの。しかし、野党や国民の批判を受けた維新は、改定法の成立後に政策活動費の支出を取りやめる方針に転換しました。
「『プライバシーに関わるから』と、ほとんどのり弁(黒塗り)のようなものが出てくるのではないでしょうか」と白鳥氏は、続けます。政策活動費に合理性がないことは明らかです。
情報公開は「民主主義の通貨」
弁護士・元日弁連副会長 三宅弘さん
情報公開法制定を求める市民運動が始まった背景の一つには、ロッキード事件などの政治腐敗・汚職の問題がありました。問題の究明を妨げる情報非公開の壁を破り、政治を透明化させようという機運が高まっていたのです。
「情報公開は民主主義の通貨」だと言われています。民主主義が健全に発展するためには、政治や行政をつかさどる人たちがいったい何をやっているのか原則公開にしなければ、選挙で正しい民意の反映はできないからです。
今回の自民党派閥による裏金事件を見ていて思い出すのは、情報公開制度がつくられるときに東京大学の塩野宏名誉教授が語った「情報公開法は劇薬だ」という言葉です。この間の政治を巡る動きを見ると、政権党の派閥が解体していったのは、やはり情報公開は「劇薬」だったからだとしみじみ感じています。
一方、今国会で改定した政治資金規正法では、「政治とカネ」の問題解決ができないだけではなく、少しずつ広がってきた情報公開に冷や水を浴びせるものになっています。
改定法では収支報告書の「要旨」の作成・公開義務が削除されました。これまでの情報公開の流れからすれば、電子化してすべてホームページ上で公開するなどの改善をすべきですが、保存期間の3年を過ぎれば過去の収支を「要旨」で確認できなくなり、情報公開は後退しています。
政策活動費についても、領収書の10年後の公開としていますが、どこに保存するのか。また、どうやって保存義務を課すのでしょうか。領収書は行政文書ではないため情報公開請求の対象になるのかはっきりしません。本気で透明化というのなら、政策活動費の伝票類や領収書などを対象にした国会の情報公開制度を実現させる法整備をすべきです。
(2面)