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溶ける公教育 デジタル化の行方(3)子どもの変化 気づけるか〜すべてがNになる〜

2022年5月7日【2面】
 生活困窮世帯の子どもの学力情報などを経年変化で集積し、コンピューターで見守り判定している大阪府箕面(みのお)市。学校で“ノーマーク”だった子どものなかにも、コンピューター判定で重点支援が必要とされた子どもが2017年後半に212人、18年後半も116人いたといいます。
 しかし、同市のベテラン教師は「問題行動を起こした子どものケース会議でも『見守り判定』が話題になったことはない」と首をかしげます。判定結果を1度だけ見たという別の教師も「判定結果の読み方が分かりづらいうえ、すでに把握している情報ばかり。困窮世帯の子どもをラベリングしているだけ」と言い切ります。

心の天気

 デジタル技術で子どもの変化をつかもうとするのは箕面市にとどまりません。大阪市の小中学校では子どもが日々の状態をタブレットに天気マークで入力します。使われているのは校務支援アプリを開発するエデュコム社の「心の天気」。雷が続くなど条件がそろうと教師の見る画面にアラート(警報)がともります。
 同市の小学校教師は子どもの状況把握にはつながっていないと語ります。「高学年は雷マークをつけたら教師が話しかけてくると分かるので、いつも晴れマーク。逆に低学年は朝転んだだけでも雷マーク」
 子どもに問題が起きたとき、アラートが出ていなかったことが言い訳に使われたり、アラートに対応しなかったことで責任を問われたりしないか心配する声もあります。
 「心の天気」はさらに教師用の校務支援アプリで家庭の様子や成績と統合されます。市教委は、現場の判断で家庭欄に生活保護の利用状況などが書き込まれることもあるといいます。
 大阪市や箕面市はじめ教育のデジタル化はエビデンス(根拠)に基づく教育とセットで語られます。デジタル技術で膨大な情報を統合すれば、教師の経験と勘だけでは発見できなかった課題に気付くことができるというわけです。
 取材で出会った教師たちは異口同音に、子どもと直接触れ合うことで得られる情報の重要性を強調します。
 「朝の点呼での声や顔の表情、顔に傷が増えていないか、昨日と同じ服を着ていないか、夏場に体臭がすればお風呂に入っていないかを心配する。そういう子どもの状態変化に気づくことが教師の最大の仕事だ」(若手教師)
 児童福祉論が専門の浅井春夫立教大学名誉教授は、統計を子どもの支援に生かすことは必要だとしつつ、統計の落とし穴に注意すべきだと語ります。統計情報は調査時点の状態を表しているにすぎず、また、データが膨大になるほど受け手はなにを読み取ればいいか分からなくなるからです。生活保護情報などが教師に先入観を与えることにも気を付けるべきだといいます。

少人数に

 「デジタルは子どもの状態を瞬間で区切って判断するが、子どもの変化の経過を丁寧に見るアナログの部分にこそ本来の教育の意義がある。統計を現場で役立てるためにも教師の専門性を発揮できる環境整備が重要だ」
 多くの自治体が独自の少人数学級に踏み出すなか、大阪市は背を向け続けています。昨年40人学級を受け持った同市の教師は、家庭科でミシンが順番待ちになったり、採点業務に長い時間がかかったりする弊害にふれ「きめ細かく子どもを見るためにも少人数学級を実現してほしい」と訴えます。
 (つづく)


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