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正二十面体の14番目の星型 創作記録その2
今回からは実際の創作過程を書いていきます。
正二十面体の14番目の星型/Fourteenth Stellation of Icosahedron
— 丹桂 (@osmanthus66) September 22, 2024
製作:私
30枚#折り紙 #折り紙作品 #origami pic.twitter.com/ElVCURJElS
多面体の各面の形状(辺の長さと角度)
この星型多面体を創作するにあたり、まずは多面体の構造を理解せねばなりません。完成形を眺めてみると、外郭は正十二面体であることがわかりますが、それ以上のことはよくわかりません。wikipediaには一つの面が次のような構成になっていると書いてありました。

色のついた部分が同一平面にあり、これが20枚組み合わされています。ぱっと見で、大きな三角形と小さめの細長い三角形の2種類があることがわかります。とはいえ、これではどう組み合わされているのかが全然わからないので、まずは各辺の長さと各頂点の角度を求めることにします。一番大きな正三角形の各辺が$${\varphi:1:\varphi}$$($${\varphi=\dfrac{1+\sqrt{5}}{2}}$$、黄金数)で分割されていることから、正弦定理や余弦定理を使えば求めることができます。
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辺の長さは、値がスッキリするように適当に約分してあります。
結果を眺めてみると、これだけで$${\sqrt{2}}$$、$${\sqrt{5}}$$と黄金数$${\varphi}$$が出てきます。先が思いやられますね。。。
辺の共有関係について
さて、辺の長さがわかったので、どの辺がどの辺に対応するのかがわかります。長さ$${\sqrt{2}}$$の辺は、完成形の外殻となっている正十二面体の1辺にあたります。
また、長さ$${\varphi}$$の辺が2つあるので、大きな三角形と小さな三角形はこの長さ$${\varphi}$$の辺を共有することがわかります。そして、完成形をじっくり眺めるとわかるのですが、これら2つの三角形は互いに裏返す必要があります。
そして、注目すべきなのは、長さが$${1}$$、$${\dfrac{\sqrt{5}}{5}}$$、$${1+\dfrac{\sqrt{5}}{5}}$$の辺です。長さが2辺の和になっているので、長さ$${1+\dfrac{\sqrt{5}}{5}}$$の辺は、長さ$${1}$$の辺と、長さ$${\dfrac{\sqrt{5}}{5}}$$の辺と共有されることがわかります。これをユニット折り紙創作の観点で考えると、1つのポケット(または腕)に2つの腕(またはポケット)が差し込まれるようなユニットを作らなければならない、ということです。
普通のユニット折り紙では、1つの腕と1つのポケットが1対1に対応します。有名な薗部式ユニットを思い浮かべてもらえばわかりやすいかと思います。しかし今回作りたい多面体では、それが成立しません。実際にこれがどのように組み立てられるのか、正直この段階では全く想像がつきませんでした。
いつもなら、ある程度どのような組み立て方をすれば良いかが想像しながらユニット創作をするのですが、今回はまさに暗中模索で創作をしなければならなかったのです。
多面体の情報はwikipediaの静止画しかなかったので、詳細な形はよくわかりません。実際に作ってみないとどうなっているかわからない状態で創作を進めるしかあしませんでした。
これが、今回苦戦したポイントの2つ目の要因です。
ユニット第1案
さて、色々と不安要素はありますが、ひとまず辺の長さと共有関係がわかったので、ユニット形状の第1案を作りました。
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構造上、長さ$${1+\dfrac{\sqrt{5}}{5}}$$の辺から二股の腕を出すことは不可能なので、必然的にポケットとなり、長さ$${1}$$の辺と長さ$${\dfrac{\sqrt{5}}{5}}$$の辺は腕となります。残りの長さ$${\sqrt{2}}$$の辺と長さ$${\varphi}$$の辺はユニットの中に埋め込むことで接続部分を減らします。この形状なら、30枚組で組み立てられるはずです。
もっとも、ユニット同士が干渉しないかどうかや結合部分の丈夫さがどうかについては組んでみないとわかりません。結後部分の強さは、ポケットに2つの腕が入るという特殊な構造のため、あまり期待はできません。今回は糊付けを前提で設計を進めます(私はユニット作品の糊付けについてはほとんど気にしません)。
折り紙幾何学を使ったユニット第1案の作図
ユニット案ができたので、作図方法を考えていきます。
折り紙でユニットを作図する際は、角度から考えることが多いので、今回も定石に従い、角度の折り出しから考えます。
川村みゆきさんの著書『多面体の折紙』(日本評論社)では、角度$${\theta}$$の折り出しには$${\cos{\theta}}$$が使いやすいと述べられています。実際その通りで、$${\cos{\theta}}$$に$${\sqrt{}}$$が含まれる形をしていても、倍角の公式が$${\cos{2\theta}=2\cos^2{\theta} - 1}$$となるように、$${\cos{\theta}}$$の2次式で書くことができるので、比較的簡単な式になることが期待できます。$${\cos{2\theta}}$$の値がわかれば、$${2\theta}$$を2等分すれば、欲しい角度$${\theta}$$を得ることができる、と言うわけです。
場合によっては$${\sin{\theta}}$$や$${\tan{\theta}}$$を使うこともあるので、今回使うユニットに出てくる角の三角関数の値を記載しておきます。
$$
\begin{array}{|c|c|c|c|} \hline
\theta & \cos{\theta} & \sin{\theta} & \tan{\theta} \rule[-8pt]{0pt}{20pt}\\ \hline\hline
\alpha & \dfrac{\sqrt{10}}{4} & \dfrac{\sqrt{6}}{4} & \dfrac{\sqrt{15}}{5} \rule[-15pt]{0pt}{40pt}\\ \hline
\beta &\dfrac{\sqrt{2}}{4}\dfrac{1}{\varphi^2} & \dfrac{\sqrt{6}}{4}\varphi & \dfrac{\sqrt{6}(2+\sqrt{5})}{2} \rule[-15pt]{0pt}{40pt}\\ \hline
\gamma &\dfrac{1+3\sqrt{5}}{8} & \dfrac{\sqrt{3}}{8}(\sqrt{5}-1) & \dfrac{\sqrt{3}(4-\sqrt{5})}{11} \rule[-15pt]{0pt}{40pt}\\ \hline
\delta &-\dfrac{1}{4} & \dfrac{\sqrt{15}}{4} & -\sqrt{15} \rule[-15pt]{0pt}{40pt}\\ \hline
\end{array}
$$
どれも、あまり見慣れない値ですが、$${\cos{\delta}=-\dfrac{1}{4}}$$だけは有理数で簡単そうです。
なので$${\delta}$$は後回しにして、残りの3つの角度について先に考えます。
※ちなみに、この角度は名前がついているほど有名な角度で、マラルディの角度(Malardi's angle)と呼ばれています。
ユニット案その1の外形は、平行四辺形の鋭角を切り落としたような形をしています。平行四辺形の鈍角か鋭角のどちらかを作図できれば、ユニットの外形を作図することができそうです。
今回は、鈍角$${\alpha+\beta+\gamma}$$から考えてみたいと思います。
$$
\begin{array}{|c|c|c|c|} \hline
\theta & \cos{\theta} & \sin{\theta} & \tan{\theta} \rule[-8pt]{0pt}{20pt}\\ \hline\hline
\alpha + \beta + \gamma& -\dfrac{3\sqrt{5}-1}{8} & \dfrac{\sqrt{3}(1+\sqrt{5})}{8} & -\dfrac{\sqrt{3}(4+\sqrt{5})}{11} \rule[-15pt]{0pt}{40pt}\\ \hline
\end{array}
$$
この中で、$${\alpha}$$と$${\beta}$$については、$${\alpha+\beta=\dfrac{2\pi}{3}}$$という関係が成立し、これは簡単に作図できるので、$${\alpha+\beta+\gamma}$$が作図できれば引き算で$${\gamma}$$も作図できそうです。
しかし、$${\alpha+\beta+\gamma}$$の三角関数の値はちょっと複雑です。複雑な値を折り出すには、その分たくさん折り線をつける必要がありますが、折り線の数が増えると見栄えが悪くなることと、何より実際に折るときに大変なので、なるべく簡単に折り出せる方法を考えます。
どうすれば簡単な方法で折ることができるかについては、あまりエレガントな話ではありません。上記の$${\alpha}$$、$${\beta}$$、$${\gamma}$$、$${\delta}$$を足し合わせ、いろんなパターンで$${\cos}$$の値をひたすら計算し、その中から簡単なものを探します。
その結果見つけたのが、$${\alpha+\beta+2\gamma}$$という角度でした。
$$
\begin{array}{|c|c|c|c|} \hline
\theta & \cos{\theta} & \sin{\theta} & \tan{\theta} \rule[-8pt]{0pt}{20pt}\\ \hline\hline
\alpha + \beta + 2\gamma& -\dfrac{7}{8} & \dfrac{\sqrt{15}}{8} & -\dfrac{\sqrt{15}}{7} \rule[-15pt]{0pt}{40pt}\\ \hline
\end{array}
$$
なんと、$${\cos{(\alpha+\beta+2\gamma)}}$$が有理数になったのです。しかも分母が8でとても折りやすい! $${\alpha+\beta+2\gamma}$$が作図できれば、$${\alpha+\beta=\dfrac{2\pi}{3}}$$を引いて、残りの$${2\gamma}$$を2等分するだけです。
私はこれを見つけたとき、勝ちを確信しました。このユニット案で考えていけば、あとは簡単だろうと。
しかし、更なる問題がこの後に待ち受けていたのでした。
(その3へ続く)