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第11回「反論してみよう」

クリティカルリーダーのかずえもんです。前回のクリティカル・リーディングは「正しさを強く訴える文章は、気を付けて読む」ということをとりあげました。今回は、一歩進めて反論してみましょう。

まずは社説の主張を意識しながら読んでみよう

次の記事は、10月29日に起きたソウルのハロウィーン群衆雪崩に関する社説です。まずは読み進めながら、社説が主張している部分を意識してみましょう。


引用元:信濃毎日新聞デジタル(2022/11/1)
https://www.shinmai.co.jp/news/article/CNTS2022110100050

〈社説〉韓国の「群衆雪崩」 防ぐ手だてなかったのか

大勢が集まり、押し合うほど混雑する。誰もが一度は経験したことがあるだろう。

 それが度を越した場合に何が起こるか。韓国で、想像を超えた惨劇が現実のものとなった。

 ソウルの繁華街・梨泰院(イテウォン)の路地で29日夜、ハロウィーンを前に集まっていた若者らが折り重なるように倒れ、150人以上が亡くなった。多くが圧死とみられる。

 狭い場所に密集した人々が何かの拍子で倒れ込み、転倒者が雪崩のように広がる「群衆雪崩」が発生したとの見方が有力だ。

 なぜこれほど大きな被害になったのか。防ぐ手だてはなかったのか。現地では、当局の警備に欠陥があったとの指摘が出ている。

 同じような事故は日本でも起こり得る。東京・渋谷を中心に、ハロウィーンで多数の若者が繁華街に詰めかけて仮装などを楽しむ文化は近年、広く定着した。

 群衆雪崩は2001年、兵庫県明石市の花火大会の際に発生した事例が思い出される。会場と最寄り駅を結ぶ歩道橋が密集状態となり、11人が死亡した。1956年にさかのぼると、新潟県弥彦村の神社で餅まきに人々が殺到し124人が死亡した例もある。

 韓国で起きた事故を、対岸の火事で済ませてはならない。日本でもいつ起きてもおかしくないと受け止め、繰り返さないための対策を見直していく必要がある。

 現場は、幅3メートル長さ40メートルほどの狭い坂道だった。片側は大型ホテルの壁で、もう片方はクラブやバーが並ぶ。路地に入ってしまうと逃げ場はないに等しかった。

 新型コロナ対策の規制が解除され、初めて迎えたハロウィーン前の週末だ。その夜は特に多くの若者が訪れていた。一帯には十数万人が集まっていたとの推計もある。日本人は10代と20代の女性2人の死亡が確認された。

 群衆雪崩は、1平方メートルに10人以上が詰め込まれた状態で起きやすい。1人がしゃがむなどわずかな動きをきっかけに、隙間に人が倒れて広がる。いったん始まれば転倒の連鎖を止めるのは困難だ。

 有効な対策は、密集しないよう人の流れを調整する警備や現地の環境整備だろう。道の中央に歩行者の進行方向を分ける線を引くだけでも被害軽減に寄与したのではないか、との声もある。

 今回のように主催者不在で起きる市街地の混雑の場合、警察と自治体の対応が鍵を握る。人出を見積もり、現地の状況に合った計画を立てる。地道な取り組みの積み重ねが重要になる。

※このシリーズに用いる引用は、著作権法第32条に認められる範囲内で行っております。


主張はどこか分かりましたか?抜き出してみましょう。

韓国で起きた事故を、対岸の火事で済ませてはならない。日本でもいつ起きてもおかしくないと受け止め、繰り返さないための対策を見直していく必要がある。

有効な対策は、密集しないよう人の流れを調整する警備や現地の環境整備だろう。

今回のように主催者不在で起きる市街地の混雑の場合、警察と自治体の対応が鍵を握る。人出を見積もり、現地の状況に合った計画を立てる。地道な取り組みの積み重ねが重要になる。

概ねこの三か所になるでしょう。ごく簡単にまとめると、その主張は「警備対策を見直すべき」というものになりますね。

一見もっともらしいこの主張をクリティカルに見てみましょう。

反論してみよう

このシリーズの読者の方なら、この社説への反論はさほど難しくないと思います。私が思いつく反論を下に並べてみます。

反論1

「有効な対策は、密集しないよう人の流れを調整する警備や現地の環境整備」というが、例えば朝の駅のラッシュを考えてもわかる通り、都会では日常的に密集がおきており、それを調整することは非常に困難。

反論2

「今回のように主催者不在で起きる市街地の混雑の場合、警察と自治体の対応が鍵を握る。人出を見積もり、現地の状況に合った計画を立てる。」というが、そもそも主催者不在で起きる市街地の混雑をあらかじめどのように「計画」するのだろう。

書かれていないことを想定してみよう

上記のような反論を考えると、自然に相手の主張に書かれていない「例外」に意識が移ると思います。

韓国の事故のケースは、本文にあるように日本でも明石市の花火大会で起きています。このようなお祭りの群衆雪崩以外にも、ひとが密集する可能性のある場面は多々あります。

例えば何らかの災害で避難する場面や、交通機関のマヒなどがすぐに思い浮かびます。あらゆる場面に「警備」を入れ、「計画」することが現実的でないなら、一体どのような対策が考えられるのかー。

一つ考えられることは、このような「群衆雪崩」という現象が広く知られるようにすることです。

この記事にあるように、「群衆雪崩は、1平方メートルに10人以上が詰め込まれた状態で起きやすい。1人がしゃがむなどわずかな動きをきっかけに、隙間に人が倒れて広がる。」という現象を理解することは有益ですね。通勤ラッシュの電車内のような混雑が、広い空間で起きた場合に発生するイメージを多くの人が持つことによる自律性が働くことも期待できます。

あなたの意見は何?

日本人の苦手な質問の一つに「あなたの意見は?」というものがあります。提示されたものを素直に読み過ぎると、なかなか自分の意見に到達しません。

photo by Cherrydeck on Unsplash

脳内で「ツッコミ」を入れながら例外を探してみましょう。

たとえば今読んでくださっている私の文章にも、ぜひツッコミを入れてみてください。

「通勤ラッシュの電車内のような混雑が、広い空間で起きた場合に発生するイメージを多くの人が持つことによる自律性が働くことも期待できます。」

上に書いた私の文章です

これって対策になってる?これじゃ群衆雪崩そのものを抑止できないよね。そんなふうに思った方もあったでしょう。

主催者不在のイベント、突発的な災害や交通マヒ。こうしたときに発生する極端な密集。そこで起きうる群衆雪崩。これをどうやったら防げるのか。これを問われたときの私の意見は、「警備や計画で防げるものはごく限られた場面のみ。誰かが適切に管理してくれるという思考を持つより、密集場面で群衆雪崩が起きうることを知ることが最大の対策だ」です。

あなたの意見はどうですか。

クリティカル・リーディングは「意見をもつ」訓練にもなります。

ではまた次回!

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