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ナマズオと川辺の昼餉(ひるげ)


うぺぺ、今日も良い天気だっぺな。

ナマズオのギョシンは、赤い前掛けを整えながら、のんびりと空を見上げた。ヤンサの町は、いつもの通り穏やかな雰囲気に包まれている。首元の黄色い鈴がかすかに揺れ、心地よい音を奏でていた。

「オイラ、今日は川に魚を取りに行くっぺ」

ギョシンは独り言を呟きながら、三叉を手に取った。その姿は、一見するとただの大きなナマズのようだが、二本足で颯爽と歩く姿は人間そのものだった。

町を歩いていると、知り合いの声が聞こえてきた。

「おや、ギョシンじゃないか。今日はどこへ行くんだ?」

振り返ると、そこにはインテリナルシストとして知られるセイゲツが立っていた。

「オイラ、昼ごはんの魚を取りに川へ行くところだっぺ。セイゲツも一緒に来るっぺか?」

セイゲツは少し考え込むような仕草をした後、にっこりと笑った。

「そうだな。私も久しぶりに川へ行ってみようかな。ちょうど良い気分転換になりそうだ」

二人で歩き始めると、今度は別の声が聞こえてきた。

「おっ、ギョシンとセイゲツだっぺ。どこ行くっぺか?」

声の主は、小悪党として知られるギョドウだった。借金返済のために小さな詐欺を繰り返しているらしいが、今日はのんびりとした様子だ。

「オイラたち、川へ魚を取りに行くところだっぺ。ギョドウも来るっぺか?」ギョシンが誘うと、ギョドウは少し驚いたような顔をした。

「へえ、俺を誘うっぺか? まあ、暇だしいいっぺよ。行ってやるっぺ」

三人で歩き始めたところで、また新たな声が聞こえてきた。

「みんな、どこへ行くんだっぺ?」

声の主は、成金屋として知られるギョリンだった。将来は大金持ちになるという夢を持つ彼は、いつも明るい笑顔を浮かべている。

「ボクも一緒に行っていいっぺか?」

こうして、思いがけず四人での川行きとなった。ギョシンは不幸体質で知られているが、今日はなぜか幸運な予感がした。

川に到着すると、四人はそれぞれの得意分野を活かして魚を捕まえることにした。

ギョシンは、持ち前の電撃能力を使って魚を捕まえようとした。

「うぺぺ、ここらへんにいるっぺな」

集中して水面を見つめると、ギョシンの体から微弱な電流が放出された。その瞬間、水面がわずかに波打ち、魚の影がちらついた。

「よっしゃ、来たっぺ!」

ギョシンは素早く三叉を構え、目にも留まらぬ速さで3連続の突きを繰り出した。水しぶきが上がり、見事に大きな魚を仕留めることに成功した。

「おお、さすがだな」セイゲツが感心したように言った。「ギョシン、君の電撃能力と三叉の技は本当に素晴らしい。古来より、ナマズオ族はその能力を活かして効率的に漁を行ってきたんだ。興味深いことに、この電撃は血行促進にも効果があるんだっぺ!」

思わず興奮して「っぺ」が出てしまったセイゲツだったが、すぐに咳払いをして取り繕った。

一方、ギョドウは別の方法で魚を捕まえようとしていた。

「へへ、俺様の特製餌を見るっぺよ」

ギョドウは、どこからか怪しげな粉を取り出し、水面にまいた。するとたちまち、魚たちが集まってきた。

「よっしゃ、こいつらは俺のもんだっぺ!」

ギョドウは手際よく網を投げ入れ、一網打尽に魚を捕まえた。

「うぺぺ、それって合法っぺか?」ギョリンが心配そうに尋ねた。

「安心するっぺ。これは俺様特製の魚寄せパウダーだっぺ。害はないっぺな」ギョドウは得意げに答えた。

ギョリンは少し考え込んだ後、「なるほどっぺ。そういう商売のアイデアもあるんだっぺな。ボクも参考にさせてもらうっぺ」と呟いた。

セイゲツは、その博識を活かして魚の習性を分析し、効率的に捕まえようとしていた。

「ふむ、この時期のこの川では、あの岩陰に大物が潜んでいる可能性が高い」

セイゲツは慎重に岩陰に近づき、素早い動きで魚を捕まえた。

「へえ、すごいじゃねえか」ギョドウが感心したように言った。

最後にギョリンは、持参した釣り竿を使って魚を釣ろうとしていた。

「ボクは昔ながらの方法で挑戦するっぺ。きっと大物が釣れるはずだっぺ!」

しかし、なかなか魚が釣れず、ギョリンは少しずつイライラし始めていた。

「うーん、どうしてだっぺか。ボクの高級釣り竿なのに…」

そんなギョリンを見かねたギョシンが、アドバイスをすることにした。

「ギョリン、オイラが教えてあげるっぺ。こうやって餌を投げ入れるんだっぺ」

ギョシンは自身の経験を活かし、ギョリンに投げ方のコツを教えた。すると、まもなくギョリンの釣り竿が大きく揺れ始めた。

「うわっ、来たっぺ! 大物だっぺ!」

興奮のあまり、ギョリンも思わず「っぺ」を使ってしまった。四人で協力して引き上げると、驚くほど大きな魚が釣れていた。

「やったっぺ! これで大儲けだっぺ!」ギョリンは飛び跳ねて喜んだ。

「おいおい、それは昼飯用だろ?」ギョドウが冷ややかに指摘した。

「あ、そうだっぺ…ぺぺぺ」ギョリンは少し恥ずかしそうに頭をかいた。

セイゲツは笑いながら言った。「まあまあ、十分すぎるほどの収穫だ。みんなで分けて食べよう」

四人は川辺で即席の調理場を作り、捕まえた魚を焼き始めた。香ばしい匂いが辺りに広がり、お腹を鳴らす音が聞こえてきた。

「うぺぺ、いい匂いだっぺな」ギョシンが満足そうに言った。

「ああ、こりゃあ美味そうだっぺ」ギョドウも口元を緩めた。

「ふむ、新鮮な魚は栄養価も高く、健康にも良いんだ」セイゲツが豆知識を披露した。

「ボクたちの友情の証だっぺな、この魚は」ギョリンが感動したように言った。

焼き上がった魚を前に、四人は楽しく会話を交わしながら、昼食を楽しんだ。ギョシンの不幸体質も今日は影を潜め、穏やかな時間が流れていった。

食事を終えた後、ギョシンは満足そうに空を見上げた。

「うぺぺ、今日はみんなと一緒に来て良かったっぺ。オイラ、こういう日々を大切にしていきたいっぺな」

他の三人もうなずき、それぞれの思いを胸に秘めながら、ゆっくりとヤンサの町へと帰っていった。首元の黄色い鈴が、その瞬間を祝福するかのように、やさしい音色を奏でていた。

(おわり)

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