重慶大厦の最上階激安宿は三畳弱のサンクチュアリ【世界の寝床から】
第3回は、香港・重慶大厦の安宿「デルタホテル」だ。
*重慶大厦についてはこちら↓
香港滞在の第一夜、わたしは夜の街を歩いていた。
映画で見たように、ネオンが眩しくどこもかしこも騒がしい街だ。不夜城という単語はまさにこの街を表現する言葉なのだろう。
毎晩20時(21時?)には香港島でのイルミネーションが開催され、九龍半島の南端には観光客が集まる。
無事、イルミネーションも鑑賞できたので、さあ宿に行こう。この日予約したのは、重慶大厦の最上階にある安宿「DELTA HOTEL(デルタホテル)」だ。
数多の安宿がひとつのビルに凝縮された重慶大厦は、常に旅人でごった返している。
そういえば予約時に疑問だったのだが、高層階に行けばいくほど値段が安くなる傾向にあった。「なぜだろう、高層階の方が景色も綺麗だろうし高いのでは?」と思っていたが、旅人たちとエレベーターを数十分待ち続けてようやく理解した。
本当にエレベーターが来ないのだ。
2~3機、しかも定員6名ほど、さらに配膳用大型ワゴンを無理矢理押し込む西アジア人もいる。そりゃすんなり乗れるわけがない。
ひたすら待ち、そして最終的には多少の図々しさを用いてエレベーターに乗り込んだ。日本では絶対的に経験できないルールのない世界観に、さっそく酔いそうになる。
えっ、宿の名前が違う!? ま、いっか。
16階に到着し、エクスペディアの予約画面を開いてスタッフとおぼしきイラン風の男に声をかける。すると事前に予約していた宿とは異なる場所へ連れて行かれた。
「えっ、なんか違うけど!?」と片言英語で抵抗すると、その男も「えっ、なんでや」と混乱。ふたりで金額を確認(事前決算)したところ、ほぼ金額感が一緒だったということで、そのままその宿に宿泊することに。
「ねえ、追加料金取らないでよね。もう払ってるんだからね。詐欺じゃないよね、騙してないよね、わたし払ってるからね、ほんとよろしくね?」と、しつこく言質を取り部屋を案内してもらう。
客室のロックはカードキー。扉を開くと、三畳弱の部屋に簡易ベッドひとつとトイレ兼シャワーが備え付けられている。エアコンはなし。枕元には窓があり。ネイザンロードの喧噪が部屋中に響く。日本円で3,000円/泊程度。
安宿ウォーカーは驚いたであろう。部屋に水場が付いている、そして窓がある! この2点はかなり大きい。しかも水回りは比較的清潔なのが好印象だった。結構贅沢かもしれん。
それにしても香港の宿は高い。これまで1,000円/泊ほどの宿を渡り鳥してきたわたしにとって、高級の部類に入る経験だった。
空調がない部屋には、古びた扇風機がひとつ備え付けられていた。温い空気をかき混ぜながら、モーター音が部屋に響く。窓の向こうには摩天楼、手元には温くなったビール。
異国でひとりだ。心細くもあるが、それを凌駕する喜びがある。そしてここには天井もあれば壁もあり、水場もあり、手元に酒と本がある。な〜んだ、すべてが揃っているじゃないか。
結局、わたしのサンクチュアリはこういう場所なんだ、と頷いた。