資産運用立国の終着点 群馬大学名誉教授 山田博文さん(4)外資に追従の日本政府〜すべてがNになる〜

2024年2月23日【経済】

 過労死の犠牲のうえに築かれた2000兆円を超す家計の金融資産は内外の金融機関・投資会社・運用会社の争奪戦にさらされてきました。

 とくにアメリカ政府と財界は、郵貯や財政投融資などの日本の公的金融体制の解体、金融の自由化・国際化の推進など、日本に金融開国を迫ってきました。1990年代になると日本の規制緩和・行政改革について、「日本政府に対するアメリカ政府の要望書」を送りつけ、日本改造の中身を指示してきました。日本政府は、その要望書に沿って日本の体制を改造してきました。

「株主資本主義」

 2001年度に至り、日本にとって「3度目の黒船」と言われた米政府・財界主導の金融大改革(日本版ビッグバン)が超過達成されました。以降、アメリカ型金融経済システムがフル回転してきました。その結果、「株式会社日本」の最大株主は、日本の企業や金融機関からアメリカ勢を中心とした外国資本に変わりました。

 日本の主要な金融機関・企業の最大株主になった外国資本は、「物言う株主」として株主総会をリードし、日本経済のあり方を「株主資本主義」に改造しました。改造の中身は▽企業経営は従業員の賃金や福利厚生に責任を持たない▽長期投資・設備投資よりも株主への配当金を優先する▽生産する財・サービスより、株価や収益率を重視した効率的な経営を行う―というものです。終身雇用・年功序列型賃金・企業福祉といった、従業員に安定した生活基盤を提供してきた「日本的経営」は破壊されました。

 非正規雇用者の割合が高まり、賃金が抑制され、国民生活が貧困化し、不安定化する一方、株主への配当金・企業の利益剰余金(内部留保)・富裕層の金融資産などは増大しました。日本社会は「持つ者」と「持たざる者」へ二極分解し、社会的摩擦が高まりました。

 企業や家計の金融資産の運用が活発化し、グローバルに展開されるようになりました。資産運用の担い手は、ノウハウや実績で日本の3メガバンクや2大証券会社を超越する米系巨大金融機関や運用会社です。

100兆円資本逃避

 「資産運用立国」の姿をすでに体現しているのが、200兆円の公的年金積立金の運用状況です。その半分の100兆円は、日本から資本逃避(キャピタルフライト)し、外国の株式や債券に投資されています。国民生活や企業経営にとってマネーは不可欠な血液のような存在です。とくに年金積立金のような長期貯蓄性資金が海外へ逃避すると、日本経済は弱体化します。

 世界最大の資産運用会社である米ブラックロック社は、日本の年金積立金の多くを運用しています。年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)の業務概況書によれば、23年3月末の運用資産時価総額200兆円のうち2割近くとなる37兆円をブラックロック社が運用しています。

 他社を含めると、外国の巨大資産運用会社・金融機関が日本国民の老後の生活資金である年金積立金の4割近くを支配しています。そのうえGPIFの年金積立金は、予測不能の出来事で相場が変動する内外の株式・債券市場に投入されています。内外の株価や債券価格が下落したら、そこに投入されている年金積立金は市場の泡となって消えるリスクにさらされています。(つづく)
紙面ビューアがうまく作動してくれないのでスクショ画像を添付dきませんでした申し訳ありません。


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