例の巣窟こと重慶大厦(チョンキンマンション)は、貧乏旅人の安息地だった
ときに読者諸君、重慶大厦をご存知だろうか。
あらゆるアジアの出汁で漬け込んだ謎肉に、たっぷりの衣を付けて何日使ったか分からない酸化しきったラードでカラッと揚げたような店、宿、人々が迷宮のような超巨大施設に詰め込まれている場所。それが重慶大厦だ。
2019年3月、わたしはバックパックと自転車とともに、香港に降り立った。同行者なんていない、ただのひとり旅だ。
同年に制作&コミティア評論島に出品した自転車旅同人誌より、重慶大厦ページを抜粋して紹介する。(情報は2019年当時のもの)
旅の嗅覚、交渉術、第六感、すべてが試される場所
香港で3000円以下の安宿を探そうとすると、大抵とある地域の宿ばかりヒットするに違いない。それが重慶大厦──今回の舞台だ。
検索窓にこの施設名を入れると大抵「悪の巣窟」だとか「危険」という単語が漏れなくヒットするのだが、最初に伝えておこう。重慶よりもよっぽど新宿・歌舞伎町の裏路地のほうが危険だ(個人的見解)。
しかし重慶も決して安全ではない。言い換えれば、安全に過ごすための旅人スキルが常に試される場所と言えよう。旅の嗅覚、交渉術、対人スキルなどすべてを活かし、さあ、快適な滞在を掴み取るのだ!
改めて重慶大厦とは
ネイザン・ロードに堂々と建つ重慶大厦は、集合体恐怖症の人間がゲッソリするほどの小窓が並ぶ超大型雑居ビルだ。
巷では1994年に取り壊されたスラム街・九龍城砦を彷彿させると言われ、そこから「悪の巣窟」という異名が付いたのだと考えられる。
エントランスには中東系やアフリカ系の客引きが跋扈しており、中国語さえ聞こえてこない。魑魅魍魎を描くならこんな光景だろう、と多くのバックパッカーの目が輝く。もちろんわたしもだ。
トラブルに遭わないために徹底したこと
重慶で石橋を叩いて生きるには、
信頼できる予約サイトで事前に宿を予約していくこと。
ぼったくりには抵抗すること。
フロア最深部の怪しげな雰囲気のエリアには近付かないこと。
深夜には徘徊しないこと。
が挙げられる。
現にわたしも金銭面での多少のトラブルはあったし、「あ、これは…」という現場にも遭遇しかけたし、非常階段で幾多の血痕を目にした。だからこその自営だ。全神経を集中させて旅しようぜ。
貧乏旅人☆パラダイス
とはいえ重慶は貧乏な旅人に対して絶対的に優しい。きちんとした時間に店へ行けば、最高にうまいインド料理が食べられるし、両替レートは最良だ。多国籍の旅人と情報交換もできるし、店主のみなさんも基本的に気さくである。
結局、6日間も重慶に滞在していたわたしは、最終日になると客引きに客引きされることもなくなり、「オハヨウ」と片言の挨拶をされるまでになった。だからとびきりの笑顔で手を振るのだ。
ええ? ここが悪の巣窟だって?
違うぜ、ただの街だ。