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キエフの猫


キエフの街がテレビ画面に映し出されている。
そこかしこで火の手が上がり、
ビルは崩れ落ち、
瓦礫が山となって積み上げられている。

大きな荷物を抱え、行き交う人々の中に
足を引き摺る様にして歩く、一人の老婦人の姿があった。

片手に荷物、
もう一方の手には猫。
猫も飼い主と同じように年老いているのか、
あるいは病気なのか、
毛布にくるまれ、おとなしい。

老婦人は、
少し歩いては立ち止まり、天を仰ぐようにして息を吐く。
近くで爆撃の音がする。
婦人は毛布ごと猫を抱きしめ、
なにか話しかける。




酷い戦争が続いています。
毎日報道される映像が、決して映画のワン・シーンでなく
現実であることに、戦慄を覚えます。

戦禍の街を歩く老婦人と猫の姿に、
胸が痛みます。

数週間前まで、
老婦人と猫には家があり、
安らげるベッドがあったはず。

猫は餌をねだり、
婦人は「ごはんよ」と猫の名を呼ぶ――

そんな日常が

一刻も早く
戻りますようにと
願わずにはいられません。

そして
その日まで、
二人(一人と一匹)には
どうか、
生き抜いて欲しい。


そう祈ります。