散歩 神保町から有楽町へ
予定と予定との間が数時間空き、神保町から有楽町まで歩くことにした。
トータル45分程度の道のりは、近くはないが散歩するにはちょうどいい距離感に思う。
小腹が空いて立ち寄っていたカフェからのスタートだ。
神保町の裏道を歩いていると、オフィスビルばかりで人はまばらだった。
背の高いビルばかりで空が狭く、視界の中は空と同じグレーばかりで彩りが少ない。
それであっても落ち着いた雰囲気であるのと、ちょっと横道を覗けばおそば屋さんなどの昔からあるであろう個人店舗が残っており、居心地がよかった。
やがて竹橋付近に出て、内堀通りを歩き始める。
皇居のすぐ脇の大きな道だ。
進行方向左側はビルが建ち並び、右側はお堀と皇居の木々が見える。
気象庁と消防庁の横を通れば、風の強さと冷たさにはだけたコートの前を合わせる。
晴天だった昨日と打って変わって曇り空の今日は、昨日と左程変わらない気温であってもとても寒く感じる。
もっと着てくるんだったと後悔しながらも、この道のりは楽しかった。
お堀の向こうに並ぶ木々の合間から、クレーンがにゅっと伸びているのが見える。
あちら側は異世界で、江戸の時間が流れているような印象があるからか、皇居内の工事にクレーンが使われていることに驚きとちょっとした戸惑いを感じている自分がいる。
例えばそれは、お巡りさんが電動アシスト付きの自転車に乗っているのを見るとちょっともやっとするのと同じだ。
明治生命館はいつみても美しい。
柱や、彫刻などギリシャを思わせるそれらは、周りの巨大なビルの中にあっても一際目立っている。
早足に進みながらも、思わず見とれてしまった。
大手町まで来ると、真っ直ぐ伸びる道路の遠くの方に新幹線が通っているのが見えた。
東京駅ももう近い。
町並みは徐々に華やかになり、立ち並ぶ高級ブランド店が見えてくる。
華やかさと比例して人の通りが多くなるにつれて、私の気持ちも高ぶってくるようだ。
あちこちで黄色いはとバスや、赤いスカイバスが走っている。
そういえば、二階建てオープンのはとバスで、ランチを楽しみながらのツアーを見掛けた。
各テーブルに向かいあって座り、ナイフとフォークで舌鼓を打っているのだが、揺れて危なくないのか、卓上のグラスワインはこぼれないのか、みんな下を向いて食事しているけど景色を楽しめているのか、そもそも今日は寒くないのかと、心配だらけの光景だった。
東京国際フォーラムの脇を通りながら、こんな建物だったっけと困惑する。
周りはもっと広くて特徴的なデザインだったと思うのだがと考えて、有明にあるビッグサイトと間違えている自分に気付く。
世の中の色んなことを、なんとなくで把握しているからこんな勘違いはしょっちゅうだ。
ここで丸の内のガレット屋さんに寄ってランチを摂った。
ひとりで食事をするときはカフェで軽く食べることがほとんどだが、今日は楽しみたい気分だった。
ガレットとサラダを食べ、セットで付いてきたホットコーヒーを啜る。
ひとりランチはおいしくないと常々感じているが、散歩が楽しかったからか今日のガレットは美味しかった。
神田まで出てくると、丸の内の洗練された上品な華やかさから一転して、今度はにぎやかな街へと変わる。
飲み屋さんとか、パチンコ屋さんとか、庶民っぽい味が一気に出てくる。
少しほっとした自分に気付きながらも、丸の内の憧れる空気感に後ろ髪引かれる気分だ。
ほんの暇つぶしから思いついた散歩だったが、思いのほか楽しく充実した時間を過ごせた。
ちょっと足を伸ばして街を歩くのはとても楽しい。
『ノルウェイの森』でスニーカーを履きつぶすエピソードを思い出し、私も新しいの買おうかななんて思ってみたりした。