『OSOCU』と名古屋黒紋付染を今に受け継ぐ山勝染工さんとの関係性
アパレルブランド『OSOCU』は、名古屋黒紋付染を取り入れた服を多く企画しています。江戸時代から続くその技術は国の伝統的工芸品に指定されています。今ではOSOCUの企画に欠かせない存在となっています。
2024年4月より始まった『OSOCU』のこれまでの振り返りや実現したい未来、アイテムが出来上がるまでのストーリーなどをライターがインタビューしながら伝える企画「読んで知る『OSOCU』」。
第3話目は、『OSOCU』が扱う名古屋黒紋付染を今に受け継ぐ山勝染工さんとの関係性について、代表の谷氏が語りました。インタビュアーはつむぎ(株)のサトウリョウタです。
名古屋黒紋付染は国が認めた伝統的工芸品
サトウ:まずは名古屋黒紋付染について教えてください。
谷:名古屋黒紋付染は国が認めた伝統的工芸品です。現在『OSOCU』で取り扱っている定番アイテムの中で、はっきりと伝統的工芸品の技術と言えるのは、名古屋黒紋付染だけですね。前回お話した知多木綿は伝統工芸品なんですけど、そもそもほとんどの方は2つの違いを知らないというよりも、名前の違いがあること自体を知らないんじゃないかと。
サトウ:初めて耳にしました。伝統工芸品と伝統的工芸品の違いについて簡単に教えていただいてもよろしいでしょうか?
谷:まず伝統工芸品は長年受け継がれている技術や技法を用いて作られたもので、より生活に密接しています。厳密な定義はないと私は認識しています。その分伝統工芸品よりも種類がありますね。伝統的工芸品は、国が指定した厳しい審査をくぐり抜けた猛者たちと言えば伝わりやすいでしょうか。ちなみに現在国に認められている伝統工芸品は241品(令和5年10月26日時点)しかありません。
サトウ:わかりやすい説明ありがとうございます。数が少ない貴重な伝統的工芸品である名古屋黒紋付染とはどのようなきっかけで出会ったのですか?
谷:服作りを始めた2014年ごろは、ほとんど生産についての知識がなかったので、勉強の一環でビジネス系のイベントに参加したり、いろんな人に会ったりしていたんです。そんな中、とあるワークショップで伝統的工芸品という存在を初めて知りました。まだ伝統工芸品と伝統的工芸品の違いも知らなくて、「伝統工芸」という括りでの認識でしたが。そこで出会った職人さんから人伝いに、現在黒染めをお願いしている山勝染工さんをご紹介いただいたんです。
当時は、先方に断られない限りは色んな服を作ろうというフェーズでした。加えて、伝統工芸は取り入れようと考えていたところだったため、とにかく染色依頼してみようと取り組んだのが山勝染工さんとのお付き合いの始まりです。
でも、最初は黒ではなく、別の色の染めでの依頼をしていました。山勝染工さんは着物の修繕も手掛けられていて、黒以外の様々な色の調合にも長けていましたので。
サトウ:最初は別の色をご依頼されていたんですね。今は黒に絞っているとお聞きしたのですが、その理由について教えてください。
谷:そうですね。100%ではないですが、ほとんど黒に絞っていますね。これは、なぜ名古屋黒紋付染という技術を取り入れるのかを考えた結果です。理由は2つあります。一つは、私たちがやるべきことがどうかを考えると名古屋黒紋付染の技術で他の色を私たちが積極的に使う理由がないため、もう一つは分かりやすさのため、です。
サトウ:なるほど。もう少し詳しく教えてもらえますか?
谷:他のことにも通じるのですが、「これは私たちじゃなくても良いのではないか、やっているところを紹介すれば済む話ではないのか」という自問自答は常にしています。ユーザーの方が「この色の服が欲しい」と思えば、今は染め替えなどのサービスも充実してきているので、そこを紹介すれば済みます。やるべき理由がないのであれば、無理に企画しなくてもいいと思うんです。分かりやすさの方はそのままの意味ですが、日常生活に取り入れてもらうのにはシンプルが一番だと感じています。
サトウ:名古屋黒紋付染の黒は通常の黒とどのように異なるのでしょうか?
谷:店頭でよくお客様から実際に見た感想をいただくのですが、やっぱり黒がとても深いんです。濃いというより深いという表現がしっくりきます。山勝染工さんは、代々名古屋黒紋付染を受け継いでいる会社であり職人集団です。黒という色に関しては、やはり特にプライドを持っているんだなと感じます。黒が好きな人であればあるほど、ぜひ手に取っていただききたい黒ですね。
生産者の“顔”が見える服づくり
サトウ:山勝染工さんとは、深い関係性を築いているとお聞きしました。具体的にはどのような関係なのでしょうか?
谷:お互いがすぐに顔を合わせられる距離にいることもあって、取引先の中で一番会う回数が多いです。ほとんど毎週のように、メッセージのやり取りがありますし、納品で直接顔を合わせることも多いです。さらに催事にも共同で出る機会がありますし、私以外のメンバーともやりとりしています。多分やり取りのない週の方がめずらしいんじゃないかな。連絡していない週があると違和感があるくらいです(笑)。
サトウ:チームメンバーのような感じですね。ちなみに、山勝染工さんに染色をお願いしている理由は何なのでしょうか?
谷:山勝染工さんは名古屋黒紋付染の職人技術を残すために、さまざまな活動をしています。一方で、私たちは職人さんの持続可能性に着目した活動をしています。『OSOCU』が目指す方向性と近い感覚であるというのは、一緒に仕事をする上でとても重要な要素だと私は思っているんです。
サトウ:一般的な染色の会社とは違うのでしょうか?
谷:そうですね。機械で効率的にたくさん染める方法もあるので、そちらを選ぶ会社さんが多いんじゃないかなとは思います。山勝染工さんは、手作業で時間をかけて少量ずつ服を黒染めしています。コスト面や効率面を考えて機械で染めるという選択肢もなくはないですが、せっかく自分たちの地元に伝統的な技術の職人さんがいるのだから、活かす方が私としては自然だという判断です。
それに、実際に会って渡せるとか、ちょっと急ぎだったから持ってきたよとか、昔のご近所付き合いではないですが、そういうやりとりができるのは近くならではですよね。案外こういうことが、地域のものづくりが続くのに大事なんじゃないかと思ったりもします。
サトウ:確かに深いだけではなく、良好な関係性を感じますね。
谷:『OSOCU』は、生産者の“顔”が見える服づくりに意味を見いだして活動しています。だったらまずは近くから、ですね。
洗濯の配慮が不要の黒染めの服
サトウ:名古屋黒紋付染を取り入れた服はどんな特徴があるのでしょうか?
谷:洗濯機で洗っても色落ちしないので、気を遣わなくていい点ですね。手染めや天然染料で染めた服は色落ちの可能性から、洗濯がデリケートなケースが少なくありません。もちろんそれが良い味にもつながるのですが。
サトウ:洗濯機が特別な配慮なしで普通に使えるのは大事ですね。
谷:なかなか手洗いや単独洗いを日常的に行う人は少ないですからね。服の色落ちは主に摩擦や光、水が原因で発生します。洗濯では水と摩擦が関係しますね。摩擦は洗濯ネットである程度防げますが、水はそうもいきません。山勝染工さんでは家庭で落ちるレベルの色落ちを先に済ませておいてくれているので、ほとんど色落ちしません。
サトウ:どんな生地でも色落ちしないんですか?
谷:実際に検証したわけではないので、正確には分かりません。ただ、仕上げの色を落とす工程は家庭用洗濯機にはない設定温度ですので、落ちないのではないかなと思います。様々な衣服を黒に染め替えるサービスも好評のようです。ちなみに、『OSOCU』がメインで使う知多木綿の場合だと、色が落ちている感覚はほぼないですね。着用を繰り返すうちに毛羽立ってきて白っぽく見える、ということはありますが。
サトウ:なるほど、良いですね。その他に特徴はありますか?
谷:日常への取り入れやすさです。伝統的工芸品を使った日常品で手の届く価格で購入できるものは多くありません。基本的なアパレル構造から考えると手間や少量生産コストを加味して3万円くらいの値付けはしたくなると思います。『OSOCU』では名古屋黒紋付染を取り入れた服を1万5,000円位から販売していますし、山勝染工さんは既成服の染めではありますが、4,000円台で販売しています。伝統的工芸品指定の技術を用いたアイテムとしては比較的買いやすい価格なのではと思います。
サトウ:確かに安くはないにせよ、大手アパレルと大差ない価格で買えるのは魅力的な選択肢ですね。
サトウ:次に先ほど少し出てきた、服を長く着続けるためのサービス「染め替え」の将来の可能性について教えてください。
谷:数年前から目にするようになった取組みですね。山勝染工さんも7〜8年前から取組みを始めていると思います。ただ当初は「染め替え」そのものが知名度も低く、一部の人しか知らないニッチなものでした。現在は徐々に全国的に広まりつつあって、「染め替え」の人気が高まっているのを感じます。
サトウ:人気が高まったのはここ最近ですか?
谷:そうですね。2020年に大手アパレルのアダストリアさんが在庫品を黒染めで蘇らせる企画を実施しました。個人的にはそのあたりから「染め替え」という言葉の認知が上がっていったように思いますし、リサイクル意識の高まりも関係があるのかもしれません。1万5,000円で買った服を5,000円で染め替えれば、色違いの服を1回1万円で2回楽しめるという話なので、確かにそうだねと思ってくれる方も多そうです。
生まれ変わった服を見て喜ぶお客様は多いですし、それでまた服の可能性が広がったら面白いですね。
サトウ:最後の質問です。谷さんが考える「技術や取り組みが長く続くために必要なこと」について教えてください。
谷:やっぱり生活の中で使い続けることです。なので、どう長く使ってもらえるか、たくさん使ってもらえるかの視点を、作り手側(企画する側)が持つべきだと思っています。生活の中で使われないものを作っても、その技術は続きません。伝統工芸品の中だと、琉球ガラスは沖縄土産の定番になっていますし、今の生活の中にもフィットしている技術のいい例だなと個人的には思っています。外から見ただけの感想ではありますが。
サトウ:ユーザー目線で考えるということですね。
谷:まさにそうです。服は着てもらってなんぼの世界なので、どうすれば着てもらいやすいかを考える必要があります。例えば服が好きな人・どちらでもない人・全く興味がない人の3つに分かれているとします。服の販売を考えるとどうしても服が好きな人をターゲットにしがちです。気に入ってもらえたら盛り上がりますし、業界の話も通じやすい。そこを目指したくなる気持ちは痛いほどにわかるんですけど、好きでも嫌いでもない人が大多数という事実を忘れてはいけないと思います。
サトウ:服好きだけを考えると、少ないパイを取りあう感じになってしまいますね。
谷:はい。そもそも服に全く興味がない人は、服を企画する側としてはお客様の対象にはなりません。でも、大多数の服好きではないけど何でもいいわけじゃない人は取り入れていく方が健全な事業の継続が見込めます。ひいては技術の継承もしやすいですよね。
サトウ:でも結構広いターゲットになるので大変ではないですか?
谷:その通りで、普通にそれだけ考えるとターゲットが抽象的かつ広くなってしまいます。そこで『OSOCU』は「地域」という括りを入れることで、その土地にゆかりのある人が購入しやすくなるように設計しました。実際、東海地方に住んでいたり何かしらの思いがあったりする方がよく購入してくれます。もちろん地域を日本と捉えて応援していただける顧客の方々も多いです。
サトウ:どの地域や国でも同じようなやり方ができそうですね。
谷:そうですね。生産性や効率化は皆が向かっている方向だとは思いますが、それだけで勝負したとしても、大手企業には太刀打ちできません。小さいからこそ「地域」という視点も入れ、小さくても持続しやすい環境を整えて行きたいですね。今はまだまだ関係を作れている職人の数が少ないですが、健全なペースと規模で輪を広げていくのがいいと思っています。
これはあくまで私の個人的な感覚ですが、その環境づくりの1つの良い形が山勝染工さんとは出来つつあるように感じています。
「読んで知る『OSOCU』」の第3話目は「『OSOCU』と名古屋黒紋付染の関係性」をお届けしました。
『OSOCU』では「生産者の顔が見える服を作りたい」という思いから、山勝染工さんの名古屋黒紋付染を取り入れています。公式オンラインストアにある「『OSOCU』について」には、どのようなビジョンを『OSOCU』が持っているのかも記載されているので、気になった方はぜひご一読ください。
今後も「読んで知る『OSOCU』」を月1ペースで随時公開予定ですので、お楽しみに。
取材・文:サトウリョウタ(つむぎ株式会社)