『4月』
25歳。
政府が掲げる人生100年時代というスローガンに乗っ取れば、人生の4分の1が過ぎたこの年に、私は人生最大の試練と幸福を得た。
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2020年1月。
巷で『新型コロナウイルス』という言葉が少しずつニュースに登場するようになったその頃、私は実家の広島にいた。
大学は愛知、就職は東京だったので、広島を離れた私は年に1回の帰省を心から楽しみにしている。
親戚が集まり、思い思いの歌を歌うカラオケ大会。
高校時代の友人と始まるマシンガントーク。
何年か前、流行っていたSから始まる写真アプリを久しぶりに開くと、流石超人気写真アプリ。
さらなる進化を遂げて2020年に合わせて、ねずみの耳が反映されたり、鼻に2020年というスタンプが貼られたりする。
あまり自分を着飾るのは好きではないが、ものは試しと友人と撮ってみると意外とハマった。
そうして帰省は電光石火のごとく過ぎ去り、現実へと戻っていく。
今は2020年4月の東京。
損害保険会社で働く私は社会人2年目を終え、3年目営業へと異動した。
近所の公園にある桜の木が満開になっていた。
2か月に1回ほど更新するインスタグラムにはTransit beautyと書いて投稿。
自分が『通りすがりにこのような綺麗な景色を見た』という意味、そしてフォロワーが私のインスタをたまたま開いたときに、『偶然出会う景色』という二つの意味をかけ合わせた。
さあ何人のフォロワーがこの意味を理解するだろうか。
インスタには友人の、コマーシャルかと思わせるような目に留まる投稿で溢れている。
最近そんな投稿のことをステマというらしい。
企業や商品とは関係なく、ただ純粋にその良さをシェアしたいのであれば、
『ステマではありません』と書いたほうがいいらしい。
今の日本はステマで溢れているから、友達との信頼を保つために有効な言葉のようだ。
心のどこかで違和感を覚えた。
SNSの定義は『自分の好きなものを発信する』であったはずのに、資本主義社会がその傘下に入って、私たちの生活に影響を及ぼしている。
まあ、そんなことを思っても自分だってインスタを使っているし、好きなものをシェアするには持ってこいの道具なのであまり悪くは言えない。
だから思ったものの、口には出さないことにした。
そうやって4月は営業という新しい仕事を精一杯頑張り、ふと心に感じたことも伏せてやり過ごしていった。