2023焦点・論点 インボイス中止訴え日本スタンダップコメディ協会会長 清水宏さん〜すべてがNになる〜

                         2023年8月21日【1面】


政府の狙いは消費税増税

 消費税のインボイス(適格請求書)制度実施予定の10月が迫るにつれて、各地で実施中止を求めて宣伝したりインボイス登録を取り下げたりする中小業者やフリーランスが増えています。インボイス反対のイベントやステージで訴える、スタンダップコメディアンの清水宏さん(日本スタンダップコメディ協会会長)に思いを聞きました。(聞き手・大串昌義)
 ―インボイス制度反対で活動している「STOP!インボイス」のイベントでインボイスの問題点を分かりやすく伝え、会場を沸かせています。スタンダップコメディーで取り上げたきっかけを教えてください。
 スタンダップコメディーとは、演者が1人、マイク1本で、笑いの中に社会風刺や皮肉などを織り交ぜながら社会問題について語る話芸です。僕の動画を見た小泉なつみさん(「STOP!インボイス」呼びかけ人)に出演を頼まれ、インボイスについてさらに調べました。政府がコソコソ、慌てて進めようとしていて、全貌をとらえるのが難しい。インボイス制度について知っていくと、政府は消費税をどんどん引き上げていく気なんだとわかりました。税金は生存と生活のことだから取り上げました。
 (1面のつづき)

インボイスNO! いろんな人 巻き込みたい

普段バラバラでも 今一つになろう

 ―インボイスの問題点をみんなに伝えるうえでこだわっていることはありますか。

フェアじゃない

 免税事業者が課税事業者になり、インボイスを発行しなければ、仕入れ・経費の消費税を差し引くことができません。狙い撃ちされる、小さいながらも頑張っている事業者の立場で問題をとらえようとしました。いろんな角度から笑いにして、しかも議論として有効なようにしています。
 消費税は、全員から取るからフェアだと政府が言っていますが、僕はステージで「格闘技でいうと50キロのフェザー級と、スーパーヘビー級が同じように体重を10%減らしてたたかえっていうもの。50キロの俺たちが5キロ減らしたら骨皮筋右衛門。全然フェアじゃない」と言っています。
 インボイスの問題を日本中に伝え、進めたい側の人間とも話し合いたい。それが僕のスタンダップコメディーの源です。
 ―個人事務所で活動していますが、インボイスとの関わりはありますか。
 大きな事務所から「インボイスの登録をしましたか」という通知が届きました。今は突き放しています。
 そこで見えてきたことは、政府が直接言うんじゃなくて、取引先同士で言わせるやり方です。「国民同士監視させるんだ、気持ち悪いことしやがって」みたいにネタにしてやろうと思います。(笑)
 インボイスの報道があまりにも少なく、推進するコマーシャルが垂れ流されています。僕はステージで「いま日本は右か左かに分かれているんじゃない、上か下か。インボイス制度は売り上げ1000万円以下の小さな中小企業の自営業者の俺たち『下翼』の問題。黙ってちゃいけない」と言っています。「STOP!インボイス」の運動は強い意味があります。
 コロナ禍でライブハウスと劇場での公演が禁止された時に、東京都内のDJや音楽家が声を上げ、損失補償を求めるインターネット署名に取り組み、都に支援を拡大させました。私も運動に関わり、ものすごく達成感があり、民主主義って面白いと思いました。
 ―「インボイスでつらい目にあう人は800万人いる。普段バラバラだけど、こういう時こそ一つになろう」と訴えています。インボイス中止・延期に向けた意気込みを聞かせてください。

声上げ仲間広く

 800万人はフリーランスの数で、声を上げる仲間をどう広げていくのかが大事です。
 「STOP!インボイス」の運動は、最初は1人もいませんでした。誰かが声を上げ始めて20万人の署名になったのは、諦めずに意見を言っていけば動かせるということです。それが生きている面白さ、意味じゃないかと思います。
 これからの若い人、生まれてくる人たちが希望を持てるようにする義務が僕らにはあります。インボイスは、新しく事業を始める人をつぶす税制です。少ない予算でも何かを始められるようにしなければ、人生なんて何の意味があるでしょうか。自分のため、これからの人のためにステージで訴え続けたい。
 (4面)
 しみず・ひろし 1966年、名古屋市生まれ。2011~15年、世界最大の芸術祭エディンバラ・フェスティバル・フリンジ(英)に参加。16年、ぜんじろう、ラサール石井両氏と「日本スタンダップコメディ協会」を設立し、会長に就任。全国ツアーを行う一方、海外での活動も積極的に行う。


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