あの頃

20歳頃のわたし

よく父方のお墓参りに行っていて。

まだ父は生きてたけど
なぜかお墓参りに行きたくなる。

少しだけ高くなった場所にあるお墓は

あの頃3つ石が並んでいて。

お水をいれたバケツを持って歩いていく
その目線の先に

誰かが立っている


枯れ木のような色の肌で
髪の毛をおろし

その髪の毛はかすかな風に揺られて

息を呑んだ

「…ちよこちゃんか?」

その掠れた声は聞き覚えがあった。

「F子おばちゃん…?」

元々細くて筋張った体をしていて

わたしが子供の頃、
浮いたあばらがみえるネグリジェを血で染めて
助けを求めてきたことがあった

その時のことが一瞬で脳裏に浮かんで消えていくほどに
F子おばちゃんの体は枯れ木のように
土気色で今にも朽ちそうで。

「お墓参ってくれてんねや?ありがとう」

おばさんを日本刀で切りつけた旦那(私にとっておじさん)は
一番新しいお墓に入ってる。

「うん、たまにね」と私はこたえる。

「おばちゃん癌やねん」

顔をお墓でもない私でもない方向に向けながら
その口角は少しあがって見えたけど

目元が太陽の光でよく見えない。

やっぱり病気か…と思いつつ言葉を選びながら

「病院は…?」と聞いてみた。

「退院してきた、もう九州帰るねん。そこにおばちゃんの家のお墓があるから」

おじさんと同じお墓には入りたくない。

そういうこと。

福岡の筑豊。

私の父方のルーツはそこにある。

「ちよこちゃん元気でね」

そういいながら
髪をなびかせて私の隣をすっと抜けていった

振り返れなかった

何も言えなかった



この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?