2023焦点・論点 政府が狙う「税務相談停止命令」自由法曹団弁護士 鶴見祐策さん〜すべてがNになる〜

                       

                       2023年2月15日【3面】

自主申告を“犯罪”と見なす企て 「納税者の権利」を守り生かそう

 政府・与党は、納税者の自主申告運動を阻む「税務相談停止命令」制度の創設を盛り込んだ所得税法等改定案を通常国会で成立させようとしています。停止命令の本質と狙い、自主申告運動を進める団体への影響について、長く税金事件に関わってきた自由法曹団の鶴見祐策弁護士に聞きました。(大串昌義)
 ―通常国会で3月末の成立が狙われている改定法案の中には「停止命令」を創設する税理士法改定が含まれます。政府・国税庁の狙いは何ですか。
 納税者の権利を主張し、消費税増税やインボイス(適格請求書)制度に反対し、不当な徴税には毅然(きぜん)とたたかう団体をなんとかしてつぶしたいのだと思います。
 税制は戦前まで政府が決めた金額を納めさせる「賦課課税制度」でした。戦後に日本国憲法が施行され、民主化が進みました。税制も民主化し「申告納税制度」に取って代わりました。
 申告納税制度は憲法の国民主権にふさわしい制度だとして学説、判例とも一致しています。申告によって納税者が納付すべき税額が確定する原則が国税通則法16条に規定されています。
 ところが今回の法案のもとになる2023年度「税制改正大綱」を見ると、申告納税制度の理念が全くない。税理士以外の者が「税務相談」を行い、当局が「脱税や不正な還付申請につながる」と認定した時には、制裁を加えるという規定を設けようとしています。
 税理士法は税理士の業務を「税務代理」「税務書類の作成」「税務相談」とし、税理士資格のない者が行うことを禁じています。
 税務署とのやりとりを行う「税務代理」は納税者の委任に基づき法的効果をもたらす行為だから専門的な知識と判断能力が求められます。しかし「書類の作成」「税務相談」は申告納税での知識や経験があればできる「事実行為」で法律上の問題になるとは考えられません。弁護士法では無資格者の法律事務の禁止を「報酬を得る目的で」と限定しており、税理士法も同様とされるべきでしょう。報酬目的がなければ可能とされるべきです。
 ―“税務相談に乗ったからといって税理士法違反とまではいえない”という判決もあります。
 岡山・倉敷民商弾圧事件の広島高裁岡山支部判決(15年)でも「申告納税制度は民主的な租税思想に親和的な制度であるといえる。このような民主的な制度自体は国民主権原理を謳(うた)う我が国の憲法上の要請からも十分に尊重されるべきである」としています。「民商会員らが、確定申告書の作成方法等について、互いに指導や助言をするなどの方法により申告納税にあたって相互扶助を図ることは十分に可能」だと認定しています。しかも「税理士法は納税申告に当たっての納税者の相互協力をも規制対象としているわけではない」とも述べています。
 ―今回の法改定で、政府は各地の民主商工会(民商)や農民運動全国連合会(農民連)などが行っている自主申告運動にどう介入しようとしているのですか。
 自主申告運動が不当な徴税をただすこともあり、当局にとっては“邪魔”と思われているのです。「税制大綱」で財務大臣は「税務相談」に対し「停止命令」を出すことができ、国税庁・税務署には「質問検査権」を与えています。財務大臣の命令に従わなければ懲役または罰金、国税庁・税務署の調査を拒否し、虚偽答弁を行えば罰金が科されます。さらに政府は「命令した時は」「相当と認める期間(3年間)」「インターネットを利用する方法により不特定多数の者が閲覧することができる状態に置く措置をとる」などと定めています。これは税務署の命令に従わなければ、犯罪者扱いにし、ネット上でさらし者にするという発想です。まるで江戸時代の「お奉行」気取りです。
 私たち自由法曹団はこれまで一貫して納税者の権利を掲げ、中小自営業者の結社権を守るために奮闘し、裁判闘争でも前進を勝ち取ってきました。税務権力の悪らつな企てを許さず、納税者の権利を擁護・発展させるためにともに立ち上がりましょう。
 つるみ・ゆうさく 1934年生まれ。62年弁護士登録。第一法律事務所所属。元自由法曹団幹事長。納税者権利憲章をつくる会代表委員。松川国家賠償裁判のほか、公職選挙法諸事件や冤罪(えんざい)事件の訴訟などを担当。

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