ルールってなんだ?~個人情報から未来を予測~
私たちは個人情報保護法のおかげで、スパムメールや、ダイレクトメールの少ない、快適な生活が担保されていますね。
ヨーロッパの個人情報保護法はGDPR(General Data Protection Regulation)と言います。
2018年頃ビジネス界では、これが世界中で施行されると、大いに話題になりました。
これは、欧州流のゲームチェンジです。
またヨーロッパが勝手なルールを作って、世界をかき回そうとしている!
Google等のプラットフォーマーの支配を崩そうとしている!
確かに、そういう側面は否定しません。しかし、その理解だけでは不十分です。
大きく捉えると、本質が見えてきます。
それは、「人権」です。
まずは過去の話。何故ヨーロッパがこんなに個人情報保護法に拘るのか。
本人もEUロビイストの経歴を持つ藤井敏彦氏の著書「競争戦略としてのグローバルルール」によると、その背景は、第二次大戦期にさかのぼります。
ナチスが、各国政府に「ユダヤ系国民のリストを渡せ」と迫ったのです。
それを各国政府がナチスに渡した結果、何が起こったか。
国民の個人情報がナチスの手に渡ることにより、ユダヤ系国民だけを峻別することが容易になり、ホロコーストに繋がりました。
この反省を踏まえ、EUでは厳格な個人情報保護が、徹底されているのです。
私も、ミュンヘンのドキュメンタリー博物館に行くまで、この感覚は理解できませんでした。
内部は撮影禁止だったのですが、1940年代、時間が経つごとに、ユダヤ人に対し、
・公職からの追放
・財産権のはく奪
・一般的職業の就業制限
・学校に行く権利のはく奪
等が次々と立法・決議され、合法的に人権がはく奪されていく様には、言葉を失いました。
当時の新聞記事や、雰囲気も展示されており、皆が疑心暗鬼になっている中、分かりやすい犯人捜しのプロパガンダがいかに人に響いたか、という事も印象的でした。
個人的に、人間が正義の名の下にどこまでも残酷になる、そのために三権分立が重要という教訓を胸に刻んだ強烈な体験でした。(機会があれば是非・・・)
次に、未来の話。これからAIの時代になります。
各地にあるセンサーが、人の情報を収集し、より便利な提案をしてくれるようになります。
このような時代の「個人情報」は、第二次大戦にナチスに渡された人名、人種、職業・・・位の単純なリストとは異なり、購買記録や、趣向に留まらず、財務状況や既往歴、ひいてはDNA情報まで含むかもしれません。
その個人情報を提供することにより、便利なサービスを享受できるのです。
一方で、再チャレンジできない社会になることも懸念されています。
・持病があった人は、完治した後も、お金を借りるときに高い利率を請求される、というような事を許すべきなのか。
・一度、隣に住む有力者とのトラブルで裁判で訴えられた人は、リスク排除のため、就職時に不利になってよいのか?
・DNAにおいて、突発的行動をとりやすい(犯罪者になりやすい)傾向が見られた場合、その人の個性を大切にするという名目で、本人の希望する銀行ではなく、スタントマン等の職業の方が向いている、とお勧めする事は許されるのか?
具体的に考えてみると、個人情報は、人権そのもの。「個人情報の活用」という言葉は、程度を超えると、差別と紙一重、というのはご理解いただけるでしょう。
人類の多数が、AI(アルゴリズム)に従って生きていくという未来はすぐそこまで来ています。これに対抗出来うるものが「ルール」です。このような世界で、どこまで個人を特定できるようにするべきなのか。
個人情報保護を重視しない国のAIは容赦なく賢くなっていくでしょう。それが世界スタンダードになるかもしれません。
自国のルールを厳しくすれば、技術開発においては、他国に追い抜かれる構図になります。
しかし、その国は、我々の住みたい国ではないかもしれません。
問題は複雑で、経済と人権が天秤にかけられているのです。
私は、大切なことは、我々一人一人が、生きていきたい社会のイメージを持つことだと思います。我々が迎える未来のことまで考えると、個人情報保護法が、極めて重要なルールに思えてきませんか?
近年、人権意識は、世界中で高まってきています。もちろん、個人情報保護法の行く末は、産業界へのインパクトが大です。
オシンテックでは、RuleWatcher Proというサービスで、世界の個人情報保護法の動向をウォッチしています。ビジネスとしての本筋をとらえつつ、個人情報の未来を共に考え、良い社会に貢献していきたいものですね。そのためには、割り切らずに、観察し、一人一人が考え続けることが大切なのだと思っています。
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