正二十面体の14番目の星型 創作記録その4(終)
前回までで、ユニットの試作第1号を作るところまで書きました。
しかし、この試作には問題がありました。
今回はその問題点の解決と完成までの記録です。
試作第1号の問題
試作第1号には主に2つの問題がありました。
紙の無駄が多く、自然とユニットが開いてしまい、組むのが難しくなってしまうこと。
多面体の面となる部分に余計な折り線がついてしまい、見栄えが良くないこと。
正直、ここまで辿り着くまで色々と大変でしたが、これらの課題を解決するために、もうひと工夫したいと思います。
紙の無駄について
紙の無駄については、実は大した問題ではありません。試作第1号では辺の長さ$${1/4}$$ずつを余白としていたので、それを縮小すれば良い訳です。
余白の部分なので、後々の調整でどうにでもなります。なので、これは後回しにして、もう一つの問題を先に考えます。
余計な折り線を付けない折り方
これまで、ユニット形状を厳密かつなるべくシンプルな方法で作図する方針で考えてきました。これ以上、折り線を付けないシンプルな方法は無いように思えます。というより、もう考えるのに疲れてしまったと言うのが本音です。
そこで、「厳密」の条件を少し緩くしてシンプルな方法を探したいと思います。つまり、近似法を使います。
これまで厳密なやり方で作図してきたのに、ここにきて近似法を使うことに、人によっては抵抗感があるかもしれません。しかし、実際に紙を折る際には、誤差は付きものです。
折り紙における近似について
では、どれくらいの誤差なら許容できるのかを考えたいと思います。
このような話の時によく引き合いに出されるのが、紙の厚さは0ではない、ということです。ORIPAやOrihimeで展開図を描くのと違い、実際に紙を折る時には紙の厚さの分、折り線がずれることになります。また、新しい折り線をつける際に基準となる元の折り線も太さは0ではないので、折り線の太さの分ずれます。
ちなみに、普通の折り紙用紙では、厚みは0.068mmくらいのようです。
折り線の太さも紙の厚さと同じくらいのオーダーだと思われます。
小さいサイズで50mm四方の折り紙用紙くらいまでは使うことがあるので、用紙の辺の長さを基準として、紙の厚さによる相対誤差がどの程度なのかを試しに計算してみます。
$$
\\
\frac{0.068 \rm mm}{50 \rm mm}
\simeq 1.4\times10^{-3}
=0.14\%
$$
粗い計算ではありますが、折り紙をする人は皆、これくらいの誤差と戦いながら紙を折っているわけです。
(誤差を減らすテクニックというのもあるのですが、話が逸れるのでここでは割愛します)
近似の話に戻ります。
紙の厚さによる相対誤差が±0.1%程度、ということは、厳密に折った場合と比べて±0.1%程度の相対誤差であれば、折り線の誤差に吸収されてしまうので、実際に折る時にはほとんど(というより全く)気にする必要はない、と言えます。
したがって、ここからは相対誤差±0.1%くらいとなる近似法を探します。
ユニット案での近似を考える
それでは、今回のユニット案での近似を考えてみます。
まずは、展開図を眺めて、近似できそうなところがないかを探します。
黄色の横線は紙の中心で、黄色の縦線は紙の8等分線です。これら黄色線の交点と角度$${\alpha+\beta+2\gamma}$$の線(青の斜め線)が近い位置にあることがわかります。
もう少し拡大した図も載せておきます。
これは試作を折っている時に気づいたのですが、直感的に角度$${\alpha+\beta+2\gamma}$$の線と基準点が一致する訳はないことはわかります。しかし、実際に折ってみるとずれていることがわからないくらいでした。
では、相対誤差を計算してみます。今回は、$${\theta=\pi-(\alpha+\beta+2\gamma)}$$、近似での角度を$${\theta_{\rm approx}}$$として、$${\cos{\theta}=\dfrac{7}{8}}$$と$${\cos{\theta_{\rm approx}}}$$の値を比較します。
$$
\tan{\theta_{\rm approx}} =\dfrac{\sqrt{3}/2}{1+\sqrt{5}/4} = \dfrac{2\sqrt{3}}{11}(4-\sqrt{5}) \\ \\
\cos^2{\theta_{\rm approx}} = \dfrac{1}{\tan^2{\theta_{\rm approx}+1}} = \dfrac{373+95\sqrt{5}}{769} \\ \\
\cos{\theta_{\rm approx}} = \sqrt{\dfrac{373+95\sqrt{5}}{769}} \simeq 0.8741779
$$
相対誤差は、
$$
\dfrac{\cos{\theta_{\rm approx}}-\cos{\theta}}{\cos{\theta}} \simeq \dfrac{0.8741779 - 7/8}{7/8} \simeq -9.4\times10^{-5} = -0.094\%
$$
となります。
この近似は偶然見つけたものですが、たまたまにしてはかなり驚異的な精度です。これを使わない手はありません(※1)(※2)。
※1
普段、私が近似を使うときは、連分数展開を使って適当な有理数で代用する、という方法を取ることが多いです(この詳細は別の機会に書きたいと思います)。今回のような2重根号が出てくるような近似は、狙ってできるものではないので、まずしません。今回のケースは特殊も特殊、まぐれです。
※2
余談ですが、今回角度$${\gamma}$$を折る際に、$${2\gamma}$$を2等分するという工程を踏んでいます。2等分する際に、誤差も2等分されるので、この工程も精度向上に貢献しています。誤差が出やすい工程で2等分ないしは4等分、8等分などを行うことは、誤差を減らすテクニックです(今回は狙ったわけではありませんが)。
ユニット案その2
後回しにしていた紙の余白をどれだけ削るかという問題ですが、今回近侍に使う基準点(黄色線の交点)を残しておかなければならないので、必然的に決まります。
これで、ユニット案その2の完成です。
赤線がユニットを形作る折り線であり、青線とグレーの線が途中の作図で必要となる折り線です。余白となるグレーの線は6等分線です。
これで、余計な折り線もほぼなくなり、紙の無駄も減りました。
細かいことを言うと、縦の6等分線が多面体の面(赤線で囲まれた部分)に重なっている部分がありますが、これに関しては妥協です。流石にこれが重ならないようにするのは無理でした。。
実際に折ってみた試作第2号も大きな問題なさそうです。第1号よりも紙の無駄が減ったことと無駄な折り線がなくなったおかげで、折り線と面が綺麗に出るようになりました。
実際に30枚折ってみる
残る問題は、30枚のユニットを実際に組めるかどうかです。
これに関しては実際にやってみないとわからないので、実際に折ってみます。
私は普段、多面体ユニット作品を折る際には、多面体の形に注力したいこともあり、単色で作ることにしています。
しかし、今回は「1つのポケットに2つの腕が入る」という特殊なユニットで対応関係が難しいので、あえて色分けして作ることにしました。
ちょったしたこだわりですが、今回は隣り合うユニットが異なる色となるように組んでみました。これは3色で実現できます。
組み方は以下の情報を参考にしました。
面白いことに、上記の組み方をすると、今回のような「1つのポケットに2つの腕が入る」ユニットでも、問題なく色分けができます。
ただ一方で、ポケットとそこに入る2本の腕は綺麗に3色に色分けされるわけではないようです。ポケットと腕が同じ色になることはありませんが、腕2本が同色だったりそうでなかったりします(何か法則があるのでしょうか?)。
余談ですが、この多面体の内側は個人的なお気に入りです。マラルディの角度が集まっていて美しいですね。
完成
これで、正十二面体の14番目の星型は完成です。
これで創作記録は終わりです。
他の作品の創作記録も時間を見つけて書いていきたいと思います。