シリーズ・コロナ禍と資本主義 宅配の闇(4)僕は楽天とたたかう〜すべてがNになる〜
2022年3月18日【経済】
楽天に切り捨てられた運送会社「トランプ」の矢作和徳社長は2021年10月、反撃ののろしをあげました。楽天幹部による不正の巻き添えで被った損害などをめぐり、楽天に賠償要求を突き付けました。
「お金のためだけではありません。物流業界を変えたい。だから僕は楽天とたたかいます」
トランプ社が楽天と業務委託契約を結んだのは18年11月のことです。埼玉県川口市に構えた営業所を中心に計7拠点を運営。楽天の「自社配送」網「楽天エクスプレス」を最前線で支え続けました。
「僕たちは直接契約を結んだ個人事業主のドライバーを抱えて営業してきました。他社は2次下請け、3次下請けと間に何社もはさむので多重階層になります。その分、委託料は中抜きされてドライバーの収入が減ってしまう。ドライバーに安定した収入を保障することが高い配達品質につながると考えています」
無理難題を
ただ、ドライバーの働き方を改善しようにも、発注元である楽天からの無理難題に何度も振り回されました。楽天が独自に実施するセールに合わせて荷物が激増。楽天の予測値をはるかに上回る荷物が営業所に届くこともあり、現場は常に綱渡りの状態でした。
当時、川口営業所の管理者をしていた副社長の鈴木将太さん(33)は楽天の担当者の冷たい態度を今でも覚えています。
「明日、姫路の荷物多いよ。残荷(ざんか)出せないけどどうするんですか? ドライバーも足りてないですよねえ?」
ドライバーを増やす余裕もなく、鈴木さんは業務を終えたその足で、深夜の高速道路を兵庫県姫路市に向かって走りました。契約上、楽天からの報酬は1日の配達に対してのみ支払われます。夜中の移動時間分は含まれません。物流を守るという使命感に駆られて、自分にむちを打ち続けました。
買いたたき
さらに楽天はトランプ社に対し、実際に稼働した配達車両の台数よりも、少ない台数で報酬を請求するよう強要してきました。いわゆる買いたたきです。トランプ社の損害額は272台分、800万円以上に上りました。
楽天の横暴に耐えながら配送を支えたトランプ社に対し、楽天は21年5月、突如、契約解除を通告します。告知は解除のわずか「2週間前」でした。楽天との契約上「3カ月前」までの告知がなければ、契約は自動的に6カ月更新されることになっていました。明らかな契約違反です。
数々の理不尽を目の当たりにしてきた矢作社長は今、物流業界の改革を目指して楽天とたたかっています。現場で奮闘するドライバーの権利を守りたいとの思いに突き動かされているからです。
「個人事業主の軽貨物ドライバーをちゃんと『労働者』として守る必要があります。そうしなければ楽天エクスプレスと同じように補償もなく切り捨てられるドライバーをなくすことはできません」
矢作社長は契約違反の損害分など、計8億円超を楽天に請求しました。
これに対して、楽天は、契約解除が直前になった点については契約違反を認めつつ、稼働台数の買いたたきや、2拠点奪取に関する損失への賠償を拒否しています。
矢作社長は提訴も視野に今後も交渉を続ける方針です。(つづく)