女神の継承という特殊ホームドラマ
韓国ホラー映画の名作「コクソン」のナ・ホンジンが原案、プロデュースを手掛けたフェイクドキュメンタリー風映画「女神の継承」を観てきたんよ。監督・脚本はバンジョン・ピサンタナクーン。おっちゃんは過去作観たことないんやけど、タイではそれなりに知られた監督さんらしいよ。
つまり正しくはナ・ホンジン作品やないんやけど、「コクソン」の精神的後継作っぽさはあった。
以下、軽いネタバレあるんで「ネタバレするものは蔵六みたいな奇病になれ!」と思ってる人はご注意ください。どの程度のネタバレかっちゅうと、ラストにどんでん返しのある小説で帯に「ラスト、衝撃のどんでん返し!」って書いてある程度。
あらすじ
ドキュメンタリー番組の製作スタッフが女神バヤンに仕えるシャーマン、ニムに密着取材することに。ニムの家系は代々バヤンの巫女を輩出してきた家柄である。
ミンは姉であるノイの夫の葬儀に参加した際、姪(ノイの娘)であるミンの様子がおかしいことに気づく。
やがてミンの身には様々な怪奇現象が。それが「バヤンの巫女」に選ばれた際、ニムの身に起こったことと似ていたため、ミンが新しい巫女に選ばれたのではないかと考えられた。しかし、そうではなかった…。
まあ、ここまでは公式サイトのあらすじと同じ範囲なのでネタバレではないんよ。公式サイトのあらすじにある最後“彼女に取り憑いている何者かの正体は、ニムの想像をはるかに超えるほど強大な存在だった……。”ってのが既にネタバレちゃうかと思うんやけど。
ここからが感想の本編やねんけど、その前に知っておいてほしいことが
・ニムは長男のマニ、長女のノイがいる三人兄姉妹。
・最初はノイがバヤンに選ばれたんやけど、ノイはこれを拒否。服飾学校の生徒やったニムが代わって選ばれ、巫女になった。
この二つ。
んで、パッと見で良かった点が説得力のある俳優さんたちの演技。あと、要所要所に挟まれる除霊やなんかの儀式の映像的な見ごたえ。
メイキング映像での監督インタビューやと内容的には創作らしいんやけど、本物のシャーマンたちにかなり事前調査をしたうえでの創作で、小物やなんかはそうした本物の儀式の際に見たものを再現しているそうなので、作りこみの程度としてはかなりのリアリティがあるんやと思う。実際、かなりの説得力があった。特に最後の、いちばん大掛かりな儀式なんかはもう劇場の画面で観ると迫力が際立ってて、これだけでもおっちゃんには充分な満足感があったんよ。
他にもニムの家が歴史ある巫女の家系ゆうても伝統や格式があるわけやのうて、見たところむしろちょっと貧しいくらいの暮らしぶりなんは土着のシャーマンぽさがあって良かった。それと、バヤンが女神やのにデザイン的には仏像の影響すごいあるんも仏教と土着信仰の混交ぽくて好印象やったなぁ。
で、ホラー映画やねんけどこれ、特に怖くはない。むしろ地味に不快指数を高めていく感じ。ジャンプスケアなんかも絶妙にあるんやけど、これはビックリやからちょっとちゃうよね。このあたりの「ジャンルとしてはホラーやけど怖がらせるのがメインではない」っちゅうんはコクソンの精神的後継っぽかった。
それと、中盤過ぎまでは地味な展開で、終盤一気に盛り上げにかかる展開もコクソンを思わせた。コクソンも終盤までの3分の2くらいまではむしろホラーとしては牧歌的なくらいやったんよ。このあたりどの程度意識されてたかは解らんねんけど、コクソンの面影を感じ部分やね。
っちゅうわけでミンがどんどんおかしなってくんを心配な面持ちでニムと共に見守ってたおっちゃんやねんけど、途中で気づいたんよ。あ、これホームドラマやん、って。代々巫女を輩出してきた特殊な家系を舞台にしたホームドラマや。
ホームドラマってなんやっちゅうと色々あるんやろうけど、おっちゃんとしては特定の家庭や親族を舞台に、そのメンバー間で起こる事件や関係性をメインに据えたドラマっちゅうイメージや。
「女神の継承」についてもニムたち3人とミン、長男の嫁さんと息子(まだ赤ちゃん)ちゅう親族が、ミンの身に起こるオカルト現象を原動力に繰り広げるホームドラマなんよ。
そもそも姉のノイは巫女をミンに押し付けたことに罪悪感があるみたいやし、兄のマニによると姉妹はあんまり反りが合わんらしいし。それがミンの苦難っちゅう事件を通して和解したり。
クズっぽさのちょっとあるマニが事件を通して長兄として徐々にしっかりしだしたり、母親としてのノイが娘のミンを守るためにわが身を犠牲にしたり。ニムも姪を守るため、過酷な祈祷の儀式を行ったり。マニの嫁さんなんかも唯一他の人とは血のつながらない親族っちゅう微妙な立ち位置でありながら、それでも家族っちゅう難しい役割をよく果たしていたと思う。
ぜひ予告編とか見てほしいんやけど、ニムの実直で頑丈そうな外見と振る舞いも地に足の着いたシャーマン然としていて、叔母としても、こうした事態の専門家としても責務を果たすっちゅう覚悟の感じがうまく出てた。
あと、日常レベルでは「長男>長女>次女」っちゅう兄姉妹内の力関係があるんやけど、これがオカルト要素強まるにつれ、専門家にして権威であるニムの力が増し、兄姉妹の力関係が揺らいで、そこに緊張と葛藤が生まれる描写なんかもさりげなく、上手いこと描かれてた。
こうやって見ていくと、ガチオカルト的な事件に駆動されてるっちゅうんが特殊なだけで、そこで描かれてるんはオーソドックスな家族関係の物語、つまりはホームドラマなんよ。ね? どう? 観た人。ダメ?
ただまあ、全体を通して、特にホラーっちゅう「ジャンル映画」として考えた場合どうだったかっちゅうと、「よくできてるいい映画やけど、傑作かっちゅうと、うーん…」てな感じやったんよ。
ところが。ところが、や。ホンマの最後の最後。エンドロールの直前に挟まれたあるシーン。ニムへの短いインタビューやねんけど、これがそこまでの全体をグっと押し上げて傑作に昇華してるんよ。ここでねぇ、あのあれをねぇ、あいいう風に持ってくるっちゅうんは、もうね、凄いよ。あれでそれまでの全てがまったく違った色を帯びてくるんよ。
いや、人によっては逆で、むしろあれでブチ壊しやって思う人もおるはずなんよ。せやけど、おっちゃん的にはあの短いシーン一つで良作が傑作になったんよ。ここはぜひ実際に自分の眼で見て、傑作になったんか駄作になったんか判断してほしいところや。
……あー。最初に書いたやん? “ラストにどんでん返しのある小説で帯に「ラスト、衝撃のどんでん返し!」って書いてある程度”のネタバレって。
ただこの映画、難点を挙げるとしたら「フェイクドキュメンタリー“風”映画」っちゅうところ。とにかく撮影スタッフが、何が起きようと基本的にはボサッとカメラを回し続けるだけ。目の前で人が死にかけてても、緊迫した予想外のアクシデントが起きても。それも冷徹に撮影者に徹してるっちゅうよりは、どうしたらいいか解らんくてとりあえずカメラ回してますっちゅう感じやねん。あまりにもフェイクドキュメンタリーっちゅう形式の扱いが雑なんよ。
このあたり、撮影者もまた知らず知らず(程度の多少はあれ)当事者になってしまうっちゅうドキュメンタリーの基本的な構造にあまりにも無自覚やし、「コワすぎ!」シリーズや「オカルト」で知られる白石監督のフェイクドキュメンタリーを少しでも見習ってほしい。
そんな白石監督の最新作、「オカルトの森へようこそ THE MOVIE」は全国……ちゃうな。国内一部の選ばれし劇場で8月27日から公開されるので、みんな観るよね?
wowowとかひかりTVでも観られるらしいんやけど…。