すべてがNになる〜不定期連載〜
2019年2月11日
【スマホより物語に負けた】
「サクサクのブレークにたっぷりのチョコ。あのお菓子が姿を消すことになった。マスコミ各社は『スマホとの相性が原因』と報じたが、それだけでもないようだ。」
森永製菓が、チョコレート菓子「チョコフレーク」の生産を、来年の夏までに終了すると発表した。
マスコミ各社は「手がべとついてスマートフォンを操作しながら食べにくいため、人気が落ち込んでいた」(朝日新聞)、「チョコが手につきスマートフォンを触りながら食べづらいなどの理由で、販売の減少が続いていた」(NHK)など、「スマホとの相性」が生産終了の原因と報じた。
【変化した「ながら食べ」】
実際はどうなのか。森永製菓広報に取材すると「『ながら食べ』の概念が変わったのは事実。発売当初はテレビだったのが、今はスマホになった」としながらも「それだけが理由ではない」という。もう一つの理由としてあげたのは、チョコレートの嗜好の変化だ。
「健康を意識したチョコレートが支持されるようになり、チョコレート菓子そのものが選択されにくくなりました」
大手菓子メーカーが加盟する全日本菓子協会は「チョコレートの健康効果の浸透が進み、前年に引き続き高カカオチョコレートが好調に推移した」(平成29年度統計調査)と分析している。コンビニなどでも高級志向のチョコレートが幅を利かせているようになった。
森永製菓と同じ「チョコフレーク」を販売する「日清シスコ」マーケティング部商品管理グループの風野亜希子さんによると、スマホの普及と商品の売り上げは全く関係ないとは言えないとしつつも、同社のチョコフレークの売り上げは5年前と比較し150%以上の急伸。ここ数年は2桁成長で好調に推移していると話す。
「スマホをいじりながら、お菓子を食べるシーンは、多くの食シーンの一つです。お客様のニーズはおいしさや、利便性、安全安心、健康機能など、時代と共に多様になりつつあります。スマホの影響は無いわけではありませんが、特段大きな問題であるとは考えていません」
【汚れないだけじゃダメ】
チョコフレークとは対照的に「手が汚れないお菓子」として度々紹介されるのがカルビーの「じゃがりこ」だ。同じくジャガイモを揚げたポテトチップスと違うのは、指が汚れる原因となる味付けパウダーが「後かけ」ではなく「スナックそのものに練りこんである」点だ。
しかし、じゃがりこが発売されたのはスマホ普及以前の1995年スマホユーザーを意識して開発されたものではない。同社広報部は「たまたまスマホユーザーとの親和性があった」と説明する。
カルビーは、消費者の生活行動の変化を念頭に手を汚さずにポテトチップスを食べられるトング「ポテトチップストング」を開発。スマホやキーボードを触りながらでもポテチが食べられる夢の商品としてキャンペーンを展開した。しかし、これも一部のコンビニで期間を限定したもので、全ての商品の開発に際し、スマホとの相性を意識しているわけではないと同社は説明する。
「確かにお菓子を食べるときに指を汚したくないというお客様の声があるのも事実ですが、反対に手を汚しながら食べるのが醍醐味という人もいます」
そんな中、躍進し続けているチョコレート菓子がある。ネスレ日本の「キットカット」だ。同商品は、10代に好きなお菓子を聞いたテレビ番組のランキングで上位に入るなど、若年層の人気が高い。
「スマホとの相性よりも、単なるチョコでなく、どんな場面で誰と食べたいたいのか。そんな物語がなければ支持されないと思います」(ネスレ日本メディアリレーションズ室の平松拓也さん)
キットカットはその呼称が「きっと勝つ」と似ていることから、受験生が験担ぎに食べる減少が有名になった。お菓子もスマホなどと同様、ブランド力だけに頼るのではなく、ユーザーとメーカーで作る物語がないも生き残ることができない時代に突入したと言っていい。
なお、森永製菓は安倍昭恵夫人のご両親の経営間会社である。
2018.10.15AERA参照
【完】