資産運用立国の終着点 群馬大学名誉教授 山田博文さん(2)「格差大国」を追う日本〜すべてがNになる〜


2024年2月21日【特集】

 「資産運用立国」とは、国民や企業にとって有用な財・サービスを充実させる国づくりではありません。投資を活発化させ、内外の大資本・投資家・富裕層の持つ資産所得を増やす国づくりです。
 所得の中でも、勤労者の給与所得でなく、利子所得・配当所得・不動産所得などの資産所得を増やす国づくりです。国民の半数にあたる約6000万人の給与所得者と、預貯金などの金融資産を持たない3割の約1600万世帯は切り捨てられ、恩恵はありません。
 「資産運用立国」にかじを切った日本の経済社会は、勤労による給与所得に依存し「資産を持たない者」と、預貯金・株式・投資信託・不動産などの「資産を持つ者」の間で、貧富の格差を拡大します。かつての「1億総中流社会」、「和をもって貴しとなす」といった意識など吹っ飛びます。社会的な摩擦が深刻になり、ギスギスした住みにくい世の中になるでしょう。日本社会は、世界トップクラスの「貧富・格差大国」アメリカの後を追うことになります。

逃げ足速い外資

 岸田文雄政権は「資産所得倍増プラン」を掲げ、「我が国の家計に眠る現預金を投資につなげ」ることをめざしています。つまり、元本保証型の預貯金などの安全な金融資産を、ハイリスク・ハイリターン型の内外の株式・債券・投資信託などの金融資産へ移行させることです。資産価格が上がれば棚ぼた式に利益が生まれますが、下がれば虎の子の資産すらなくなるリスクにさらされます。
 そのうえ、日本の「資産所得倍増」を中心的に担う資産運用会社は、ニューヨークに本拠地を置くブラックロック社など、逃げ足も速い外国資本です。「資産運用特区」を拠点に荒稼ぎをした後、国内法の適用されない海外に拠点を移されると、不正があってもどうすることもできません。「資産所得倍増プラン」とは、外資依存のいわば「ばくち立国プラン」といえるかもしれません。

「失われた33年」

 そもそも「金融立国」「資産運用立国」とは、財・サービスなどの実体経済を豊かにすることではありません。それ自体なんの価値もなく、配当金や利子などへの資金請求権を持つだけの株式や債券(=架空資本)への投資を活発化させ、金融経済を盛り立てようとする国づくりです。予測不能の事態から発生する価格変動や通貨の相場変動にさらされる国づくりです。確実に利益をえるのは、「投資運用業」を担う金融業界と相場の変動をリードできる内外の大口投資家だけです。
 20世紀末のバブル経済の膨張と崩壊を経験した日本の経済社会は、「失われた33年」の長く暗いトンネルに入り込みました。株価暴落で破綻した企業・金融機関・個人投資家は数知れません。国民は、金融機関や企業の抱えた100兆円を超える不良債権のリスクを転嫁されました。
 大銀行や大企業に税金が投入され、消費税が導入されて税率が上げられる一方、企業を助けるため法人税の税率は下げられてきました。為替相場が円高になると、大企業は海外に生産拠点を移転し、国内産業と雇用は空洞化し、円高不況に襲われました。最近のような円安になると、エネルギー・資源・食料品など各種輸入物資の価格が暴騰し、国民生活は物価高に襲われています。
 (つづく)


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