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B Corpは再び求められる「家族っぽい会社」なのかもしれない

オシンテックの番頭、小田一枝です。
B Corp(後述)に関心の高い人や、認証取得企業などの有志で作ったBCorpアドベントカレンダー2023の企画の第2日目の記事として投稿しています。

オシンテックがB Corpを取ってもうすぐ2年。後に続くうちのような小さな会社さんの参考になれば嬉しいです。


わたしのとっての会社の原点

私は、埼玉県川口市の出身で、小さな町工場に生まれました。いまにして思えば、私にとっての「会社」は、父の経営するあの家族的な町工場のイメージが基礎にあるのかもしれません。

現在は故郷を離れ、兵庫県神戸市で株式会社オシンテックという小さな会社を創業者の夫とともに切り盛りしています。

左:小田真人(オシンテック代表)、右:著者

いろんな国のサステナビリティに関するデータを集める

オシンテックという風変りな名前なので、比較的よく覚えていただけるのですが、これは「おしん」×「テック」ではなく、OSINT(オープンソースインテリジェンス)とテックの掛け合わせの造語です。

Open Source Intelligence のために
誰もが一次情報にアクセスしやすくしたい、という思いのロゴです

オシントとは、公開情報から意味のある文脈を導き出す、という意味の言葉で、よく軍事の分野で使われます(たとえば複数の画像データから攻撃の証拠を集めるなど)。なので、ウクライナ問題でオシントという言葉を知ったというかたもいらっしゃるかもしれません。ですが、私たちのオシントは軍事ではなく、ルールの行く末を見極めるために使います

いま、気候変動や生態系の劣化など、地球規模の問題が次々と現れ、どこか一つの国のルールだけでは問題に対処できなくなってきました。例えば各国が、二酸化炭素の排出を減らす政策を行っていることでわかるように、多くの国で協調するといった取り組みが次第に増えてきています。

こうしたサステナビリティに関するルールのトレンドは、勘所よく対処すれば、ビジネスにおいても非常に有効ですし、環境活動などをされている方にとっても、その流れを掴むことで、周辺を上手に説得することができるようになります。また、調査研究する方にとっても、流れの速いこの界隈の情報を掴んでいくことが極めて重要になってきています。

オシンテックは、そのためのデータを各国政府や議会、国連関係機関、NGOなどが発出するテキストから集め、自然言語処理で可視化するクラウドサービスを提供しています。

オシンテックが提供するクラウドサービス「RuleWatcher」

このサービスには一部に人工知能を使っており、UNESCOの人工知能研究機関から、Gobal Top100という倫理的な人工知能の活用プロジェクト100選に、日本国内から唯一認定されています。

UNESCOの人工知能研究機関より日本で唯一Global Top100に認定されました

おかげさまで、ご利用者様も順調に増えたのですが、もっと国際動向をしっかりと把握できるように基礎力をつけたいとか、自分の考えている事業企画などに活かす方法を知りたいといったご要望を多数いただくようになってきたため、昨年から新しい教育事業「探究インテリジェンスセンター」を始めました。

オシンテックの社会人教育事業「探究インテリジェンスセンター」Website

こんな風に説明するとたいそうな感じになりますが、実際はとても少人数で運営していて、雰囲気としては、家族経営の小さなお店のような感じです。

そんなオシンテックは、2022年初頭に、アメリカの非営利団体B Labが提供する「B Corp」という認証を取得し、最近はその件でお問い合わせや取材を受けることも増えてきました。

お金じゃない、社会へのインパクトで会社を測る認証

認証なのに「A」じゃなくて「B」、ここからもう変な感じがすると思いますが、Bは「ベネフィット」を意味します。世界が経済競争で、際限なく財務的拡大を求める中、その流れに異を唱えたののがアメリカ ペンシルベニア州にある非営利団体B Lab(ビーラボ)でした。

ビジネスをもっと、よりよい社会を作っていくための力に変えるー。この非営利団体が始めたのは、社会的・環境的パフォーマンスと説明責任、透明性に関する厳格な基準をつくり、その基準をクリアした企業にCirtified B Corporationのマークを与えることで、世界に「良き会社」のムーブメントを起こしていこうという活動でした。

画像出典:B Lab Global Site

この活動に賛同した企業は米国内のみならずヨーロッパにも次第に増えて世界中に広がり、いまや、B Corpの認証企業は7000社を越えています(日本ではまだ33社(2023年12月2日現在))。

ベルリンにある憧れの会社

このB Corp認証をドイツで最初にとった、私たちの憧れの会社がありました。それは、Ecosiaという検索エンジンを提供する会社です。みなさんは普段どんな検索エンジンを使っていますか?Gooleなどが多いでしょうか。そんな名だたる検索サービスに並んでEcosiaという独特のサイトがあります。

Ecosiaの特徴は、みなさんがEcosiaを使って45回なにかを検索すると、Ecosiaに入る広告収入を原資に苗木を一本植樹する、という仕組みが働いています。

画像:Ecosia検索サイト(苗木に換算された数字がカウントされています)

私たち夫婦が2017年にベルリンを訪れたとき、Ecosiaは、わずか数十人という小規模な会社で運営され、実に質素なビルに構えていることに驚きました。こういう、規模に関係なく、きらりと光る会社を評価するB Corpの認証は、当時の日本ではまだ知る人がほとんどありませんでした。

手探りで回答した質問票

2018年に会社を立ち上げたのち、オシンテックは縁あって国連関係機関のUNOPS(国連プロジェクトサービス)の支援対象に選ばれました。

UNOPSでのピッチコンテスト(2020年)

ここで取得を勧められていたのもB Corpでした。会社立ち上げ期の喧騒から一段落した2021年、まだ日本語情報もほとんど存在しない中、B Impact Assesment(質問票への回答やエビデンスの提供、担当者からの電話応答など)を受け、オシンテックも晴れて2022年2月に認証を受けることができました(国内11社目)。

このアセスメントは、200点満点中、80点のスコアを取る必要があります。従業員(正規・非正規問わず)、コミュニティ(地域社会や取引先)、顧客、環境などに対して企業全体が及ぼしているインパクトを包括的に査定するものです。中には、その透明性のために会社内外に提示する宣言などの要件もあり、経営者の意思決定にかかわる事柄を多く含みます。

オシンテックは社会や環境への配慮をする会社としての自認もあり、B Labとの窓口を積極的に担当してくれるメンバーもいたことから、アセスメントにはさほど苦労がありませんでしたが、外部への宣言などの気づいていない部分もあり、この作業を通じて整ったこともいくつもありました。

自律分散型の組織

私たちが会社を立ち上げるときに最もこだわったのは、「メンバーが正直で居られるようにする」こと。

会社用の顔で、本音とは違うことを言い、満員電車に揺られて往復する毎日を過ごしているうちに、私が本当にやりたいことは何か、私が心地よいことは何か、というシンプルな問いにいつしか答えられなくなっていた時期がありました。このnoteを読まれている方にもご経験はあるのではないでしょうか。

幼馴染や家族のように本音で語れる間柄のメンバーたちで仕事ができる、オシンテックはそんな会社にしたい、というのが小田真人のこだわりでした。なので、この会社には階層がありません。評価制度もありません。全員に意思決定の権限があり、それぞれが複数のロール(役割)をもち、何かのおもしろい企画が飛び出せば、それをやりたい人が行っていく、そんな会社です。

どこか家族経営の雰囲気のある、素顔で働く人たちのオシンテックにとって、小規模ながらにソーシャルグッドな会社が多数集まるB Corp認証を取得したことは、とても自然な流れだったように思います。

とつぜん認知度が高まる

私たちが認証を受けた数か月後、岸田政権の「新しい資本主義」で「社会的役割を担う新たな法人を支援する法整備」がテーマとして持ち上がりました。その制度設計にむけて、内閣官房の担当官が、各地のB Corp認証企業へヒアリングに来られたことがありました。日本経済新聞なども、この動きをとらえて、何度も記事に「B Corp」を取り上げると、あちこちから「小田さんのところはB Corpを取ったんしょう?」と訊かれるようになり、大変驚きました。

認知度向上に寄与したのは、これだけではありません。長野県上田市にある古書店のバリューブックスさんが、B Corpハンドブックを発売されたことが大きく影響しています。

日本でのB Corpの認知度を一気に高めた日本語版ハンドブック
画像出典:バリューブックス

バリューブックスは、一般的な古書店とは大きく異なり、120万冊もの蔵書をインターネットを通じて販売されたり、買取を通じてチャリティに回す「チャリボン」といった社会貢献活動をされています。バリューブックスの取締役である鳥居希さんらが中心となり、B Labの理念や活動、アセスメントのあらましなどを日本語でまとめた『B Corpハンドブック よいビジネスの計測・実践・改善』が2022年6月に出版され、関心層のすそ野が大きく広がっていきました。

あったかい日本のムーブメントの種

鳥居さんをはじめとした、B Corpを支援する立場の方や、パタゴニアやダノンといった認証企業、これから取得を目指す会社の方々とは、このハンドブックが発売されるよりも前から「ステークホルダー資本主義研究会」という任意の集いを通じてかかわりがありました。おりしもコロナ禍であったため、すべてオンラインの形式でしたが、社会への良きインパクトを求める、という価値観での繋がりはとても心地の良いものです。

こうした任意の集まりのなかで、ハンドブックの監訳をされた鳥居さんや矢代真也さん、B Corp認証取得支援をされているBeTheChangeJapanの岡望美さんらが発起人となり、2023年3月にB Corpのリアルイベントを行う企画が立ち上がりました。

アメリカやヨーロッパなど、認証企業がたくさんある地域では、しばらく前からB Corp Monthといって、毎年3月に様々な催しがあります。それを日本でも実行してみようというもので、発案から非常に速いスピードでイベント「Meet the B」の準備が進行していきました。

日本のB Corp関連の有志で企画実行した初のB Corp Month

B Corpが集まる日本で最初の参加型フェアですから、できるだけ環境に負荷をかけないで実施しようと私もサステナブル資材担当を申し出て運営側にかかわらせていただきました。

そんなふうに、頼まれずとも、参加企業たちそれぞれが自主的にかかわり(費用も各会社の持ち出しです)、さながらイベントの準備は文化祭のようでした。

Meet the B(渋谷100 Banchにて)
予想をはるかに超えるお客様で入れ替え制に

神戸から新幹線に乗り、渋谷の雑踏で道を間違えたりしながらたどり着いた会場。そこには「リアル初対面」とは思えない人たちが集っていました。あったかい雰囲気のなかでトークイベントやネットワーキングが行われ、場面転換で什器を動かすなどの作業には、来場のお客様の手も借りて「B Corp企業だけが内輪で盛り上がっているようなイベントじゃなく、インクルーシブにしたい」鳥居さんの思いがしっかりと実現されていました。

夕方のイベント会場で「小田さん」と私に声をかけてくださったのは、かつてオシンテックを訪ねてくださった内閣官房の担当の方。その時とはまったく違うカジュアルな装いで仕事と無関係にいらしてくださったとのこと。現場の雰囲気をみて、すごい、すごい、こんなふうにいい雰囲気のイベントができるんですね!と感嘆してくださり、なんと撤収作業のときには会場のパネルの片づけまで手伝ってくださいました。

肩書を越えた「じぶん」として繋がる価値、良き会社の延長には、そうした仮面をかぶらない一個人のあったかい気持ちの広がりがあるように思います。

We Go Beyond

日本人の素晴らしい資質の一つに、目標へ向けて地道に努力することが挙げられます。いまB Corp認証に向けて、努力されている会社がたくさんあり、みなさん本当に素晴らしいのですが、じつは私はここに懸念していることがあります。

それは、認証を取ることがゴール化しやすい、ということ。

社会人向けの講座で受講生の皆さんにいつも申し上げているのは「メタな視点をもつこと」の大切さです。B Corpのアセスメントはたいへんよくできた内容ではあるものの、必ずしも日本の文化や事業環境に合っているわけではありません。それに、B Labとて所詮は人間の集まりですから、パーフェクトなどであるはずもありません。つまり「良い会社を測る完全な定義」など存在しないんですね。だから、私たちにとって大事なのは、良い会社ってなんだろう?を多くの場所でそれぞれの人が追求しつづけることであるはずなのです。

いま、オシンテックでは、他国のB Corp認証企業ともっと積極的につながることを企画してくれているメンバーもおり、次なる価値創造へと展開していこうとしています。

BCorpを上手な手段として、良い会社のムーブメントを作っていける、そんな仲間が世界中に広がっていくことを願っています。


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