主張 DNA型抹消判決法の下 民主的コントロールを〜すべてがNになる〜


2024年9月30日【2面】


 刑事事件で無罪となった男性が、被疑者のとき警察に採られた個人データの抹消を求めた裁判で、名古屋高裁は一審に続き、無罪確定後も保有するのは憲法に反すると指摘し、警察庁のデータベースから指紋、DNA型、顔写真の抹消を命じました(8月30日)。警察庁は上告を断念しました。
 個人情報保護、プライバシー権、人格権からして当然です。警察庁はただちにデータを抹消すべきです。

 男性は住民とともに自宅近くの高層マンション建設に抗議していたところ、工事の現場監督を突き飛ばしたとして逮捕されました。しかし、防犯カメラの映像などから、突き飛ばす行為自体がなかったとして無罪が確定していました。

■究極の個人情報

 指紋、DNA型、顔写真は犯罪捜査で証拠として使われます。とくに血液や唾液などから採取されるDNA型は「究極の個人情報」と言われ、冤罪(えんざい)を生んだこともある機微な情報です。

 警察庁は国民の人権にかかわるDNA型を広く収集し、2005年から法律ではなく内部規則にすぎない国家公安委員会規則でデータベースの検索システムを運用してきました。DNA型記録は23年末で175万件と増大しています。

 これに対し日本弁護士連合会は07年の意見書で、諸外国の例を紹介したうえで▽個人のプライバシー権・自己情報コントロール権を侵害することのないよう法律で採取、保管、利用、抹消、監督・救済機関などを定めて運用する▽無罪・不起訴などの場合は抹消を義務付ける▽採取は具体的な事件捜査に必要な場合に限り目的外使用を禁止する―ことを主張してきました。

■警察の恣意的運用

 国家公安委員会規則では指紋、DNA型、顔写真は「保管する必要がなくなったとき」抹消しなければならないとされています。しかし、どんな場合か明文の定めがなく警察の恣意(しい)的運用に任されてきました。

 日本共産党の塩川鉄也衆院議員の質問主意書(10年)や田村智子参院議員の国会質問(21年)に、政府・警察庁は、無罪確定や不起訴の場合も保有し続けていることを認め、「法的な問題はない」と答えています。

 田村氏は「一度容疑者になれば無期限に保有し容疑者扱いを続ける。民主主義社会で許されるのか」と批判し、救済する法の仕組みが必要だと訴えました。

 個人情報保護法では人権侵害を防ぐために開示、訂正、利用停止、削除の権利が認められています。しかし、警察が持つ指紋、DNA型、顔写真はこの対象から除外されています。

 名古屋高裁判決はこうした実態を厳しく問い、無罪が確定した以上、保管を続けるのは、個人の尊厳を定めた憲法13条に基づく人格権を侵害していると断じました。

 判決は、抽象的な「余罪」の捜査を正当化の根拠にするのは「治安維持優先の発想であり」、基本的人権が軽視され、国民の行動が萎縮させられるなど、「国民の権利利益に反する」と踏み込んで批判しました。

 政府、警察は名古屋高裁判決を重く受けとめ、憲法の保障する個人の尊重を貫くよう、法による民主的コントロールのもとで運用すべきです。

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