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初めて、海外へ行こう #1

 友人が数日後に初めて一人で海外旅行へ行くと言った。彼女は海外に行くのは二回目。まだ心配なので、他に友人を誘ったがその人は予定が合わず、結果一人旅になったらしい。いつ行くのか聞いてみると、8月18日からの数日間、たまたまその期間は空いている。
「もしかしたらこれは、創造神の与えてくれたチャンスかもしれない」
はやる気持ちを抑えながら、彼女の話に耳を傾ける。

海外コンプレックス

 海外に行ったことがあるのは生後まもない頃のみで、何も記憶がない。家族や友人が海外へ行った話を聞くたびに羨ましくてしょうがなかった。いろんな本に若い頃は旅をせよ、海外へ行けと書いてあって、うんざりもしていた。待てど暮らせど海外へ行く機会は来ず、一歩踏み出す勇気も持てず、拗らせた海外コンプレックスを持つに至っていた。インスタグラムで海外の写真を投稿する人や、体験談で留学や海外旅行の話をする彼らを見ながら、
「なんで海外に行っただけでエラソーな態度をするんだ。海外に行ったからなんだっていうんだ。グローバル化だの異文化共存だの…」
ぶつぶつと。僻みが募っていたのはもちろん、心から不思議だった。みんながいう海外の力とはどんなものなのか、本当にそんなものがあるのか。身近な世界の良さを対してわかっていないやつの妄言のように思えて、気に食わなかった。
 そう思っても、僕はどこか憧れを捨てられなかった。初めての海外旅行、で検索をかけた回数は数え切れない。おすすめの場所上位ランキングたちは暗記してしまった。海外に行ったことのある人には、海外に行くのがどんな感じなのか毎回聞いていた。英語にしがみついて、実力に合わない英語コースに入って先生に自主脱退を勧められたり、TED talkをコソコソみては自分が世界に通用しているような気分に浸ったりしていた。

「こんな状態じゃダメだ!試しに海外に行こう!」

そう自分を奮い立たせて、パスポートを取った。休みの期間はまだたっぷりあって、その日から予定を立てれば海外へ行けた。お金も、派手に遊べないが数日なら大丈夫そうなぐらいにあった。気合も十分だ。
…でも行けなかった。行ったことのない海外という地に一人で旅立つ勇気がどうしてもなかった。僕は持て余した勇気で、行ったことのなかった九州の地、福岡へ一人旅をした。

千載一遇のチャンス

 そんな僕が彼女の話を「神様の与えてくれたプレゼント」のように感じたのは、想像に難くないだろう。時間がある、パスポートもある、お金もある、最低限の英語能力もある、飛行機に乗った経験もある、一人旅の経験もある、海外旅行への知識もたくさん聞いたことがある…。足りなかったのは勇気だ。そして幸運なことに、今その勇気さえやってきた。海外経験のある友人が、今目の前にいる!
「ねぇ、その海外旅行、今からでも一緒行けないかな?」

元から一人旅に少し不安を持っていた彼女と、一人は怖いけど海外に行きたい暇人な僕との需要と供給はマッチし、話はどんどん進んでいった。

 話を聞いた次の日の朝、熱が冷める前にひけないところまで行ってしまおうと思い、考えるのをやめて予約をとった。彼女はツアーではなく個人で飛行機と宿を既に取り、日によってツアーのようなものを組み込む形で予約していた。そのため、合わせるのも簡単だった。僕も同じ時間に旅立つ飛行機を往路で買い、ホテルやツアーは2人用にできないか友人に頼んだ。
 わずか2時間足らず、カード会社から飛行機代の支払い完了の合図を受け取り、僕の初海外旅行が決まったのだ。

 ふぅ、と一息つく。そこで疑問が浮かんできた。
「僕は、いったいどこの国に行くんだろう」
とにかく同じものを取れればいいと考えていたので、そんなことを調べていなかった。目的地は人が設定していたので、僕はその手法にがむしゃらにしがみついただけ。話で何度もその国の名前を聞いたはずだが、あまりわかっていなかった。思考に余裕が出たので、改めて調べてみた。
 えっと取った飛行機に書いてあるのは…HAN?これが飛行場の名前かな?Google mapで調べてみるか。HAN…ハノイ国際空港。ハノイってなんだ?とりあえず地図を広げたみてみよう。どうやらそこまで遠くはなさそうだ、アジアらへんだろうか。世界史にも地理にも疎いから、これがどの国かわからないな、名前で普通に調べてみよう。
「ハノイ国際空港、所在地は…ベトナム?!」

 そんなこんなで、ベトナムってなんだ?という場所からスタートした、僕の初めての海外旅行のお話。


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