ソーラーシェアリングサミット これまでの10年 これからの10年“地域脱炭素”は地域発展のカギ 農業とエネルギー結ぶ「Z世代」行動力に注目〜すべてがNになる〜
2023年6月9日【くらし】
耕作しながら発電する「ソーラーシェアリング」(営農型太陽光発電)。気候危機打開に向けた一つのカギとなる、再生可能エネルギーです。5回目となった「ソーラーシェアリングサミット」では、これまでの10年を振り返り、これからの10年を考え合いました。(堤由紀子)
日本は、世界最大のソーラーシェアリングの事例数を誇り、発祥の地として認識されています。「一方で、研究開発や政策導入は後手に回っています。ここ2、3年、各国で政府の投資などが急速に進む中、国内での早期打開が必要です」
国内外の動向について紹介したのは主催者の一人で、千葉エコ・エネルギー株式会社代表取締役の馬上丈司(まがみたけし)さん。自然エネルギーによる地域振興事業に携わっています。
馬上さんは、ソーラーシェアリングにおける農業生産の可能性を語りました。ソーラーパネルによって“暑すぎず寒すぎない”という環境が確保され、関東地方平野部では、夏場に適さなかったイチゴや葉物野菜の栽培を可能にし、冬場の霜害も回避できると言います。「品目の多様化につながり、農業生産への活用事例が出てきています」
ソーラーシェアリングは農業とエネルギーの両面から大きな世界市場となり、2030年には1兆円を超えるだろうと指摘。「食料安全保障とエネルギー安全保障を同時に実現する取り組みと捉えて、進めるべきではないか」と呼びかけました。
営農型太陽光発電
「脱炭素」は喫緊の課題です。サミットでは、地域には自然エネルギー資源が多くあり、「“地域脱炭素”は地域発展のチャンスである」という視点が強調されました。
一方で、メガソーラー(大規模太陽光発電)のような大資本による「植民地型太陽光」が全国的に多数を占めています。その結果、地域でトラブルが相次ぎ、ソーラーシェアリングのイメージを悪くしています。
ソーラーパネルが並ぶことで“農村風景が変わってしまう”という懸念があるという指摘も。これについても、メガソーラーのような“農業生産のためではない太陽光で景観が変わる”ことへの不安の表れではないかと、語られました。
また、ソーラーシェアリングという言葉には、「農地を太陽光のためにシェアする」という意味にとられる可能性があり、「農業のための太陽光」という意味が薄れてしまうという問題提起もありました。代わりに「営農型太陽光発電」という言葉を使い、「農業生産を中心にしながら、作った電気は自家消費し、余ったら地域のために使う」といった“営農”を前面に出すことの大切さに、共感が広がりました。
“おひるねみかん”
サミットのもう一人の主催者は、合同会社小田原かなごてファーム代表社員の小山田大和さん。耕作放棄地のみかん山を再生して“おひるねみかんブランド”を立ち上げながら、ソーラーシェアリングの普及に力を注いでいます。発電した電力とパネルの下で育てた自然栽培米による日本酒づくりは、3年目に。活動を通じて、1990年代後半から2010年代に生まれた「Z世代」の行動力に注目しています。
トークセッション「Z世代が見るソーラーシェアリングの現場」では、“かなごて”に集う若者をはじめ5人のZ世代と登壇。小山田さんは「変な揺り戻しがないよう、脱炭素や脱原発に本気になってかじ取りをすべきだ」と訴えました。Z世代が主体のソーラーシェアリング事業は、用地取得まで進んでいます。
現場の願い反映を
主要7カ国首脳会議(G7広島サミット)でも、気候危機打開は大きなテーマでした。ところが日本政府の反対で、石炭火力発電所からの撤退期限がG7の合意になりませんでした。
ソーラーシェアリングサミットで出された声をはじめ、現場の願いに耳を傾け、取り組みを後押しすること、なによりも政府自身がイニシアチブをとることの大切さを語り合いました。