刑務所しか居場所のない障害者たち (家族や社会から見捨てられた障害者たちの現実)
(202011.21 投稿)
我が家では、脳に障害のある4才になる娘を育てています。
そんな娘を育てる親として、娘が親なきあとも社会から守られ、幸せな生涯を送ってもらいたいという想いは当然あります。
障害があって社会の支援が必要な人たちには、しっかりと適切なサービスが、安心して受けられる世の中であって欲しいという想いです。
しかし実際には、家族からも社会からも見捨てられ、刑務所にしか居場所を持てない障害者たちが少なからずいるというのが現実です。
今回は、こちらの本を参考に、社会のセーフティーネットにかからずに、犯罪を犯し、刑務所にしか居場所が無くなってしまう障害者の問題に関してお伝えしていきたいと思います。
この本の著者は、このような方です。
刑務所という場所を誤解していた
あなたは、刑務所というところにどんなイメージを持っているでしょうか?
そこは悪の巣窟で、凶暴な男たちや、冷徹な知能犯が閉じ込められている。
そんなイメージを持っているのではないでしょうか?
この本の著者も同じように思っていました。
でも、実際は違いました。
著書が刑務所で出会ったのは、認知症のお年寄りや重い病気の人、障害のある人たちでした。
悪人を閉じ込めて、罪を償わせる場だと思っていたのに、まるで福祉施設のような世界が広がっています。
刑務所の塀が守っていたのは、塀の外の人たちではなく、いじめや差別を受け、生きづらさを抱えている、塀の中の人たちだったのです。
では、なぜこのようなことが起こってしまうのでしょうか?
シャバに戻りたくない人たち
刑務所にいるのはどんな人?
「あのお金は、お母さんが神様にあずけたんだ。それを返してもらっただけ。だから、僕はわるくないよ!」
著者が刑務所で出会ったAさんは、いつもこう言っていました。
20台後半の男性。
二度の窃盗罪で2年6か月の懲役刑に服していました。
彼が盗んだのは合計たったの300円。
神社で賽銭泥棒をしました。
両親は離婚し、ずっと母親と2人暮らしでした。
彼の母親は、彼と初詣に行ったとき、賽銭箱に1000円を入れてこう言い聞かせました。
「神様にお金をあずけているんだよ。困ったときに、きっと助けてくれるからね」
Aさんは、母親と2人寄り添うように暮らしていました。
だけど悲しいことに、母親は病気でなくなり、彼はひとりぼっちになりました。
他に親戚もいない彼は、障害があるために仕事が続かない。
否応なしにホームレス生活するをするしかありませんでした。
そんなとき、母親の言葉を思い出し、初詣に行った神社で賽銭箱をひっくり返したのです。
神様に預けていたお金で助けて貰おうと思って。
彼は裁判でこう言いました。
「まだ700円神様に貸している」
通常、このような軽い罪では、刑務所に入るまでもありません。
ただ、Aさんは身寄りもなく、福祉にもつながっていませんでした。
彼には刑務所しか行き場がありませんでした。
Aさんのような知的障害のある人が、刑務所にはたくさんいます。
彼らは軽い罪を犯すことで、結果的に、冷たい社会から刑務所へ避難しているともいえるのです。
受刑者のうち10人に2人は知的障害者
2016年に新しく刑務所に入った受刑者は約2万500人で、そのうち、約4200人は知能指数が69以下でした。
つまり、受刑者10人のうち、2人くらいは知的障害がある可能性が高いというとです。
最終学歴は、中学卒業がいちばん多くて40%くらい。
次が高校卒業で30%くらい。
大学卒業は5%くらいしかいません。
では彼らはどんな罪を犯したのでしょうか。
いちばん多いのは窃盗で、だいたい半分くらい。
おにぎりやパンなど、安いものを万引きしてしまった人が多いです。
次に多い罪名は、覚せい剤取締方法違反。
本人がクスリを使った案件もありますが、ヤクザにだまされて運び屋にされたというのもよくある話です。
その次に多いのが詐欺罪。
詐欺といってもほとんどの場合、電車やバスの無賃乗車、飲食店での食い逃げで、被害額は数百円とか、多くても数千円くらい。
他に最近では、詐欺グループにだまされて、振り込め詐欺の「出し子」にさせられる知的障害者も増えています。
知的障害のある人が犯行に走った理由としては、生活苦がいちばん多いです。
あるいは、やけに親しげに声をかけてくるひとがいて、「友達になった!」と思っていたら、実は相手がヤクザで、いいように使われてることもあります。
福祉施設化する刑務所
刑務所に入った受刑者は、本来であれば作業ごとに工場が振り分けられ、刑務作業といった仕事をしなければいけません。
けれども、いくつもある工場のなかで、異質なところがあります。
「寮内工場」
知的障害者や精神障害者、認知症の高齢者、他にもなんらかの事情で作業ができない人たちが集められています。
他の受刑者たちから、”塀の中の掃き溜め”などと言われてしまっているところです。
障害のある受刑者の割合が増えて、「刑務所の福祉施設化」がどんどん進んでいます。
受刑者が7万人を超えていた2006年当時、刑務所が1年間に使う医療費は約32億円でした。
それから10年たって、受刑者数は5万人を切るようになったのに、逆に医療費は約60億円と、3倍近くに膨らんでしまいました。
子守唄を歌う刑務官
寮内工場を担当する刑務官のほとんどは、受刑者たちを罰しているというよりは、保護している感覚で接しています。
「弱肉強食のシャバの中で大変だったろう。ここは食事も寝床も与えるし、満期までは自分たちが守ってやる」。
そんな気持ちですいることが、はた目から見てもよくわかります。
著者は、夜中、独房で泣く受刑者に、刑務官が優しく子守唄を歌うすがたを見たこともあります。
刑務所を出ても行く当てが無い
「俺たち障害者は生まれたときから罰を受けているようなもんだ。だから、罰をを受ける場所はどこだっていいや。また刑務所の中ですごしてもいい」
「俺ね、これまで生きてきたなかで、ここがいちばん暮らしやすかった」
まもなく満期出所しようとしているEさんは、そんなことを真顔で言います。
彼にとって一般社会は、刑務所よりも不自由で、居心地が悪いところなのです。
2016年は9600人くらいの人が刑務所を満期出所しましたが、その半数以上は行くあてがないまま社会に出されています。
社会福祉施設に行くことが決まっている人は、たった4%しかいません。
出所後に仕事がないことも、再犯してしまう原因です。
再犯者の約7割は無職というのが現実です。
家族もいない、家もない、お金もない。
そんな、ないないづくしの状態は長く続けられません。
満期出所者の半数近くは、5年以内に再犯をして刑務所に戻ってきています。
なぜなら、そうするしか安全が確保できる方法が無いからです。
法務省は、出所後2年以内にふたたび刑務所に戻ってしまう「再入所率」を2022年までに2割削減させることを目標に、いろいろな支援をはじめています。
出所した人の住む場所を世話するほかに、福祉につなげたり、仕事につなげようとしています。
しかし、その目標を達成させるためには、社会の側が変わることも必要ではないでしょうか。
まとめ
刑務所にいる知的障害者の多くが、身寄りもなく、刑務所にしか居場所が無いというのが今の社会の現実です。
本来であれば福祉で守られるべき人たちが、刑務所での生活を余儀なくされています。
我が家では、脳に障害のある4才になる娘を育てています。
自分達が健康で、娘の世話をできる間は問題ありませんが、親なきあと、娘が安心して生活できる居場所をつくっておくことが非常に重要だと考えさせられました。
同時に、身寄りのない障害者が社会のセーフティーネットから漏れてしまう問題は、社会全体の問題として解決していかなければならない、重要な問題です。
このような人たちが福祉で守られたり、働く場所を与えられ、社会的な役割を持てる世の中になっていかなければならないと思わされました。
次回は「刑務所しか居場所のない障害者たち」の partⅡ として、「司法は障害者たちを守ってくれないのか」ということをテーマとしてお伝えしたいと思います。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?