解説ワイド 是正命令のトヨタ順法意識ない経営陣〜すべてがNになる〜


2024年8月27日【1面】
 トヨタ自動車は7月31日、新車の型式認証の不正で国土交通省から是正命令を受けました。日野自動車、ダイハツ工業、豊田自動織機に次ぐ4例目です。同社は自社調査で同月5日、6月3日に公表した7車種以外に新たな不正は確認されなかったと国交省に報告していました。しかし、国交省による立ち入り検査で、新たに7車種で不正が判明。同社の認証業務のずさんさがあらためて浮き彫りとなりました。(日本共産党国会議員団事務局 栫〈かこい〉浩一)

不正は意図的

 トヨタの佐藤恒治社長は今回の不正について「意図的な隠ぺいではない」と釈明しました。しかし、規定速度を超過した試験データを規定速度に書き換えたり、申告されたステアリングと異なる仕様で試験を行い成績書の写真を差し替えたりするなど、意図的でなければ説明はつきません。まさにトヨタの不正は幅広く意図的なものでした。しかも、立ち入り検査はトヨタを含め5社に行われましたが、新たに不正が見つかったのはトヨタだけです。トヨタへの是正命令は当然です。
 トヨタが自社の不正をただす機会は何度もあったはずです。日野自動車が是正命令を受けたのは2022年9月9日です。国交省は同社に「不正行為を起こし得ない型式指定申請体制の構築」など三つの柱で九つもの措置を具体的に命じていました。ダイハツは24年1月16日に、豊田自動織機は同年2月22日に是正命令を受け、「会社全体の業務運営体制の再構築」など、今回トヨタが命じられた措置とほぼ同様の措置を命じられていました。
 3社はトヨタのグループ企業です。これら是正命令をひとごととしてではなく、わがこととしてとらえ、自社の不正の点検に乗り出すべきではなかったか。トヨタには、このことが厳しく問われます。
 豊田章男会長は、是正命令を受けて以降、いまだに公の場で発言をしていません。
 豊田氏は23年4月28日、ダイハツの不正が判明したことを受けて、「トヨタブランドで発生した問題であり、ダイハツだけでなくトヨタも含めた問題」「ガバナンスやコンプライアンスに関する部分は会長である私自身が責任を持って取り組む」と威勢よく発言していました。

開き直る会長

 ところが、24年6月3日の会見では、「不正の撲滅は無理だ」と開き直り、「『不正を必ず撲滅しなさい』と社内で言ったことはない」とまで言い放っています。さらに、現場での試験と認証プロセスで求められる手順にはギャップがあるとして、「今回のことをきっかけに」して「制度自体をどうするのかという議論になっていくといい」と述べ、認証制度の方に問題があるかのような発言までしています。
 一連の不正と経営陣の発言から見えてくるものは、豊田氏をはじめとする経営陣の順法意識の欠如、認証制度に対する無理解と軽視、法律よりも自らの判断を上位に置くおごり、現場に任せきりの無責任体制、上に物が言えない企業体質などです。経営陣は、これら根深い問題にどう向き合うのかが厳しく問われます。
 (1面のつづき)

見抜けぬ国交省の責任

 自動車メーカーを指導、監督する国交省が、トヨタをはじめメーカーの不正を見抜けなかった責任も免れません。
 16年、三菱自動車が燃費データを改ざんしていたことが判明し、国交省は、メーカーが行う認証試験に国が抜き打ちで立ち会いを行うという再発防止策を決めました。17年には、不正防止のために、悪質な不正を行ったメーカーに対する型式指定の取り消しと罰則の強化を盛り込んだ道路運送車両法改正案を国会に提出し、成立しました。
 さらにその後、日産自動車などによる完成検査不正を受けて、18年にメーカーに対して行う監査を原則無通告にするなどの強化策を導入するとともに、19年には道路運送車両法を改正し、完成検査の瑕疵(かし)などに対する是正命令を創設しました。これらの再発防止策にもかかわらず、国交省は、その後発覚した日野の虚偽報告などの不正を見抜くことができませんでした。
 国交省は日野の不正を受けて22年9月9日、新たにメーカーに対する監査の強化策を打ち出しました。そこでは、日野の不正について、「型式指定制度の根幹を揺るがす事態」であり、「それを発見できなかった監査や審査の手法にも強化が求められる」として「虚偽報告の再発防止策の強化」などを盛り込んでいました。数かずの再発防止策もむなしく、結果は見ての通りです。
 そもそも国交省がとってきた再発防止策で不正はなくせるのでしょうか。型式認証の申請件数は年間約3000件です。国交省の鶴田浩久物流・自動車局長は、高橋千鶴子衆院議員の質問に、抜き打ちの立ち会いは23年度で1社当たり約10件程度と答弁しました。また、立ち入り検査で判明した7車種のうち、海外当局による認可を受けた6車種は、抜き打ちの対象にはなっていません。これでは不正を見抜くことはできないでしょう。
 トヨタは是正命令を踏まえて8月9日、経営層による開発・認証業務の理解促進、統治体制の強化などの再発防止策を国交省に提出しました。
 国交省は「自動車の型式指定に係る不正行為の防止に向けた検討会」で不正を起こさせない対策を検討中です。これらが実効あるものになるのかどうか、監視と批判が必要です。
 (3面)


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