人の心は測れない(2)
電車に乗ると思っていたよりも人が多く、座れる席がないかと見渡すと、一席だけ空いていた。ゆっくり腰をおろすと、予想だにしなかった深いため息が漏れた。この頃、就活でメンタル的にやられていたのだろう。
この電車に乗るのも残り1年もないと考えると感慨深いものがある。しかしながら、4年目とはいえ情勢的に1年と半年ほどしかキャンパスに通っていない。最も、バラ色のキャンパスライフとは程遠い生活だといえる。
ぼんやりと物思いにふけっていると、妙に幼い声が聞こえた。おそらく小学低学年くらいだろうか。制服を着用している点、私立に通っている子なのだろう。こういう子らが将来社会を支えるのか。希望ある未来に敬礼。
聞き耳を立てるつもりは毛頭ないのだが、よく通る声であったためはっきりと聞こえた。
「そういえばきょう、せんせーがあぶないひとにはついていかないようにっていってたんだ。みみにたこができるほどきいているよ。」
ほう。さすが私立校在学少年。耳に胼胝ができるという言葉を使いこなすとは。
肉体的に疲労が蓄積しているせいか、微睡みの淵へと意識を踏み入れることになった。
気が付けば、駅はすぐそこまで来ていた。乗り換えをあと2回もしなければならないと考えると少し気が遠くなる。なぜ一コマの講義のために往復3時間かけなければならないのかと。
もう21世紀だろう。22世紀の猫型ロボットがいてもおかしくはないだろうに。どこでもなんちゃらを貸してほしい気分だ。
あくびを噛み殺しながら電車を降り、人の流れに沿って右手に広がる階段を上る。一段一段が重く、足が思うように上がらない。上るごとに脚に鉛が付加されていく感覚さえ覚えた。
やっとのことで上り終えると、改札は少し歩いた先にあった。
改札を通り抜け、狭い渡り廊下を渡る。突き当り右手に見える階段を降りると、乗換駅のホームがある。目的地まで足を進めた。
その後、電車に揺られること約20分。そして乗り換えて10分弱。
ようやく、ゴールが見え始めた。あと一回乗り換えればと、アニメをイヤホンで流しながら足を動かした。改札を抜け、駅構内の開けた場所を歩いていると二人組の男に声をかけられた。
時刻は17時32分————
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